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『運命の分岐点壱』

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 その日は閉庁となり、俺は帰宅する前に職員玄関を影からこっそり見ていた。塚田さんがちゃんと帰るか確認の為だ、今回はどうしてもハッピーエンドを皆に迎えて欲しい……
 しかしさっさと出てこいや!! 閉庁からもう一時間も立ってるんだぞ! クッソ寒いわ! 頭にきたので守衛室から市役所内に入ろうとするが、守衛に止められるよりも早く神気で眠らせた。どうせあの部屋だろう、場所は分かりきっている。電話を一本掛けて真っ直ぐに部屋へと向かう。
 目的の小会議室に灯りがついている、もう面倒くさいのでドアを蹴破る。
「引き籠もってないで出てこいやぁ!!」
「きゃあああああ!!」
「なっなっなんですか! どうしてここに! しゅ守衛さんは!?」
「帰れって言いましたよね俺? 一応年上だから言わせてもらいますよ」
 胸ぐらを掴む
「いっいや! やめてください!! 酷いことするつもりですか!?」
「年長者の話はちったァ聞け! 行きますよ!」
「えっ?」
「とっとと帰るんですよ! ついて来い!」
 そのまま市役所から塚田さんを引きずり出し、呼んでおいたタクシーに塚田さんを投げ込み俺も乗ると運転手に目的地の住所を告げると車が走り出した。
「何でヤガミさんが私の家の住所を知ってるんですか!!」
「五年後になればわかりますよ! ……多分」
「はぁ!? ちょっと説明して下さい、私の頭がついていけないんです!」
 少し強引だったがこれで歴史を変えることが出来るはずだ。
「ヤガミさん! アナタは『呪い』について何か知ってるんですか! 教えて下さい!」
「明日になれば分かりますよ!」
「あっあれ……何かしら……いえ……そんな、でも……」
「どうかしましたか?」
 塚田さんが考え込み始めた。
「ヤガミさんと何だかこんなやり取りをした事があるような……」
「ないですよ」
 食い気味にキッパリと否定したが……塚田さんの質問に正直言って鼓動が跳ね上がっていた。無理矢理歴史を変えようとしたせいか? そんなまさか……俺が記憶を持って遡ってきた事の弊害か? 取り敢えず明日の事を考え、だんまりを決め込む。
 塚田さんの家へと車が到着すると運転手に待ってもらい俺も車を降りる。
「さっ行きますよ」
「私の家ですよ!? 何で付いてくるんですか」
 返事もせずに塚田家のインターホンを鳴らす、若い男の声がする。
「どちら様でしょうか?」
「ど~も! お宅の奥様を連れて参りました!」
「はいぃい!?」
 家の中からバタバタと足音が聞こえてくると勢いよく玄関が開けられる。
「京子!!」
「アナタごめんなさい……」
「塚田さんストーカーに襲われてるんですよ……」
「へっ?」
 塚田さんの背中を旦那さんから見えない様に突っつく。
「えっえっとそうなの……こちらのヤガミさんに危ない所を助けてもらって」
「という訳で塚田さんはさっさと中に入ってください、旦那さんには話がありますのでこちらへ……」
 塚田さんは不安そうに中へと入って行く、よし! この旦那さんもどうにかしなきゃいけない……何か今回はやる事が多いな……アイツら覚えてろよ!
「旦那さん……塚田さん、とても美人ですよね? 色々と人気者なんですよ? しっかりと見てあげて下さい」
「見ているつもりですが……」
 真面目で優しい性格な人だった筈だ
「娘さんを可愛いがるのは良い事ですが、貴方の奥さんなんですよ! しっかりと今日は塚田さんと向き合ってあげて下さい」
「じゃないと取り返しのつかない事になります! 良いですね! じゃ帰ります!」
 そう言うと旦那さんを家の中へと押し戻し、タクシーに乗ろうとすると後ろから声をかけらた。振り返ると塚田夫妻が揃って立っていた。心なしか塚田さんの表情が柔らかい
「何か?」
 旦那さんが近寄ってくる
「ヤガミさん、妻を助けて下さりありがとうございます。これタクシー代です! 受け取って下さい」
 黙って受け取ると、旦那さんが小声で
「今夜、妻と話し合って見ます」
「しっかり抱いてやんな……」
「はい!」
「塚田さん! 明日も開庁迄には、市役所に向かいます! 良いですね?」
「分かりました!」
「これ明日まで貸しておきます、絶対に返してくださいよ」
 神気を込めた結晶を渡した
「御守ですよ、それじゃまた明日!」
 頭を下げるとタクシーに乗り込み塚田家を後にした。

