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うれしくなって、柄にもなく大きな声で「卯夏!」と呼ぶ。卯夏はぱっと、はなれた僕にもわかるくらいの笑顔になった。それから、主人を待ちわびた子犬みたいにかけてくると思ったのに、卯夏は僕に軽く手をふると、道路の向こうを歩いてアパートへと向かう。
しかたなく代わりに僕が道路をわたり、卯夏を追いかけた。うしろから声をかけると、距離をちぢめずに卯夏はすこし早足になる。
「なんで逃げるの?」
「逃げてるわけじゃない。今日、バイトじゃなかったの?」
「じゃあとなり、歩こう? バイトがなくなったから、ピザ買ってきたんだ」
「ピザ?」
前を歩きながら、ピザの言葉に反応する。こういう子どものような素直さは、見た目がかわいいからきれいと形容されるようになっても変わらず、いいなと思う。
「……でも、だめ」
「なんで?」
「……におう」
「え? 僕、くさい? 確かに暑くて汗かいたから──」
「玄はいつもいい匂いだよ。俺がくさいから──」
「平気だよ」
「平気じゃないよ。近づかないで」
泣きそうな顔でそう言われてしまったら、卯夏に近寄れない。声がとどくぎりぎりの距離を保って、卯夏のうしろを歩く。
卯夏の仕事の特殊清掃は、ごみ屋敷や事故の後清掃もある。仕事にまだ慣れないときに、その環境がつらいとこぼしていたこともある。クーラーなんてない場所も多いだろう。あっても使えるかどうかはわからない。真夏のいまは、特につらいだろうと思えた。
一方、僕がやったことのある仕事といえば、飲食店にコンビニ、家庭教師。卯夏の仕事とは比べようもなく、かける言葉がみつからない。
しかたなく代わりに僕が道路をわたり、卯夏を追いかけた。うしろから声をかけると、距離をちぢめずに卯夏はすこし早足になる。
「なんで逃げるの?」
「逃げてるわけじゃない。今日、バイトじゃなかったの?」
「じゃあとなり、歩こう? バイトがなくなったから、ピザ買ってきたんだ」
「ピザ?」
前を歩きながら、ピザの言葉に反応する。こういう子どものような素直さは、見た目がかわいいからきれいと形容されるようになっても変わらず、いいなと思う。
「……でも、だめ」
「なんで?」
「……におう」
「え? 僕、くさい? 確かに暑くて汗かいたから──」
「玄はいつもいい匂いだよ。俺がくさいから──」
「平気だよ」
「平気じゃないよ。近づかないで」
泣きそうな顔でそう言われてしまったら、卯夏に近寄れない。声がとどくぎりぎりの距離を保って、卯夏のうしろを歩く。
卯夏の仕事の特殊清掃は、ごみ屋敷や事故の後清掃もある。仕事にまだ慣れないときに、その環境がつらいとこぼしていたこともある。クーラーなんてない場所も多いだろう。あっても使えるかどうかはわからない。真夏のいまは、特につらいだろうと思えた。
一方、僕がやったことのある仕事といえば、飲食店にコンビニ、家庭教師。卯夏の仕事とは比べようもなく、かける言葉がみつからない。
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