上 下
55 / 78

女だらけの社員旅行その3

しおりを挟む
「どうして茉希がドヤ顔してるのよ?」
 ヤエが笑顔で聞いている、きっと嬉しいんだろうな。
「初めてじゃないからね! でも前来たときより更に良くなってる!」
 流石元は育ちの良いお嬢様だったはず、今は見る影もないが……無くもないけど
「おーい取り敢えず戻ってきて座って」
 おっと社長がお呼びだ! 4人で戻ると改めて座椅子に座ると
「さて改めてはじめまして、八神君の上司で社長の伍堂愛です」
 そう言うとサングラスを外して頭を下げる、顔をあげると俺達をじっと見つめている。
「良い家族だね……八神君」
「はい……『皆』俺の大切な人達ですから」
 俺と社長の間に少しだけしんみりとした空気が流れ……
「あの……伍堂社長? 失礼ですが何処かで……お会いしたことは?」
 ハイキタ! やっぱりヤエか!!
「うん知ってるよ、何度もあってるかな?」
 おぃい……イキナリ大丈夫なんだよな?
「アタシ独り暮らしだからさ、よく惣菜買いに行ってるよ!」
「あっ! お客様だったんですね!」
「もう常連だよ! 今度サービスしてね!」
「はい! 今度は声を掛けてください!」
「オッケー!」
 すっげぇそう来たか! ヤエは納得したようだ、ホッとして横を見るとヒエは饅頭を茉希ちゃんと食ってた。
「ヒエ! お前は食ってないでお茶でも淹れろ!」
「アンタが淹れなさいよ、私と茉希は今日も新聞配達してきたんだから」
「うっ……」
「お願いね八神君!」
「わかりましたよ……」
 五人分のお茶を淹れてテーブルに置くと、俺の分の饅頭は既にヒエに食われていた……

 暫く寛いでいる様子を窺っていると、もう4人が打ち解けあって談笑をしていた。そりゃそうだよね、もともと『茉希』ちゃんだったんだもん社長……積もる話もあるだろうさ、バレないようにやってね……俺は邪魔にならないように窓際のソファーに座りお茶を飲んでいた。すげえ眺望だなぁ最上階コーナースイートルームいったい幾らなんだろう宿泊料金? そんな事をぼんやり考えていると
「おーい八神君?」
「へっ?」
「ぼ~っとして話聞いてた? 18時に夕飯だからね」
「はぁ……良いんじゃないですか?」
 いつの間にか4人は浴衣姿だった、あれ? 俺はもう気にもされてない?
「それまでアタシ達女子組とは別行動ね」
「温泉だからね、一緒には無理だね……うん! わかった勝手に過ごさせてもらうよ」
「きゃっほー! 早く行こうよ! アイ社長!」
「温泉!」
「アナタまた後でね!」
「さぁ温泉とエステだー! アタシの奢りだ! 女を磨こう!」
 エステ!?
「社長! ちょっとまって! エステって大丈夫何でしょうね!」
「そんなの経費よ経費!」
「そこじゃないよ!」
「大丈夫! 信用ないなぁ? もう行くよ、皆アタシについておいで!」
 社長見てくれだけなら? 茉希ちゃんの10年後の姿だから、身長も違うし気付かれないかもだけどさ、お腹の傷痕どうするの……まっでも俺には何の責任もないからいいか。
 そう考えると1人寂しく男湯に向かった。

