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あるとき、卯夏が家の近くでだれかともめているところにばったり出くわした。よくバイクで卯夏を送って来ているひとだった。
声をかけようかどうか迷って、とおくからようすをうかがううちに、なにか風向きがおかしなことに気づいた。先輩はやたらと卯夏にべたべたして、卯夏は遠回しににげているようだった。偶然をよそおって卯夏に声をかけて、家まで連れ帰った。
「なんか、困ってる? 困ってるなら相談に乗るけど……」
新しい仲間ができても、素直で単純な卯夏のことだ。僕のことをまだ親友のように思っているという確信があって聞いた。卯夏は、ぽつりと「先輩に迫られて困っている」とこぼした。
男性に迫られるという経験がなかった僕はすこしおどろいて、でも卯夏ならそういうこともあるのかと納得した。卯夏は普通のTシャツにデニムというおしゃれとはいいがたい格好をしているのに、田舎にはそぐわないほど垢抜けてみえる。それくらい卯夏の容姿はとびぬけていた。これだけきれいだったら、女だけでなく男だって惑わされてもしかたない──、そう思えるほどに。
「いやだったらちゃんと断れ。そういうことはすきな人とだけするもんだ」
とわかったふりをして言った。実際、恋愛なんて中学のときの彼女と手をつないだくらいの経験しかないくせに。
格好つけた俺に「そういうことってなに?」と卯夏は聞いた。経験のない僕をからかっているのかと思いながら、恥ずかしさをおして「セックス」と答えると、卯夏は暗やみでもわかるくらい赤くなった。
つられて赤くなりながら、卯夏もまだなのかなって思った。卯夏の仲間たちはおとなとも仲良くて、女の子たちも学校の女子と同じとは思えないくらい大人びている。だから、卯夏もとっくに経験済みかと思っていたのに。
「……わかった。すきなひととだけにする」
ちいさな声で応えた卯夏に、もっとちいさな声で、うんと答えた。
それだけだ、高校時代の卯夏との思い出なんて。
声をかけようかどうか迷って、とおくからようすをうかがううちに、なにか風向きがおかしなことに気づいた。先輩はやたらと卯夏にべたべたして、卯夏は遠回しににげているようだった。偶然をよそおって卯夏に声をかけて、家まで連れ帰った。
「なんか、困ってる? 困ってるなら相談に乗るけど……」
新しい仲間ができても、素直で単純な卯夏のことだ。僕のことをまだ親友のように思っているという確信があって聞いた。卯夏は、ぽつりと「先輩に迫られて困っている」とこぼした。
男性に迫られるという経験がなかった僕はすこしおどろいて、でも卯夏ならそういうこともあるのかと納得した。卯夏は普通のTシャツにデニムというおしゃれとはいいがたい格好をしているのに、田舎にはそぐわないほど垢抜けてみえる。それくらい卯夏の容姿はとびぬけていた。これだけきれいだったら、女だけでなく男だって惑わされてもしかたない──、そう思えるほどに。
「いやだったらちゃんと断れ。そういうことはすきな人とだけするもんだ」
とわかったふりをして言った。実際、恋愛なんて中学のときの彼女と手をつないだくらいの経験しかないくせに。
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「……わかった。すきなひととだけにする」
ちいさな声で応えた卯夏に、もっとちいさな声で、うんと答えた。
それだけだ、高校時代の卯夏との思い出なんて。
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