カルピスサワー

ふうか

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カルピスサワー 42

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 ……と言ったところで、言うこと聞いてくれる……わけ、ないよなぁぁ!?
 わかってた! わかってはいたけどもっ!!

 宮下は、ぽかん……て感じに俺を見て、それからシャンプーボトルの奥にあるカミソリを見て、もう一度俺の顔を見る。
 そんなにまじまじ見るな、恥ずかしいから……!!

「え? 遅いと思ったら……、そんなことしてたんですか?」
「そうだよっ、だから、ちょい……、出て行って欲しいんだけど」

 ますます赤くなる俺の顔を見て、宮下はぱちぱちとわざとらしく目をしばたかせる。それからにっこりと笑って、

「やだなぁ、加藤さん。そんな……言ってくれればいいのに」
「なにが……だよ」
「加藤さんてえっちですよね」
「……っ、プレイじゃないから!」
「え、じゃあ何で剃るんですか?」
「……いやっ、そういうのも、いいかなっ、みたいな……?」
「パイパンが? なのに、プレイではない?」
「んっ? んんっ、いや、プレイ……、そう、プレイっつーか、スッキリするかなっていうか、そういうのもありっていうか、なんかとにかく! ……とりあえず出てって欲しいんだけど」
「剃り終わってから見られたいってことですか?」
「へっ……? いやっ、見られたいとかそういうことじゃなくて……」
「見せるために剃ってくれるんじゃなくて? んー……、じゃあ、毛のない方が気持ちいいとか。……それはそれで、すごいえっちですね……。気持ち良さのために剃っちゃうんですか?」
「はぁ!? 違うって!」
「気持ち良いからじゃなくて、見せたいじゃなきゃ何なんですか?」
「……おしゃれ?」

 しどろもどろで何とか言いわけしてみるが、説得力が無さ過ぎるっていうか、無理かありすぎて我ながら気が遠くなる。

「……では、ないですよね?」

 ははっと笑われて、ですよね、と肩を落とす。

「ほんと、そういうのもいいかなってそれだけだから……」
「で、剃ってる途中で俺が来ちゃったから焦ってるんですよね。恥ずかしがってる加藤さん、めちゃくちゃ可愛いです」
「……っ、ばっか…、そんなん可愛くないだろ。いいおっさんが……」
「って、言うところがまた可愛いんですよねぇ」

 うっとりって感じに言われてますます居たたまれなくなる。可愛いって言うんなら、俺なんかより断然宮下の方で、なんかちょっと意地悪にわざとトボけてみせるそれも、小悪魔的っていうか、つまりは可愛い。
 なんて思っていると、ずいっと宮下の顔が近付いた。反射的に身体が逃げる。

「……ねぇ、それ、俺がやってもいいですか?」
「へっ!?」
「剃るの、やりたいんですけど」

 嬉々として言われて、思わず身体を引いてパシャリと水音が鳴る。

「とりあえず、そこ上がりましょう。顔真っ赤だし、のぼせちゃいますよ」

 狭い浴槽の中で、背中がトンと壁について逃げられなくなる。熱い手に腕を掴まれて、お湯から引っ張り上げられた。

「いやっ! いやいや、いいから! 自分でできるから!!」

 慌てて拒否をするけれど、腕を掴んだ力が強い。

「遠慮する必要ないんですよ」

 宮下は、にこにこと機嫌よく言うけれど、遠慮とかじゃなくて……。

「大丈夫ですって、ちゃんと怪我しないようにしますから」
「いやっ、でも、ほら……」

 抵抗してみるが、強引な手に引かれて立ち上がる。

「はっ……ずかしい…んだって、ば……」

 徐々に声が小さくなる。
 ──ほんと、無理だから、止めてくれ。
 んふふ、とそんな俺を見た宮下が笑って言った。

「そういうの、余計にやりたくなるじゃないですか。諦めて、こっち来て座ってください」

 手を引かれて、額にキスされて。絶対に引かないぞっていう宮下の意志に屈服する。
 心臓が、またドキドキと走り出す。


 されるがままに浴槽の縁に腰かける。開いた足の間には宮下がちょこんと座った。この期に及んで少しでもと閉じようとする俺の足を、太ももに置いた宮下の手が阻止をする。
 閉じようとする足と、開かせようとする手で無言の攻防が繰り広げられる。

