8 / 28
8
しおりを挟む
卯夏が勉強ができないのは、卯夏のせいじゃない。
たぶん卯夏は、学習障害ってやつなんだと思う。
一時期、卯夏の勉強をみたこともあるけれど、僕の四歳下の妹よりも理解も覚えも悪かった。けれども興味のあることだけはできる。だから勉強ができないのは怠慢だと思われがちだけれど──、困った顔で「ほんとうになんにもわかんないんだよ」といったのはうそじゃないって、いまさら思った。
そして、上京したいといった卯夏を「目的もなく」なんてつき放したことを後悔した。卯夏は、父と兄とはなれたかったんじゃないだろうか。そのために上京したいと言ったんじゃないだろうか。
僕は受験勉強の合間に考えた。どうやったら卯夏が上京できるかを。けれど勉強嫌いの卯夏では、専門学校でさえも無理に思えた。中学一年の勉強だってまったくわからないのだ。
ひとりで考えても答えが出なくてとほうにくれ、ついぽろりと母にこぼした。
「ああ、卯夏くんね──、たまに会うと声をかけてはいるんだけどね。お父さんとお兄さんがああだとねぇ……、かわいそうに」
同情的なことばに、
「上京させるにはどうしたらいいと思う?」と相談したら
「あんたと一緒の部屋に住めばいいんじゃない」とあっさりと返された。
「住む場所さえあれば、あっちに行ってから仕事さがせるじゃない」と。
卯夏を家から出してやりたいと言った僕に、母は協力的だった。「お金はあまり出せないから、家賃が高くなった分はあんたたちでバイトして払いなさいよ」と古いけれど、すこしだけ広い部屋を用意してくれた。当面の生活費も二人分。
たぶん卯夏は、学習障害ってやつなんだと思う。
一時期、卯夏の勉強をみたこともあるけれど、僕の四歳下の妹よりも理解も覚えも悪かった。けれども興味のあることだけはできる。だから勉強ができないのは怠慢だと思われがちだけれど──、困った顔で「ほんとうになんにもわかんないんだよ」といったのはうそじゃないって、いまさら思った。
そして、上京したいといった卯夏を「目的もなく」なんてつき放したことを後悔した。卯夏は、父と兄とはなれたかったんじゃないだろうか。そのために上京したいと言ったんじゃないだろうか。
僕は受験勉強の合間に考えた。どうやったら卯夏が上京できるかを。けれど勉強嫌いの卯夏では、専門学校でさえも無理に思えた。中学一年の勉強だってまったくわからないのだ。
ひとりで考えても答えが出なくてとほうにくれ、ついぽろりと母にこぼした。
「ああ、卯夏くんね──、たまに会うと声をかけてはいるんだけどね。お父さんとお兄さんがああだとねぇ……、かわいそうに」
同情的なことばに、
「上京させるにはどうしたらいいと思う?」と相談したら
「あんたと一緒の部屋に住めばいいんじゃない」とあっさりと返された。
「住む場所さえあれば、あっちに行ってから仕事さがせるじゃない」と。
卯夏を家から出してやりたいと言った僕に、母は協力的だった。「お金はあまり出せないから、家賃が高くなった分はあんたたちでバイトして払いなさいよ」と古いけれど、すこしだけ広い部屋を用意してくれた。当面の生活費も二人分。
13
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


生徒会長の包囲
きの
BL
昔から自分に自信が持てず、ネガティブな考えばっかりしてしまう高校生、朔太。
何もかもだめだめで、どんくさい朔太を周りは遠巻きにするが、彼の幼なじみである生徒会長だけは、見放したりなんかしなくて______。
不定期更新です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。


BL短編まとめ(甘い話多め)
白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。
主に10000文字前後のお話が多いです。
性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。
性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。
(※性的描写のないものは各話上部に書いています)
もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。
その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。
【不定期更新】
※性的描写を含む話には「※」がついています。
※投稿日時が前後する場合もあります。
※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
■追記
R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます)
誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる