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カルピスサワー 50
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なんかもう抱き締められるとすぐにとろとろして、気持ち良くて眠くなるっていうか……。ゆるい性的な快感て、単純に安心して気持ち良くなるんだな。
話しかける宮下の声を、密着した身体越しに聞いて、またうとうとした。今なら何時間でも眠れそうだ。なんて思っているうちに、宮下のスマホがアラームを鳴らす。
もう一度コインランドリーに行くという宮下に「俺も行く」と答えて慌てて準備する。
「俺、一人で行ってきますけど……」
そういう宮下に、心配してくれるのはわかるんだけど、と返した。
「このまま家にいたら絶対寝る」
「寝たらいいじゃないですか。ちょっと…、やりすぎちゃったんで、寝ててくださいよ」
「寝てたら夜、寝れねえんだって。知ってるか、ずっと寝てるって案外体力いるんだよ」
「そうですか……?」
不服そうな宮下の声。宮下にはまだ分からないかもしれないが、本当にずっと寝ているっていうのは体力を消耗する。俺も昔はそんなことあるわけないと思っていたけれど。特に夜眠れないのは、翌日ずっと元気でいる程の体力がないから致命的だ。
適当に引っ掛けていたスウェットのままじゃいくら何でも、ともうちょいマシな服に着替える。
「あー…、冬服もそろそろ買わねぇとな」
ぽつりと言うと「今日、見に行きますか?」とすかさず宮下が食いついた。そうだなぁ、とあいまいな返事をする。
「……、身体つらいですか?」
見当違いな心配をされる。確かに元気いっぱい!という感じではないんだけど、かえってふわふわして意外と動ける気はしている。
「いや、そういうんではないけど、痩せれば、買わなくてもいいんだよ……」
と、結局返事をにごした理由を答える。
「あぁ、ちょっと恰幅よくなりましたよね」
宮下がにこりと笑う。
「おかげさまで。宮下と一緒に食ってたらあっという間に五キロは増えた」
「いいじゃないですか」
「他人ごとだと思って……。俺の腹の肉つまむくせに」
俺が拗ねるとふくく、と宮下が笑う。
「加藤さんのお腹、ほんと掴み心地が良くて……。つるっとしてるのにむにっとしてるというか。ついつい、やっちゃうんですよね」
「オマエ……。ほんと、それ止めろよ」
地味に傷付くんだよ。
「もう少し肉ついてもいいと思いますよ。なんか触り心地いいんですよね。ずっと触っていたいっていうか」
うっとりと言われて「俺はやだよ」なんて答えながら、宮下がそう言うならいいか、なんて考えた。流されてるってのはわかるんだけど、宮下が嫌でないなら体形もこだわる程のこともない。
見た目的な俺の理想ってのは確かにあって、もう少し絞りたいところではあるんだけど、宮下がいいならそれが最優先になってしまう。
「宮下は、肉、付かないよな」
「俺はもうちょい付いて欲しいんですけど、食っても付かないんですよね」
「いいんじゃねぇか。ちょい細いけど、俺は嫌いじゃないよ」
「加藤さんがそういうなら、いいですけど。でも、もうちょいムキムキしてた方が格好良くないですか?」
「それを言うなら、俺の方だろ」
体重はあるがこのまま進んだら、ムキムキっていうよりぽちゃぽちゃだ。
「ムキムキ……、いや、やっぱり加藤さんはそれくらいでも……?」
「ぽっちゃりの方が好きなのか、知らなかったな」
ほんと、ちょっと驚いた。
「いえ、そういうわけじゃないはずなんだけど、加藤さん見てると、それいいなって感じがして」
「なんだよ、それ。このままいったら新しい扉開いちゃうだろ。太るんだったら、どこまでも太れるぞ」
「そこまでは……? 今ぐらいにしといてください」
「だろ?」
そう言って二人で笑う。笑いながら、これバカップル全開だな、と思った。
それから、全部を受け入れてもらえるのは嬉しいけれど、それにあぐらをかいたらいけないとか。たぶん体形だけじゃなくて、俺はどんなことでも宮下ならいいかって許しそうだし、宮下もそう思っていそうだ。
だけど、それに甘えてしまったら自分の理想からも遠ざかるし、いつ限界を超えているのか分からなくてちょっと怖い。だからまあ、体重もせめて現状維持で。
でもそれと同時に、いつの間にか理想と違ってたなんて言いながらも仲良さそうな人たちが、そういう、許すってんでもないけど『コイツならいいか』の積み重ねでそうなったんだとしたら、すごいと思う。
自分と宮下の理想からかけ離れてしまうのはちょっと悲しいけれど、それでもいいと思えるのなら、それがいいな、と。
結局、コインランドリーに寄って乾燥時間を追加した。中途半端な時間を、近くのスーパーで冷蔵庫の中身を買い込んで潰してから、布団を取りにコインランドリーに寄る。
おひさまの匂いとは違うけれど、それを思わせるふかふかになった布団を抱いて、一旦家に戻る。その気持ち良さに、一緒に暮らしてるみたいだなと思う。
特別なにをするんでもないけれど、日常が二人の間にあって、それを共有できる幸せ。かつてそれを望んでだめになった。
諦めた夢みたいなそれをもう一度追いかけたいと思う。一緒に暮らすんじゃなくて、今みたいに週末だけでもいい。けれど、自分の生活の中に当たり前に宮下がいるように考えてみようか。
とりあえずは、二人のいられる場所。今の俺の家じゃなくて、宮下も『ただいま』って言える場所。
……といっても、中途半端な地方都市で一緒に暮らすって案外難しい。もう少しここが都会だったら、隣人がどうだとかだれも気にしないんだろうけれど。
人が多すぎないからこその適度な隣人との距離とか、知り合いと出会う確率とか、過ごしやすい理由のひとつずつが、一緒にいる為には少し足かせになる。
理解してもらえれば、これほど心強いこととはないんだけど、それが案外難しいことは身にしみて知っている。
ちらり、と隣で車を運転する宮下を見る。まだ若くて、子ども……とは言わないけれど、でも俺からしたら子どもみたいにも思える。
だけどいつの間にか、パートナーとしてこいつの他にはいないな、と思うようになっていた。
全部がスムーズに上手くいくとも限らないし、途中で宮下が嫌だと思う可能性もゼロではないけれど、それでも、ちょっと頑張ってみようかと思った。
話しかける宮下の声を、密着した身体越しに聞いて、またうとうとした。今なら何時間でも眠れそうだ。なんて思っているうちに、宮下のスマホがアラームを鳴らす。
もう一度コインランドリーに行くという宮下に「俺も行く」と答えて慌てて準備する。
「俺、一人で行ってきますけど……」
そういう宮下に、心配してくれるのはわかるんだけど、と返した。
「このまま家にいたら絶対寝る」
「寝たらいいじゃないですか。ちょっと…、やりすぎちゃったんで、寝ててくださいよ」
「寝てたら夜、寝れねえんだって。知ってるか、ずっと寝てるって案外体力いるんだよ」
「そうですか……?」
不服そうな宮下の声。宮下にはまだ分からないかもしれないが、本当にずっと寝ているっていうのは体力を消耗する。俺も昔はそんなことあるわけないと思っていたけれど。特に夜眠れないのは、翌日ずっと元気でいる程の体力がないから致命的だ。
適当に引っ掛けていたスウェットのままじゃいくら何でも、ともうちょいマシな服に着替える。
「あー…、冬服もそろそろ買わねぇとな」
ぽつりと言うと「今日、見に行きますか?」とすかさず宮下が食いついた。そうだなぁ、とあいまいな返事をする。
「……、身体つらいですか?」
見当違いな心配をされる。確かに元気いっぱい!という感じではないんだけど、かえってふわふわして意外と動ける気はしている。
「いや、そういうんではないけど、痩せれば、買わなくてもいいんだよ……」
と、結局返事をにごした理由を答える。
「あぁ、ちょっと恰幅よくなりましたよね」
宮下がにこりと笑う。
「おかげさまで。宮下と一緒に食ってたらあっという間に五キロは増えた」
「いいじゃないですか」
「他人ごとだと思って……。俺の腹の肉つまむくせに」
俺が拗ねるとふくく、と宮下が笑う。
「加藤さんのお腹、ほんと掴み心地が良くて……。つるっとしてるのにむにっとしてるというか。ついつい、やっちゃうんですよね」