△ △ △

 
「という訳で皆さんにはエステも予約しておいたよ!」
「『えすて』とはなんですか社長!」
「ヒエさん、とっても気持ち良くてツヤ肌になりたくない? いっときだけでも……」
「はうっ!」
 師匠を1人残して部屋から出ると、3人を引き連れて先ずは女湯へと向かう。ヒエが浮かれているのが分かる、そこに寄り添うヤエの姿を見て少しだけ涙が溢れた。
「アイ? 大丈夫?」
「えっ? 勿論! 大丈夫!」
 昔の自分に心配された……ちょっと複雑な気持ちになる。小声で
「お風呂場では手筈通りにね」
「別にバレても良いんじゃない?」
 昔のアタシはこんなにも考え無しだったかなぁ……もっともこの旅行を計画したのはアタシ達だけどさ
「でも健にはちょっとだけ悪いわね」
「本当に良いんですか? 社長さん、私達……」
 いいに決まってる、形はどうあれアタシをもう一度会いたい人達に合わせてくれた張本人なのだから。
「男の事は忘れて楽しみましょう!」
 1階まで降りて女湯の暖簾をくぐると温泉独特の匂いが濃くなる。ヒエとヤエは初めての匂いに戸惑っているようだ。
「温泉は初めて2人共?」
 顔を見合わせどう答えようか考えてるようだけど
「実は……」
 ヒエがポツリと呟いた、そっか~元女神様だし……まっいいか。
「取り敢えず脱ごうか! アタシちょっとあっちに用があるから先に行ってて! 茉希ちゃんヨロシク!」
「オッケー! ヒエ、ヤエこっち来て!」
 ふぅ~さてと! ちょっとだけ離れたところから3人が浴衣を脱いで浴場に入っていくのを確認すると。
「うっし! 脱ぐか」
 浴衣を脱いでお腹の傷痕を擦る、コレばっかりは消えない……アタシの魂にも共に残った傷痕か、さてとタオルで上手く隠して行くか!
 浴場に入るとヒエとヤエが固まっていた。
「どっどうしようアイ! 2人共ビックリして固まっちゃった!」
「まぁ初めてだからねぇ、あのアパートの風呂しか知らないんだろうさ」
「そうかなぁ?」
「ほらっお二人さん! 先ず身体を洗うよ!」
 茉希が2人を引っ張っていくが、ヒエとヤエは口を開けたままだった。まるで意思のない人形のようにヒエとヤエは身体を、髪を洗い流すと。
「「はっ!!」」
「意識は戻ったみたいねお二人さん?」
「こんなに広いお風呂……それにお湯が白く濁って」
「こんなの知ってしまったら……私もう戻れなくなる……ごめんなさい健……」
「いやいや! そこは戻ろう!? ほら入ろう!」
 茉希が2人を促す間にさっさと湯船に浸かる、白く濁ったお湯なら傷痕は見えないはず。
「ぅん~あっ! さいっこー! 足が伸ばせるどころか、ブクブク……」
「本当! お湯もなんだか違う! ふぅ~染み渡るような」
「気に入った? アタシはここで浸かってるから茉希ちゃん案内してあげて」
「おっけい! 2人共ここで温まったら次は露天風呂ね!」
「任せるわ~」
「ずっとここに居たい~」
 ヒエは分かるが元女神が温泉を知ってしまったら堕ちるとは、案外チョロいな? その時、茉希とアタシの傷痕に同時に痛みが走った。
「グッヘっ!」
「ッッつ!」
 アタシは堪えたが茉希がうずくまる、何で……痛みを堪えて声をかける。
「大丈夫かい!」
「茉希どうしたの!?」
「うっうん、ちょっとはしゃぎ過ぎた」
「本当に? 私と先に上がる?」
「大丈夫だ……よ、ヤエ……もう少し温まったら露天風呂ね」
「良いけど無理しないで……」

 『何か』あったな師匠?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

「追放王子の冒険譚」

蛙鮫
ファンタジー
魔王から世界を救った勇者ローゼンが建国したローゼン王国。国王と愛人である母との間に生まれた少年アーケオは妾の子ということもあり、専属メイド以外から冷遇を受ける日々を送っていた。ある日、事件に巻き込まれた事が原因で父である国王から国外追放を受けてしまう。しかし、アーケオには不安はなかった。専属メイドがついてきてくれた事。本で読んだ夢にまで外の世界を冒険できることに胸を躍らせていたからだ。  

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

処理中です...