跳ねるきみの、やさしい手のひら

ふうか

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 いつもと同じ帰り道、のはずが玄兎が妙に大人しくて気持ち悪い。

 家族がいないなんて言わなければ良かったのかと白狼は後悔する。話して直ぐには何も言わなかったけれど、同情されただろうか? 可哀想なやつだと思われた? それとも手に追えないと引かれただろうか?

 もし自分が逆の立場なら可哀想だと同情もするだろう。だけど、玄兎に同情されて可哀想だからと友達でなくなってしまうのは寂しい。玄兎にとって、友達の白狼ではなく、家族のいない可哀想な狼になってしまったら寂しい。そんな事を考えて白狼はへこむ。

 静かな玄兎に慣れなくて、話しかけることも出来ないままぎこちなく黙って二人で歩く。いつもなら憎まれ口を叩いたり、ばあ様の家での出来事を聞いたりするあっという間の三十分なのに、今日はその道のりがやけに長い。

 白狼は、今までの気安い友達の関係はもう終わりなのかと、しょんぼりとしたまま、いつもより少し手前で立ち止まる。毎日村に帰る玄兎を見送った森はずれの木の下まで行くことが、今日は出来そうもない。

 玄兎はいつも別れる木の下で止まって振り返り、そこで初めて立ち止まったままの白狼に気付いた。耳も尻尾も垂れて、玄兎の倍近くある身体が小さく縮こまって見える。けれど、白狼の表情は笑っていた。硬く凍ったような、寂しそうな笑顔。

 その固まった笑顔のままで「また、明日」といつもの挨拶をする。いつもなら玄兎はここで「バイバイ!」と笑って手を振り、村に向かって草原を掛けて行く。
 だけど、今日はそうする事が出来ない。玄兎は様子のおかしな白狼にカッとして、白狼の元まで駆け戻り、その勢いのまま脛を蹴り上げる。

「また明日、じゃねーよ! バカ!!」
「いっ……てぇ……っ。何すんだよ!」

 いくら玄兎の身体が小さいとはいえ、容赦なく蹴り上げられて白狼は痛みに呻いて座り込む。

「お前、なんかつまらない事考えてるんだろ!」

 走った勢いでフードが落ちて、ピンと立った耳が声に合わせてフルフルと震えている。あぁ、こんな怒った姿まで可愛いなんてと白狼は場違いに考える。

「つまんないって……」

 大事なことだとは思うのだけど、なんと言えば分からなくて白狼は考える。何だろう、伝えたいこと、伝えなきゃいけないこと……。
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