上 下
10 / 24

10

しおりを挟む
「あの、さ……」
「ありがとう」

 言いづらそうな玄兎と覚悟を決めた白狼の言葉が重なる。白狼は玄兎の言葉の続きを待ち、玄兎は白狼の言葉を促した。

「何?」
「お前が先に言え」
「……ありがとう、って言ったんだ」
「何だよ、ありがとうって。改まって礼をされるような事した覚えないぞ」
「俺と恐がらずに話して一緒にいるから、……」
「何言ってんだ? そんなのに礼を言われたら、俺もお前に言わなきゃいけなくなるじゃねーか、俺は礼なんか言わないぞ」
「それはそうだけど……」

 あまりに勝気で負けず嫌いな玄兎らしい理屈に困って笑う。

「でも、チーズとか貰ったし」
「あ、そっか、それはありがとうだな。よし、礼を言え! って言っても元々俺のじゃないし、ばあ様に直接言えよ。そっちの方が喜ぶし、ばあさまが喜んだ方が俺も嬉しい」

 怒っていた事なんて忘れたようにコロリと笑う玄兎に、白狼もようやく緊張が解けてくる。

「いいのか、俺なんかに合わせても。大事なばあ様なんだろう?」
「いいに決まってるだろ。そもそもばあ様が連れて来いって言ってるし」
「そうなのか?」
「でなきゃ誘わねーよ。お前、もしかして自分が怖がられるとか思ってんのか? ヤダヤダ、これだから自意識過剰は……。ばあ様が白狼なんか怖がるわけないだろ」
「だけど……」
「狼の知り合いはお前だけじゃないからな。元々、死んだじい様の親友が狼だったから、あんな所に住んだんだってさ。だからお前なんか怖いわけがない。俺だってお前が怖くないしな」

 玄兎は屈託なくコロコロと笑い、白狼はつられて笑顔になりながら、『怖くない』と言われた事が嬉しくてうっかり涙腺がゆるみそうになった。

「で、お前の話はそれだけか?」

 いつも見下ろしている相手に見下ろされて聞かれ、見上げるっていうのは、それだけで圧迫感を感じるものなんだと気付く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孤独な戦い(4)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい
BL
龍(人外)×片角の人間のBL。ハピエン/愛され/エロは気持ちだけ/ほのぼのスローライフ系の会話劇です。 毎週火曜・土曜の18時更新 ―――――――――――――― とある東の小国に、ふたりの男児が産まれた。子はその国の皇子となる子どもだった。その時代、双子が産まれることは縁起の悪いこととされていた。そのうえ、先に生まれた兄の額には一本の角が生えていたのだった……『つのつき』と呼ばれ王宮に閉じ込められて生きてきた異形の子は、成人になると同時に国を守る龍神の元へ嫁ぐこととなる。その先で待つ未来とは?

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

処理中です...