市霊払い

美味しい肉まん

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消えて産まれる編

『そして立ち上がる』

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「断る」

即答した

一瞬の静寂の後

「はぁあああああああああ!?」

女神の怒りの声が部屋に木霊する

そしてほら来た
両の頬を挟み込むようにヒエとヤエにビンタされた。ナイスカップル!

予想通りだ、あまりの痛みに涙が溢れる。


そして俺は、ヘタれた。

「さっき言われたように俺にはもう力何て、何も無いんだよ」

「ヒエとヤエがその姿にならなければ俺には分からなかったんだぞ!」

「だからっ…」

そこまで言おうとすると

バッチーン

追い討ちのビンタをされた、塚田さんに
俺は情けなく尻餅をつく

「分かりました八神さん、貴方の力がなくなった事は理解しました」

「ですが!あの時の私達を助けてくれた!女神様さえも救った、そんな貴方は何処に行ったんですか!!そんなヘタレだったんですか?」

そうは言われても

「塚田さん、俺さ今必死に働いてるんだ、向うべき方向が変わったんだよ。自立する為にね、分かるでしょ?職員なら俺のしてる事の大事さを、だからもう…」

その言葉に嘘は無い、女神が黙っている

ギリッと歯が軋む音が聞こえた

「貴方が、きちんと就労し保護を抜けたい気持ちは充分に分かりました、ある意味では私も嬉しく思います、ですがこの前の様に事態が悪化してしまう前に何かしら手を打つべきでしょう!!」

「京子、もう良いよ私達が健に頼もうとしたばっかりに、健にも新しい生活が有るんだよね、人間社会の事は良く分からないけど…」

ヒエの顔が暗くなる

やめろよ、そんな顔しないでくれよ。俺にも生活が有るんだよ

「分かったよ健、迷惑かけたね。ヤエ行こうか」

「お待ち下さいヒエ様!」

塚田さんがヒエ達を引き止める
そして俺の胸ぐらを掴み立ち上がらせる、そして真っ直ぐ俺の目を見る
俺は、目を背ける

「今だから正直に伝えます、貴方が最初に私の呪いを解いてくれた時、本当に嬉しかった。私は、こう見えて小心者なんです!」

俺だってビビりだよ

「ですが救ってくれた!良いですか貴方が救った者の中には私と家族!それに衰弱し死を待つしかなかった人達とその家族!他にも他にも…一杯助けたんですよ…貴方が思っている以上に…」

塚田さんが泣いている

そんな顔しないでくれよ頼むよ、ヒエもヤエも

くっそ何なんだよ!何なんだよこの気持ちは!

「俺っ…」

自然と何かを言いかけた瞬間

キッと俺を睨む塚田さん、そして…

「京子!ちょっと待って」

ヒエが塚田さんに耳打ちをしている

「…と思うの、…だから…」

何かコソコソと伝えている

ヒエのやつ俺の心を…

「なるほど大変良くわかりました」

そして何時もの顔に戻り

「八神さん貴方、私達と関わると就労先を無くし、生活保護に戻るのを怖がってたんですね」

それは俺の本心だった

塚田さんは胸ぐらを掴む手に更に力を入れ

一際大きい声で

「八神さん、今すぐ臨時職員になりなさい!拒否権は認めません!即刻、今の就労先を辞めてください貴方は今から市の臨時職員です!」

「お給料替わりに、生活保護を継続してもらいます、その代わり毎日出勤!休みは状況次第で」

「それって休日ないんじゃ…」

「文句言わない!きっと今の市長も認めてくれる筈です、貴方の功績は伝わっていますから」

「良いですね!!」

俺の心を縛る枷をヒエ、もしかしたらヤエにも見えてしまったのだろう。

塚田さんの呼吸が荒い、返事次第では噛み付いてきそうな狂犬だ

「じゃあかんがぇぶへぅ!」

ビンタされた今日何回目だ?

冷たい目で塚田さんが俺を見下ろす

「さぁ今すぐに派遣会社に連絡なさい、私達の前で!」

「さっきの話は本気何ですか?」

「本気です!さっき採用が決定しました」

小さな声で
「私の中では」

おい聞こえてるぞ!?

しょうがない心を決めた、ヒエとヤエが微笑んでいる

「やりますよ!やればいいんでしょう!前みたいに!」

「その代わり、事態に対する俺の方針は、慌てず急がず正確にで対応させて貰いますよ!」

俺はそそっかしいからな

「結構です!」

3人共にいい笑顔してやがる、上手く嵌められた気もするが、市の臨時職員として働くと考えれば自分の心も納得する、というか納得した。

その後、派遣会社に電話してまごついていたら、塚田さんにスマホを取り上げられ

「もう彼は、そちらの会社とは金輪際関わりたくないそうです!」

と言い放ち通話を一方的に切った、オイオイ俺のこの先大丈夫なんだろうな?