 ふぅ~疲れた初日からこんだけ動くとはなぁ……塚田さん上手くいくといいな。実際問題として取り返しのつかない『結果』が幾つかあったのだ。
 さて明日は何をしたっけ? 取り敢えず朝一で市役所に行くか。あぁ……そう言えば旦那さんから受け取った封筒があったな。開けると五万円も入っていた事に驚愕したままアパートへと着いた。

 俺は既にニンゲンでは無い、独身の独り身だった。守り失うべき家庭はないだが、大切な両親がいる妹夫婦もいる。家族はいるのだ、しかも妹夫婦には双子の姪っ子までいる年齢も14歳『呪い』に最も近い年齢だ。今回も最後迄護るよ……

 風呂に入り体を温めてみる、ニンゲンの身で改めて風呂の有り難さが身に染みる。体はしっかりと温めた。
 明日の予定を思い出す途中、久し振りに実家には連絡しなければならないと思い、電話を掛ける。
「もしもし八神ですが」
「あぁ俺オレ」
 電話をかけた相手は父親だ。暫く仕事で実家には顔を出せない事を伝えたが。
「お前が?」
「うんだから暫く実家には顔を出せない」
「大丈夫なんか? お前は……」
「大丈夫だってちゃんと市役所にも話をしてあるから」
「あんまり無理するなよ、忙しくてどうしようもなくなったら力を抜けよ。そうすれば大体何とかなるから」
「あぁアドバイスありがとう!」
 そうだよこの時あの場所に気付くんだよ
「あのさ俺が小学生の時一緒に登った山だけど……」
「ありがとう参考になったよ、じゃあまた電話するよ」

 父親との電話を切る、親より先に死んだ事を思い出す……ごめんね親父。
 気持ちを切り替える、よっし明日朝一番で市役所に向かうと決めて眠りについた。

◇ ◇ ◇

 彼は私にこんな結晶を御守と言って渡して帰って行った、何故だろう……こんな事があった様な気がする……分からない……
 夫が呼んでいる我が家に帰る。娘を寝かしつけるとリビングで夫が私を抱きしめてきた。そこから久し振りに沢山話しこんだ、娘が産まれてから私に気を使っていた事が大半だった。謝る夫を抱きしめてキスをすると寝室へと二人で向かった。

△ △ △

翌日

 なかなか寝付けず寝不足気味だ、いや別に寝なくても良いんだけど。ニンゲンの身は不便極まりない。だが生きているからこその喜びもある、今を生きるニンゲンそれを護りハッピーエンドを目指す! 一人を除いて……
「でもね……そりゃあぐっすり眠りたいでしょ」
 ボソッと独り言を良い出かける支度をする。朝食何て気分じゃない、コーヒーで済ましアパートを後にする。今日もよく降る、せめて空ぐらい晴れて欲しい気分が重くなる。だが昨日は運命を変えたと思いたい……と考えている内に市役所についた。
 何時もの健康福祉課へと向かい塚田さんを探したがいない……まさか……いや大丈夫だ。神気を込めた結晶を渡したんだ。職員に訊ねる。
「今日は寝坊したらしいですよ、さっき電話がありました」
 思いっ切り肩透かしをくらう。待てよ……それならば良しだ上手く行ったか?
「じゃあロビーで待っていますと来たら伝えて下さい」

 小一時間程ロビーで何本目かの缶コーヒーを飲んでいると塚田さんがやって来た、謝罪してくるがどこか雰囲気が違う。
「おっおはよう御座いますヤガミさん! ごめんなさい寝坊しちゃって」
 ふ~んこんな可愛い顔するんだ? もしかして……
「昨晩やっちゃいました?」

バッシーン!!
フルスイングで左手が頬を振り切っていく本気で痛い、これで死んでもし神の座に戻されたら……アイツらキレ散らかすだろうな……

「ほっんっっっとうにヤガミさんアナタって人は!!」
「どうして何時も余計な事を言うんですか!! はいコレ返します!!」
結晶を受け取り中の神気を確認する。ほぼ空だった、お務めご苦労様でした。体内に結晶をしまうと。
「すいません……悪気は無いんです……」
「まったく……あれ? ……まただ、こんな事が……」
「ないですよ! そんな事より出かけましょう」
 取り繕う様に言う、何だ塚田さんに何が起きている? こんな時アイツなら何かしら気付くんだろうけど……

「三十分で支度しますのでこのまま待っていて下さい」
あっ今日は遠出するんだ!
「塚田さん! 車出せますか?」
「市役所の軽バンなら用意できますが?」
「なるべく4WDでお願いします!」
「分かりました手配します」
 三十分後、塚田さんは手際よく車を手配してくれた。
「運転は俺出来ないので宜しくお願いします」
「そうですね、ナビゲートお願いします。その前に朝食を取りましょう、私奢りますので」
 この身は別に食事を必要としないが……とにかく英気を養うのは大切だと自分に言い聞かせ

「すぎ屋でお願いします!」
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