月の兎 ―真夜中のラブレター

９

　母の助けを借りて、卯夏と一緒に上京した。卯夏が上京するといっても、卯夏の父も兄も止めなかった。むしろそのせいせいした顔をぶんなぐりたくなったけれど、卯夏はにこにこ笑って父と兄以上に、すっきりした顔をしていた。

　けれども上京したあとも苦労の連続だった。僕は昼間は大学がある。卯夏はバイトを探したけれど、僕らがするようなふつうのバイトにはなかなか採用されなかった。採用されても仕事ができず、叱られてばかりですぐに辞めてしまう。

　こっちでできた卯夏の知り合いには、その見た目からホストやボーイ、それどころか風俗まで夜の接客業をすすめられているようだった。けれどそれは、すべて僕が許さなかった。僕がだめだというと卯夏は素直にしたがって、上京して一年がすぎたころ、なんとか落ち着いたのは清掃業だった。

　卯夏はひとがいやがるような仕事も、もくもくとこなす。それを見込まれて、特殊清掃の仕事をするようになった。自殺や事件、事故のあと片付けや故人の遺品整理。しんどい仕事の代わりに給料はよかった。そうしてようやく仕事にも生活にも慣れた、その矢先だった。