「加藤さん、観念してください。そうやってると怪我しちゃいますよ?」

 おどされて、往生際の悪い俺の足が今度こそ観念して力を抜いた。

「そうそう、イイコにしててくれたらいいんですよ。ちゃんときれいにやりますから」
「イイコって……子どもじゃないんだから」
「ダダっ子じゃないですか。大人しくしててくれたら大丈夫ですから」
「恥ずかしいんだって……」
「いつもは自分から押し付けてくるのに」
「……っ、それとこれとは別だろ?」
「いつもの、気持ち良くして~って押し付けてくるのは恥ずかしくないんですね。へぇー」

 シラフの時に最中の話題を出されて、くらりと気が遠くなる。

「……も、宮下、ほんと止めて……」

 懇願する俺に宮下がははっと笑う。最初は優しいと思ったんだけど、付き合ってみると宮下はけっこう意地悪というか、セックスに関してはSというか。
 過去のセックスポジションでは、俺もそういうS気質が強かった。だからS気の強い相手とは合わないんだと思っていたけど、宮下にいいように揶揄われても満更でもない俺がいるんだから、不思議だ。
 それも、年齢が近かったりしたらこんなに素直に受け入れられずに抵抗したかもしれない。年齢が離れているから、しかも親子ほども年下なんだから、却って吹っ切れた。多分、マウント取るみたいな、そういうライバル心みたいな感情がないのが幸いしている。

 赤くなって、宮下から目を逸らした俺の太ももを宮下がそろそろと撫でる。それからふわりと、ぱたぱたと水を垂らす股間の茂りを撫でる。

「ちょっと……、あんまり見るなって」
「へへ、垂れてるの可愛くて。この毛ともお別れを惜しんでるんです」
「そういうの、いいから……。ほんと、やるなら早くやって」

 俺は恥ずかしさにくらくらしてるのに、宮下は本当に楽しそうで。俺の股間はこれからの行為に期待して……、なんてなっているわけがない。むしろ、ビビッて縮こまっている。
 期待だけで固くなってるのを知られるのは、それはそれで恥ずかしいんだけど、全然その気じゃないのをこんなにまじまじと見られるのは、それはそれで恥ずかしい。
 恥ずかしいし、さっきさっと見たところはなかったけれど、もかしたら白髪がコンニチハしているかも知れなくて、気が気じゃない。

「じゃあ、やりますね。これ、ここだけ短くなってるの、最初は短くした方がいいってことですか?」

 さわと毛を逆立てて撫でて言われて、コクリと頷く。

「短くしてからの方がうまくできるから……」
「なるほど。じゃ、これでいったん短くしてからですね」

 小さな毛切ハサミが宮下の手でシャキと音を慣らす。指を動かしてハサミの使い勝手を確認する宮下の手を見ると、背筋がぞわっとした。
 宮下がもう一方の手で毛の生え際あたりを押さえて、チョキンと少しずつ毛を切っていく。チョキン、と股間で音が鳴る度にひゅんと心臓が縮こまる気がする。

「そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ、ちゃんと見てますから。むしろ、ビクビクされる方が動いて怖いんですけど。動かないでください」
「無理、ちんこ切られそうで怖い」
「ちゃんと見てるんで切りませんてば」
「わかってるけど怖いんだって」
「じゃあ、俺がしっかり見ておくんで違うところ見ていてくださいよ」
「それも無理。怖くて見ないといられない……」

 本気でビビる俺を宮下が笑う。……本当に怖いんだからな?宮下もされてみたらわかる。

「加藤さんて意外と怖がりですよね。思い切りはいいのになぁ。注射の時針見てるタイプじゃないですか? 俺は見てられないんですよ、怖くて。だからいつも目をつむってて、針が刺さった時にめちゃくちゃびっくりして。それで泣いちゃうから、オフクロに針見てろ!って怒られてたんですよ。小さいころの話ですけどね」

 宮下はペラペラと喋って、俺の気を逸らしながら少しずつ陰毛を短く整えていく。こうやって気を使ってくれるところ、ほんとよくできた奴なんだよなぁ、なんて思いながら、俺は心の中で『怖くない』って唱えていた。
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