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 今日も、丘に登って草原から続く道を眺める。濃い緑だった森も草の深い草原も、いつの間にか冬の準備をしている。特に生い茂った木の葉で薄暗かった森は、緑から赤や黄色に色を変え、あっという間に葉を落として見通しが良くなってしまった。雲一つない真っ青な高い空では太陽がさんさんと陽を降り注いでいるが、ヒュウと吹く風が冬に向かう森の寂しさを伝えて来る。

 待っても誰も来ない道を眺めるのを諦めて、白狼は森の道に下り、そのままガサガサと落ち葉を踏み荒らしてばあ様の家に向かう。

 ばあ様の家に近付くにつれて白狼の足が速くなる。

 時折、落ち葉を踏み荒らした跡がある。火を使う煙の匂いがする。『もしかして』その予感に駆け出した。

 ばあ様の家の煙突から煙が上がっている。家の側に見える、薪を抱えて歩く赤いケープ姿。
 はっきりと姿の見える距離まで近づいて、白狼が足を止めた。

「玄兎!」

 大きな声で呼びかける。

「白狼」

 赤いケープ姿の玄兎が振り向いて白狼に笑いかける。少しの間合わなかっただけなのに嬉しさと、懐かしさで鼻の奥がツンとする。

「なんか、すごい久しぶりな気がするな」

 話しかけて来る玄兎に近付く。

「本当に、……」

 聞きたいこと、話したいことはたくさんあるはずなのに、言葉が詰まって出てこない。

「ばあ様のこと、ありがとうな。今は元気になって家にいるよ」
「そっか。元気になったなら良かった。様子に行こうかと思ったけど……。噂になったりしてないか? 困ったりとか……」
「心配性だな、平気だよ」

 笑って答えられて、ホッとする。

「ばあ様、今は元気にしてるけど、白狼が連れて来てくれなきゃ危なかったって言ってた。今回は風邪みたいなものだったけど、もう年で心配だから、冬の間は村で一緒に住むことにしたんだ」
「そうか……、それならばあ様も安心だな」

 落胆を隠して笑顔を作る。冬の間は玄兎と会えなくなるけど、ばあ様の為にはその方がいい。

「それでさ、……あっ」

 玄兎が何か言いかけた時、ヒュウと強い風が吹いて玄兎のケープを揺らし、抱えていた小枝を飛ばしていく。

 白狼はとっさにつむった目を開けて、驚いた。
 赤いケープのフードが落ち、見慣れた長い耳が見える、けれど、見慣れているのは柔らかい灰色の……。

 ドキンと大きく心臓が跳ねた。

「真っ白だ……」

 驚きが口をついて出る。
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