カルピスサワー

ふうか

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 遮光カーテンを閉めると部屋の中は仄暗くなる。明らかに夜とは違う明るさだけれど、朝から何やってるんだっていう背徳感は薄くなった。

 仕切り直して、さっきまで寝こけていたベッドの上に上がり、宮下が上半身の服を脱ぐ。着やせした身体は意外に締まっていて、薄暗さのせいか精悍な銅像のようななまめかしさがある。
 俺はドキドキと心臓が鳴るのを隠せず、多分、大分、挙動不審だ。

 ベッド横に置いてある棚の奥から、万が一のために用意したローションとコンドームを取り出して宮下の前に置く。
 その様子はまるで昔の新婚初夜。真ん中に置いたローションとコンドームを挟んで、三つ指ついてお願いしますの図だ。

 いや、実際俺のテンパリ具合はまさしくそのもの。
 知識はある。何をするかも知っているし、立場は違えどやったこともある。……どころか、さっきまで宮下のナニを咥えていたわけだけども。
 心臓はバックンバックン鳴っているし、指は震えちゃうし、正直初めてセックスした時より緊張してるんじゃないかっていうほど緊張している。宮下も見ていてわかったのだろう。

「加藤さん……」

 名前を呼んで、両手を握り引き寄せられた。裸の胸に抱かれてその温かさに心臓が飛び上がる。カチンコチンに固まった俺の背中に宮下が手を回す。
 触れている部分から宮下の鼓動の震えが伝わってきた。互いにこんなに緊張しているのが可笑しくてクスリと笑う。

「心臓、すごいな……」
「俺、飛び出ちゃいそうなんですけど。……めちゃくちゃ緊張してます」
「任せる気でいるんだけど?」

 揶揄うように言った。宮下、こんなところで素直で可愛いのズルいからな。頑張ってもらわなきゃ困る。
 ……さすがに、俺もこっちはリードできる気がしない。

「緊張はしてますけど……、それは任せて下さい」

 耳元にチュとキスをされる。緊張の割には余裕の態度に安心する。さぁ、いよいよ……となった時に思い出す。

「宮下、ちょっと……」

 また俺に待ったをかけられて止まり、宮下が「やっぱりなし、はダメですからね?」と、語気を強くして言う。
 いや、さすがにダメとは言わないけれど……大事なことを忘れていた。

「それはない、けど『準備』忘れてた……。少し準備させて」

 自分は気にしないからと、『準備』のための準備も何も用意していない。初心者に道具を使わない腸内洗浄はちょっと難しいけれど、やったこと無くても知識ならある。何とかなるだろう。

「準備って?」

 切羽詰まった真顔で聞かれる。だよな、何度も待った掛けられて気分が良いわけがない。

「洗ってないから……」
「シャワー浴びてたでしょう?」
「や……中を……」

 ハッキリとは言えず、もごもごと言葉を濁す。準備、手伝うのは得意なんだけど……、準備する側となると何だかそれを言うのも恥ずかしい。

「なか……?」
「……男は、入れるのに、ほら……あれだから……」

 宮下には、なかなかピンと来ないらしい。これは恥ずかしがるから恥ずかしいのか? 思い切ってハッキリ言ってしまった方がいいのか!?

「あー……、俺は気にしません」

 わかった途端にハッキリと言って宮下は押し切りにかかる。

「俺は、気になるんだけど……」
「加藤さんは、逆だったらそんなこと気にしますか?」
「いや、気にしないけど……」
「じゃあ、いいです。俺も気になりませんから」
「いや、でも……」
「……もう、我慢、できないんですけど」

 ずいっと宮下が迫る。

「でも……」

 諦めきれないオレの言葉は、直接宮下に喰われた。ガブリとかぶりつくようにキスされる。性急な手が、覚えたばかりの俺の身体をなぞって暴きにかかった。
 宮下の手が焦らすことなく、Tシャツごしに胸の突起を狙う。探るほどの間もなく探り当てられて、それはあっという間に凝って主張を始める。
 向かい合って座っていたはずが、気が付けば押し倒され、服を手繰り上げられて熱心に胸の突起を舌で転がされている。乳首に気を取られて跳ねているうちに、パンツごとハーフパンツを擦り下げられて、立上がりかけた性器が長い指に捕らえられる。

「……ぁっ、それっ……」

 恐るおそるといった風に、宮下が俺の性器を撫でる。それから、確かめるように握られた。

「んっ……」

 小さな声が漏れる。
 仕方ない、今日はずっとお預けくらってるようなものだから……、とにかく、ちょっとの刺激も待ちきれなくて、すごく気持ちがいい。

「……勃ってる」

 確認するように言われて、ちょっと笑う。

「うん……。気持ちいいから……」
「これ、俺で興奮したんですか?」
「そう……、興奮した」
「それで、勃ってるんですか?」
「そうだよ」
「……すごい、ですね……。なんか……すごい……」

 すごさを実感するように、宮下がそろそろと手を動かす。

「っ……」

 ゆっくりとした柔らかな手の動きは、もどかしいような快感だけを与えて、もっと触って欲しくて宮下の腕にすがる。
 だけど、そんなに触られたらすぐにイっちゃいそうで……。

「……んっ、なぁ、ごめ……っ、すぐイきそう……。だから、手ぇ離して……」
「なんで? イっちゃう加藤さん、見たいです」
「ばかっ……、そういうこと、言うな……」

 ぴくり、と宮下の手の中でオレが反応して固くなる。

「おっきくなった……」
「宮下がやらしいこと、言うからだろ」
「そう……なんだ……。なんか……、自分のでよく知ってるつもりだったけど……、可愛いですね、これ……」

 そう言って、宮下がくっと手に力を入れる。

「ぅっ……、遊ぶなって……」
「だって、可愛くて……。宮下さんが、さっきフェラしてくれた時、夢中になってたのがわかるなって」

 ……やっぱり、夢中になって感じてたのはバレてたか。

「な、宮下……、ほんとに……、そんなにしたら、ダメだから……。俺、そんな何度も、出来ないかも……」

 出来るかもしれないけど、出来ないかもしれない……。十年前なら出来たけど、正直今は何度も出来る自信がない。年のせいだと言いたくはないけど、年を取るってそういうことだ。

「イッちゃうとわかんなくなるから……」
「なにが? 何がわかんなくに行くなるんですか?」
「……前立腺……」
「ぜんりつせん……。尻の、気持ちいいっていう?」
「そう……。勃ってた方が見つけやすいから……」

 って、何言っちゃってんの、俺?
 でも、宮下が何も知らなそうだから……。でも、だからって自分の尻の開発を部下に教えるってどうよ!?
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