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「せっかく来てくれたのにごめん。白狼のおかげで助かった。感謝してる。春になって森の家に帰ったら、また遊びに来て」
「え……」
「これ、ばあ様からの伝言。手も……ばあ様からの……」

 視線を外して早口にまくし立てる。すぐに離そうとした手を、白狼が逆に握って引き留めた。持ったままだったカップを置いて、両手で玄兎の手を握る。

「えっと……。俺も色々嬉しかったし楽しかった。また遊びに来てもいいですか?」
「いいって言ってる……」
「じゃあ、また遊びに来ます。……これ、ばあ様に伝言。頼める?」
「わ、かった」
「なんで、そんなに真っ赤なの?」

 手を握り話しているうちに白狼の心臓の鼓動は落ち着いて、ぎこちない玄兎をいじめたくなってくる。

「恥ずかしいだろっ。手、握るなよ」
「手まで、ばあ様に伝言だよ?」
「わかってるって……、今はもういいだろっ」
「じゃあ、今はいいけど」

 あんまりやると本当に怒り出しそうで手を離す。
 真っ白なのに、真っ赤になって……、白くなったから、今まで以上に赤くなってるのが丸わかりなんだよな。だけど、むくれて怒っているはずの玄兎は隣に座って近付いたまま席は立たない。

「あのさ、ばあ様は冬の間はここにいないけどさ、俺は来るから……」
「え、冬に一人で? 大丈夫かよ」
「兎は冬には強いんだよ。何で白くなったと思ってんの?」
「そっか、換毛……、冬毛なのか。でも雪の中わざわざ来なくても……」
「ばあ様が! 大事にしてる鉢植え気にしてるから、世話しに来るの。お前に、会いに来るわけじゃないからなっ」

 乱暴にそう言うけれど、耳までピンクに染まって見える。白狼の胸の中がザワザワとうるさくなる。

「だけど、お前が会いたいなら、ここに来ればいい……」

 玄兎の声は最後にいくほど小さくて聞き取れない呟きになる。

「来ても、いいの?」
「来ればいいって言ってる」

 ジワリと嬉しさが広がる。それって、俺に会いに来てくれるって、思ってもいいんだろうか?

「本当に来るよ」
「いつも勝手に来てるだろ」
「そう言われればそうか。俺のために、来てくれるんだ?」
「……そうだよ、だから、白狼も来いよ!」

 やけくそ気味に言い捨てる。その、姿が可愛くて堪らなくなり、思わず抱きしめる。ピキッと玄兎が凍ったみたいに固くなるのがわかって、そんな所すら可愛いと思う。

「……うん、待ってる」

 返事をして、あ、と思った時には涙が盛り上がって来た。冬の間は、もしかしたらこの先もずっと、会えないかも知れないと思っていた。

 嬉しい。

 何だろう、この感情は。泣きたくて、抱き締めたくて、離したくない。嫌われたくない……。ジワリジワリと、でも容赦なく身体に侵食してくる、強烈な感情。
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