「心配しなくても大丈夫よ」

ヒエが言って近づいてきた

「良い方向に向かうわきっと」

これからまた得体のしれないものとやり合うかもしれないのに?

「その先よ、死んだら私とヤエの小間使いにしてあげるから」

ふざけんなよ

「俺は、死なないよ死んでたまるか!」

そこまで話すとヒエが

「それで良~し!じゃあさっきの話の続き良いかしら?」

「あぁ頼むよ」

「京子地図ある?」

「はいこちらに」

地図を見ながら、ヒエとヤエが話し込んでいる。どうやらおおよその位置を、探っているのだろう

「塚田さん、さっきの臨時職員の話信用して良いんですね?

「当然です、貴方には全力で事にあたって貰いたいですから」

「了解です」

するとヤエが俺達を呼ぶ

「ここよ、ここにまだ弱いけれど綻びが感じられる」

地図の1点を指差す、そこは村松に流れる早出川に隣接した河川敷公園だった。

「私の力の1つに探知系の能力があるの、今のこの姿では、そこまでハッキリとは見えないけど」

ふーんそれでも充分に凄いと思うが、あてもなく探せと言われるよりマシだ。

「で?どうするんだ?今から向かうか?」

「いえ、もう暗くなり始めて来ています夜は不利になるかと思いますが?」

どうするか塚田さんと思案してると。ヒエが

「まぁ今日1日で、どうにかなる程の力じゃないから、明日の朝向かうと良いわ!晴れるように祈祷しておいてあげるから」

お前等は来ないのか

「私達に何かあったらどうしてくれるのよ?」

「でも、明日はヤエが同行するわ、本当は私も行きたいけど。ヤエの能力なら、近づけば更に感じられるから」

「お前はどうするんだよ、愛しのヤエとは離れたく無いんだろ?片時もさ」

ヤエの手を握りながら

「それは勿論よ!片時だって離れたくないわよ、でも明日愛宕山のお社で祭事があるのよ、だからどうしてもそっちに行かなきゃならないの」

思ってたより大変なんだな神様ってのも

「だから、もしヤエに何かあったら守ってちょうだい。これは命令とかじゃなくて、お願い」

「分かったよ、アンタの大切な人なんだろ任せとけ!」

「じゃあそういう事で、また明日」

帰ろうとすると塚田さんに言われた

「逃げないで下さいよ?」

「そっちこそ、臨時職員の話ちゃんとして下さいよ?」

「勿論です、なるべく早く良い報告ができると思います」

「なら精々頑張るとしますか!」

そう言えばヤエとヒエはどうするのだろう?

「なあ、二人は今何処に住んで?居るんだ」

「私達は元々あった神の座へと戻ってるわよ?」

「私は日枝神社、ヤエは八幡神社にね」

「でも良くお互いに泊まりに…」

「もう良いよ、拗らせている惚気話なんて聞きたくない」

明日の9時に市役所で集合となり、解散となった。驚いたのは別れを告げた途端に二人の姿が見えなくなった事
そして俺には見えなくなった二人と塚田さんが、普通に会話をして別れの挨拶をして何か拾っている事だった。

「塚田さんには見えているんですか?」

「前回の事件以来、不思議と見える様になったんですよ」

「色々と…」

それはそれで苦労している様だった。

「では明日お会いしましょう八神さん」

「分かってますよ、じゃあまた明日!」

そう言い俺は、自宅へと向った。
なるようになるか、それとも今度は…
考えていても仕方がない、俺は帰り足を早めて帰宅した。



翌日、時間より少し早めに市役所に着く
まだ誰もいない、俺は綻びについて考えていた、一体どんなものなんだろう?ヤエもハッキリとは分からない様子だったけど、またこの土地に何か起きるのか?
今の力がない俺にどこまで出来る?

