上 下
16 / 24

16

しおりを挟む
 幸いにして、自分は狼族で身体が大きく力もある。小さな兎族のばあ様を背負って連れて行くくらいはできるだろう。そうと決めたら、早く連れて行く準備をしなければ。白狼は部屋を見回し、ばあ様に声を掛ける。

「ばあ様、雨具はある? 俺、ばあ様を医者まで抱いて行くから、温かい格好と、雨具のある場所を教えて」
「ごめんね、大丈夫。誰か呼んできてくれれば……」
「雨の中移動することになっちゃうけど、俺は身体が大きいし力も強い。きっと、爺さん……木賊もそうするはずだ」

 そう言って白狼は必要な物の場所を聞き出した。

 手早くばあ様に温かい格好をさせて背負い、木賊が置いて行ったという古いコートをその上から着る。大きなコートは丈は長いが、密着した二人に丁度いい大きさで、白狼は木賊がこれを見越して置いて行ったんじゃないかとすら思う。

「ばあ様、行くよ。ちょっと揺れるし苦しいけど我慢してね」

 そう言うと、白狼は昨日より小振りになった雨の中に飛び出した。

 森の中の道は雨でぬかるみ、所々飛び出した木の根に足を取られそうだ。ポタポタと葉を伝って大きくなった雨粒が垂れる森の中を、気を付けながら足早に進む。ようやく森を抜ける頃には、雨は降ったままだが、少し空が明るくなってくる。白狼は時折ばあ様に話しかけながら、玄兎と一緒に行きたいと思いながらも一度も足を踏み入れられなかった草原の道を走った。

 転ばないように気を付けながら走っていると、村が見えてくる。
 村の端の赤い屋根の家が見えてくる。玄兎の家は『ケープと、ばあ様の家と同じ、赤い屋根の家』だと聞いた事を思い出す。
 医者がどこなのかもわからないし、突然狼族が来たら診てもらえないかもしれない。そう考えて白狼はとりあえず、玄兎の家に向かうことにした。

「ばあ様、ごめんな、あと少しだから。とりあえず玄兎の家に向かうよ」

 そう声を掛けると背中でコクコクと頷く気配がある。白狼はあと少し、と走り続けてガクガクする足に気合を入れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤独な戦い(4)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい
BL
龍(人外)×片角の人間のBL。ハピエン/愛され/エロは気持ちだけ/ほのぼのスローライフ系の会話劇です。 毎週火曜・土曜の18時更新 ―――――――――――――― とある東の小国に、ふたりの男児が産まれた。子はその国の皇子となる子どもだった。その時代、双子が産まれることは縁起の悪いこととされていた。そのうえ、先に生まれた兄の額には一本の角が生えていたのだった……『つのつき』と呼ばれ王宮に閉じ込められて生きてきた異形の子は、成人になると同時に国を守る龍神の元へ嫁ぐこととなる。その先で待つ未来とは?

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

森光くんのおっぱい

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
「下手な女子より大きくない?」 そう囁かれていたのは、柔道部・森光の胸だった。 僕はそれが気になりながらも、一度も同じクラスになることなく中学校を卒業し、高校も違う学校に進学。結局、義務教育では彼の胸を手に入れることはできなかった。 しかし大学生になってから彼と意外な接点ができ、意欲が再燃。攻略を神に誓う。

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...