月の兎 ―真夜中のラブレター

ふうか

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 それだけなのに、高校三年の一月。初詣の神社で、大学に行くから上京すると伝えたら、必死な顔で「俺も行く!」といった。東京に行ってみたかった。と調子の良いことをいう卯夏にあきれて「目的もないのに行ってどうするんだ」と正論でかえした──、つもりだった。

 学生は、勉強という目的があって大学に行く。けれども、学生でない卯夏にはそんな目的なんて必要ないのだ。そんなことすらわからずに、わかった顔をして。そうだよね、としゅんとした卯夏にちくりと胸がさわいだけれど、そういうものなのだから、目的もなく上京なんてしたってうまくいくはずがない、なんて思って。

 でも僕はすぐに、そんな考えをあらためざるを得なくなった。


 たまたまだった。たまたま友だちと行ったファミレスの、後ろの席に卯夏とその家族が座っていた。

 あのときのことはいま思い出しても腹が立つ。卯夏の兄と父は、卯夏をあたまごなしに責めていた。ほかのひとの目もあるファミレスで、お前がふらふらしていると会社での体裁が悪いだとか、お前みたいなばかがいたら、彼女に家族も紹介できないだとか、思い出したくもない言葉で、延々と。
 卯夏の父親はおおきな会社に勤めていて、兄は地元の国立大学に通っていた。母親は、僕の記憶ではやさしいひとだったが、何年か前に事故で亡くなっている。

 友だちと食事をしながら、その実友だちとの会話なんてなにも聞いてなかった。怒りで沸騰しそうなあたまを、ドリンクバーの氷で冷やすのが精一杯だった。
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