考えていると塚田さんがヤエと一緒にやって来た

「おはよう御座います」

「あれ?ヤエと一緒に来るなんてどうかしたんですか?」

「少し事情が有りまして…」

「京子!それ以上言う必要はないわよ」

「わかりました、それでは車へどうぞ」

以前の事件で活躍した軽バンへと乗り込む。

向かう場所は、ここから車で30分ほどで着く距離にある。
運転手は勿論塚田さんだ、俺には運転ができない。塚田さんは車を走らせる、ヤエは移りゆく景色を興味深そうに見ている。

「珍しいのか?」

「うん、この姿で見る街も新鮮ね。でもちょっと寂れちゃったな、私達のせいでもあるんだけど」

「気にすんなよ、こうなったのも一部の人間の傲慢さが招いた事だよ自業自得さね」

「だからヤエ気にすんな」

「ありがとう」

「そう言うのも良いから」

程なくして現場へと着く、開口一番

「普通に花見客居るじゃん」

河川敷公園には、桜も咲いている少ないが遊具もある。

「本当に?」

聞いてみる

「取り敢えず車から降りましょう、少しこの公園おかしいです」

「どうなんだ?」

ヤエに聞いてみる

「京子の言う通りよ行きましょう」

公園に降りて見るが、俺には何も感じなかった。しかし二人の様子がおかしい

あっちでもないこっちでもないと話し合っている、するとヤエは地面に手を付ける
少しの後

「こっち」

何か見つけたらしい、後を追いかける

「何だこりゃ!?」

そこには変な顔が彫られている像が地面に突き立てられていた

「綻びってこれ?」

指を差す

「八神さんには感じられ無いでしょうが、微かに瘴気が薄っすらと見えます」

ヤエは露骨に嫌そうな顔をしている、そしてこう言った。

「ここ霊脈が通っているわ、恐らくこの像がそれを遮り、穢に変えて土地に流している、そんなところかしら?」

「考えたく無いんだけどさ、これって人間がやったって事?」

「他に考えられる?」

「私もヤエ様と同意見です」

二人が像について意見交換を始めた、俺は蚊帳の外である。
どうせ何も感じないし別に良いけどね!

うん!?待てよ、逆に考えようどうせ何も感じなければ、俺があれを引っこ抜いて破壊でも何でもすれば良いのでは?神様のこともまともに認識出来ないんだ別に良いだろう

俺は像へと近付くと

「ちょっとあんた近づくんじゃないわよ!」

「へーきへーき」

「ちょっと八神さん!?」

「ダイジョーブ」

像を地面から引き抜き、力の限り

「クソがよぉーーー!!!」

そう言いながら叩きつけた


見事に砕け散る

「ふぅスッキリした」

念の為、バーベキューをしていた花見客から掃除道具とライターを借り、ビニール袋を貰ってきた

破片を集め袋に入れる。

「これでよし!」

「良し!じゃないこの馬鹿!後先考えなさいよ!呪われたらどうすんの!」

欠片の入った袋を差し出す

「どう?何か力残ってる?」

「無いけど…うん?」

「どうかした?」

「微かに何か残ってる」

「じゃあ燃やそう」

欠片の入った袋にそそくさと火を点ける

「八神さん!焚き火は禁止ですよ!」

「まあ堅いことは抜きで」

燃え尽きるのを待って、その灰を集めて川に流した。

「どうだ霊脈の方は?」

「うん大丈夫!流れは元に戻った」

「塚田さん、気配とかそう言うのは?」

呆れながら

「貴方が叩きつけて砕けてから何も感じません」

「ですが…人間の手によるものだとすると」

「嫌な予感がします、もしかしたらまた…」

「いったい何処のどいつなんですかね?」

はた迷惑な話だ、見つけたらハッ倒す

「さあ帰りましょう帰りましょう!ヤエももう良いよな?」

「うっうん」

車に乗り込みその場を後にした

その時、俺達の様子を見ていた者が居たことには気付いていなかった。


翌日、昼頃に塚田さんから電話があった

「今から市役所に来てくださいお話が有ります」

返事もそこそこにし市役所へと向った、塚田さんに連れられて市長室に入る

「お連れしました八神さんです」

「その節では大変お世話になりました八神さん、改めて御礼申し上げます」

「いやそんな…」
謙遜する

「塚田から話は、伺いました何でもこの街を厄から護りたいと」

「えっ!?まっまぁそうですね…」

「臨時職員としてだけでは無く、どうかこの街を厄から守って頂きたい。私個人としてもお願いします」

「御期待に応えられるか分かりませんが、まぁ頑張ります」

市長と握手を交わす、そして証明書を貰う

そこにはこう書いてあった

『五泉市市役所
 健康福祉課 市霊払い担当
         八神健』

それを受け取り市長室を後にする

「塚田さん何ですかこれ?死霊じゃなくて何で市霊何ですか?」

「この市を脅かす霊の事を、そう名付けました」

「ダッサ…」

「私が名付けたんですよ」

笑顔が怖い

ともかく俺は塚田さんに向かい

「これからよろしく」

「えぇよろしく八神さん」

握手を交わした。


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