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ラーメン屋〜路地裏

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 千鳥足で歩く社長を支えてラーメン屋ヘ向かう。
「この先の札幌ラーメン屋! 味噌ラーメンが美味しいんだ!」
「ハイハイ付き合いますからね」
「マジで! 告白!?」
 ウザい……
「そうですよ告ったんですよ」
「えっ……」
「ラーメン屋迄な!!」
「チッ!」
「舌打ちするなよ……酔っぱらいに付き合ってあげてるんだ」
 なんと言うか……この女の人とはもう軽口をたたいても問題ない様な気がして来た。
「ついた~! ここだよ~!」
「このラーメン屋営業してたの!」
 良く通る道にある店だがてっきり潰れていたと思ってた……
「ここの店ね、夜21時過ぎから営業してんの」
「はぁ……常連客?」
「まあね!」
 暖簾をくぐると、にこやかなおじいさんが厨房に立っていた。他に客も居ないけどやっていけるのかこの店?
「いらっしゃい愛ちゃん!」
「まったきったっよ! 五十嵐さん!」
「そっちの男性は?」
「部下よ」
 椅子に座るとお冷と熱いおしぼりが出される。
「そうかい……愛ちゃん男嫌いじゃ無かったかい?」
「まぁ嫌いだね、五十嵐さん位なら平気だけどね!」
「なるほどな! いつもので良いかい?」
「2人前ね!」
 つまり俺はオッサンだから平気ってことか! まぁそれはそれで悲しいが……俺も若くは無いって事だしな……まっいっか! ヤエ達が居てくれるしね。
「何ニヤけてるの?」
「いや別に……」
「愛ちゃんビールは?」
「勿論!」
「あいよ!」
 すげぇな、まだ飲むのか……呆れていると。
「ここのビールは格別だからね!」
 おっと顔に出てたか。
「本当に程々にして下さいよ! 社長は女何だから!」
「大丈夫だよ、愛ちゃんとんでもなく強いから、はいよラーメンおまちどうさま!」
「ありがとう五十嵐さんだけはアタシの味方だよ!」
「主さん社長ってそんなに強いの?」
「あぁ強いよ! ここでナンパされて断ったら襲われてね」
「店の中で!?」
「外でやったわよ……ちゃんと」
 そっか……あぁラーメン美味しいなぁ……
「もうちょと興味もとう!?」
「いやぁラーメンが美味しくて」
「とにかく、ハッ倒したって訳よ」
「へー餃子頼んでも良いですか?」
「話を聞いてくれる?」
「武勇伝なら幾らでも聞きますよ、と言う訳で餃子一皿お願いします」
「二皿よ!!」
「はいよ!!」

 長い武勇伝を聞き流しながら適当に相槌をうって、ラーメンと餃子を食べ終えると。
「五十嵐さんお勘定ね!」
「いつもありがとうよ!」
 店を出ると会社兼自宅のビルへ送るはずが違う道に引っ張るように歩く、おかしい……社長……
「アンタ酔ってないな?」
「なんでさ……」
 千鳥足ではなくただ寄りかかってるだけだよな?
「随分と酒豪なんですね、飲んでた割にもう千鳥足じゃない……腕を離してくれませんか?」
「うーん飲み過ぎるとね、アタシどんどん冴えてきちゃうんだ……だからね」


「覚悟して貰うよ!!」
 社長が腕を振り払うと距離を取る。
「社長? 今なら酔っぱらいの戯言って事にしますよ?」
「そうは行かないんだなこれが……もうこの時間は……」
「誰も来ないって?」
 何だこの既視感、この路地裏何処かで……
「さぁ覚悟して貰うよ……この街を救ったって言う力を」
「断る」
「そう言えば引き下がるとでも?」
「いやぁ俺もう……そう言う事出来ないんで……」
「問答無用!」
 咄嗟に頭を下げて避ける、スカートでハイキックってマジか!
「ちょっとは恥じらえ!!」
「あっはははは! 今は酔ってるからね、気にしないよ! ホラホラどんどん行くよ!」
「ちょ待って!」
 社長の攻撃を捌くことができた、こんなに速い攻撃を捌いてる?
「避けてるだけ? それともチラチラスカートの中覗いてんの? ハッ!!」
「あの……やめません? 多分社長俺には……」
「じゃあ本気出すよ! 大サービスだ!」
 スーツのスカートを脱ぎ出した、ストッキングにパンイチだよ……人が来たら俺の社会的立場が死ぬな。
「安心して、誰も来ないから! 行くよ!」
 さっきより速いけど……言うほどかな? 俺にはもう戦う力は無い筈だ、だが捌けるその証拠に考え事をしながら次々と捌いて行く。次はここかな? なんの気無しに出した足が社長の蹴りを受け止めた。
「やっぱりやめません?」
「もう負けるのは嫌なんでね! 何と言われようが! 蹴りを受け止めたぐらいで!」
 もうって何だ? もしかして社長『呪い』に関わって居たのか?
「そうですか……じゃあこれから反撃します」
「言ってくれるね!」
「一撃で決めます、良いですね?」
「馬鹿にして! それならやってみなよ! 決まったら襲った訳を話してあげるよ!」
「じゃあ歯ぁ食いしばれ!!」
 ドスン! と俺の重いカウンターの一撃が社長の鳩尾に入った。
「かはっ!」
 どうやら気を失った様だ……それにしても、俺の力って完全に消えた筈だ……それなのに今のは見切ってた? まぁ良いか社長のスカートを履かせるとおぶって事務所迄運ぶ事にした。おんぶする時に見えた社長の目から涙が溢れていた、俺もしかして何時の間にかあの事件の時誰かを傷つけてたのか?
「まっ取り敢えず帰りましょうね社長」


「………………ハッ!」
「起きたかい?」
「うぅん……お腹痛い……負けちゃったか……」
 事務所のソファーに寝かせてた社長が目を覚ました。奥に寝室があるんだろうが、立ち入りたく無いプライベート空間だろう。俺は社長の話が聞きたくて起きるのを待っていた。
「はいコーヒー」
「ありがと……」
 随分としおらしくなったなぁ
「やっぱり勝てなかったかぁ」
「あのさ……俺何かしたかな? 襲われる覚えないんだが?」
「……………………」
「だんまりか」
「まっ今日の事は忘れましょう、来週また仕事を……」
 椅子から立ち上がり玄関ドアに向かうと
「帰っちゃだめ……」
 後ろから抱き着いてきた。
「そういうのは別の人にして下さい」
 俺の背中でいやいやと顔を埋めている……そして泣いている。
「お願い……帰ったら…………駄目……」
「いや俺には大切な家族がいるんで」
「まだ分からないの? さっきの勝負で気付かなかったの?」
「この! 鈍感うすら馬鹿! ちゃんとアタシを見てよ!」
「ハァ?」


「本当に分からないの? 『師匠』……」




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