「オマエ……。ほんと、それ止めろよ」
地味に傷付くんだよ。
「もう少し肉ついてもいいと思いますよ。なんか触り心地いいんですよね。ずっと触っていたいっていうか」
うっとりと言われて「俺はやだよ」なんて答えながら、宮下がそう言うならいいか、なんて考えた。流されてるってのはわかるんだけど、宮下が嫌でないなら体形もこだわる程のこともない。
見た目的な俺の理想ってのは確かにあって、もう少し絞りたいところではあるんだけど、宮下がいいならそれが最優先になってしまう。
「宮下は、肉、付かないよな」
「俺はもうちょい付いて欲しいんですけど、食っても付かないんですよね」
「いいんじゃねぇか。ちょい細いけど、俺は嫌いじゃないよ」
「加藤さんがそういうなら、いいですけど。でも、もうちょいムキムキしてた方が格好良くないですか?」
「それを言うなら、俺の方だろ」
体重はあるがこのまま進んだら、ムキムキっていうよりぽちゃぽちゃだ。
「ムキムキ……、いや、やっぱり加藤さんはそれくらいでも……?」
「ぽっちゃりの方が好きなのか、知らなかったな」
ほんと、ちょっと驚いた。
「いえ、そういうわけじゃないはずなんだけど、加藤さん見てると、それいいなって感じがして」
「なんだよ、それ。このままいったら新しい扉開いちゃうだろ。太るんだったら、どこまでも太れるぞ」
「そこまでは……? 今ぐらいにしといてください」
「だろ?」
そう言って二人で笑う。笑いながら、これバカップル全開だな、と思った。
それから、全部を受け入れてもらえるのは嬉しいけれど、それにあぐらをかいたらいけないとか。たぶん体形だけじゃなくて、俺はどんなことでも宮下ならいいかって許しそうだし、宮下もそう思っていそうだ。
だけど、それに甘えてしまったら自分の理想からも遠ざかるし、いつ限界を超えているのか分からなくてちょっと怖い。だからまあ、体重もせめて現状維持で。
でもそれと同時に、いつの間にか理想と違ってたなんて言いながらも仲良さそうな人たちが、そういう、許すってんでもないけど『コイツならいいか』の積み重ねでそうなったんだとしたら、すごいと思う。
自分と宮下の理想からかけ離れてしまうのはちょっと悲しいけれど、それでもいいと思えるのなら、それがいいな、と。
結局、コインランドリーに寄って乾燥時間を追加した。中途半端な時間を、近くのスーパーで冷蔵庫の中身を買い込んで潰してから、布団を取りにコインランドリーに寄る。
おひさまの匂いとは違うけれど、それを思わせるふかふかになった布団を抱いて、一旦家に戻る。その気持ち良さに、一緒に暮らしてるみたいだなと思う。
特別なにをするんでもないけれど、日常が二人の間にあって、それを共有できる幸せ。かつてそれを望んでだめになった。
諦めた夢みたいなそれをもう一度追いかけたいと思う。一緒に暮らすんじゃなくて、今みたいに週末だけでもいい。けれど、自分の生活の中に当たり前に宮下がいるように考えてみようか。
とりあえずは、二人のいられる場所。今の俺の家じゃなくて、宮下も『ただいま』って言える場所。
……といっても、中途半端な地方都市で一緒に暮らすって案外難しい。もう少しここが都会だったら、隣人がどうだとかだれも気にしないんだろうけれど。
人が多すぎないからこその適度な隣人との距離とか、知り合いと出会う確率とか、過ごしやすい理由のひとつずつが、一緒にいる為には少し足かせになる。
理解してもらえれば、これほど心強いこととはないんだけど、それが案外難しいことは身にしみて知っている。
ちらり、と隣で車を運転する宮下を見る。まだ若くて、子ども……とは言わないけれど、でも俺からしたら子どもみたいにも思える。
だけどいつの間にか、パートナーとしてこいつの他にはいないな、と思うようになっていた。
全部がスムーズに上手くいくとも限らないし、途中で宮下が嫌だと思う可能性もゼロではないけれど、それでも、ちょっと頑張ってみようかと思った。
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