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今から二カ月程前、一年で一番暑い季節に玄兎に出会うまで、白狼はほとんど誰とも話さない生活をしていた。肉食獣は一般的に草食獣には好かれない。怯えて逃げられてしまうのが常で、今まで出会った草食獣は話をするのはおろか、側に寄る事もできずただ楽し気に遊ぶ姿を遠くから眺めるだけだった。
だからだろうか、玄兎と会話をするのは何だがむずむずして、思った事を上手く口に出せない。それを歯痒く思いながらも、一度怒らせてしまえばより挑発してしまうか、何も言えず黙ってしまうしかできない。
ぷりぷりと先をゆく玄兎の後を、傍からはそう見えないがしゅんと尻尾を落とした白狼が着いていく。
玄兎の耳が時折、ピクリピクリと後ろを向いて白狼を気にしているのがわかる。そのままずんずんと進んでいたが、木陰の所で玄兎は止まり白狼が追いつくのを待つ。
「そんなに離れて、尻尾垂らして付いて来られたら俺が虐めたみたいだろ。隣歩けよ」
「尻尾なんか垂らしてない」
言い合いをしながら並んで歩きだす。すると白狼が歩くのが早くて玄兎が駆け足で付いて行くようになり、今度は「お前早すぎるんだよ」「玄兎が足が短いからだろう」と言い合いになった。
憎まれ口を言いながらも、白狼がこうして側に寄っても逃げ出さずにいてくれるのは玄兎ただ一人だ。
他愛ない話をしながら玄兎のばあ様の家まで、三十分程の距離を並んで歩く。
玄兎が初めて一人で森に来て入り口で立ち竦んでいる時に「何してるんだ?」と白狼が声を掛けた。驚きと恐怖と、出てきたのがおばけではなく言葉の通じる狼だった事に安堵して、『肉食獣には気を付けろ』と言われた事も忘れて玄兎は思わず泣き笑いになった。
涙でうるんだ瞳で「ばあ様の家に行くんだ」と言う玄兎に、「そんなチビが一人で行くのは怖いだろう」と森を抜けた一軒家のばあ様の家まで一緒に歩いた。それ以来、習慣のように玄兎が森に入る時には白狼が現れて、ばあ様の家の近くまで送って行き、帰りはまたどこからともなく現れて帰りの三十分程を一緒に歩く。
森の中の一本道を一人で歩くのは村育ちの玄兎からしたら心細く、白狼が一緒にいてくれるなら心強かった。どうせならと、そこから先の村に続く原っぱに白狼を誘ったこともあるが、森から先には絶対に出てこなかった。
だからだろうか、玄兎と会話をするのは何だがむずむずして、思った事を上手く口に出せない。それを歯痒く思いながらも、一度怒らせてしまえばより挑発してしまうか、何も言えず黙ってしまうしかできない。
ぷりぷりと先をゆく玄兎の後を、傍からはそう見えないがしゅんと尻尾を落とした白狼が着いていく。
玄兎の耳が時折、ピクリピクリと後ろを向いて白狼を気にしているのがわかる。そのままずんずんと進んでいたが、木陰の所で玄兎は止まり白狼が追いつくのを待つ。
「そんなに離れて、尻尾垂らして付いて来られたら俺が虐めたみたいだろ。隣歩けよ」
「尻尾なんか垂らしてない」
言い合いをしながら並んで歩きだす。すると白狼が歩くのが早くて玄兎が駆け足で付いて行くようになり、今度は「お前早すぎるんだよ」「玄兎が足が短いからだろう」と言い合いになった。
憎まれ口を言いながらも、白狼がこうして側に寄っても逃げ出さずにいてくれるのは玄兎ただ一人だ。
他愛ない話をしながら玄兎のばあ様の家まで、三十分程の距離を並んで歩く。
玄兎が初めて一人で森に来て入り口で立ち竦んでいる時に「何してるんだ?」と白狼が声を掛けた。驚きと恐怖と、出てきたのがおばけではなく言葉の通じる狼だった事に安堵して、『肉食獣には気を付けろ』と言われた事も忘れて玄兎は思わず泣き笑いになった。
涙でうるんだ瞳で「ばあ様の家に行くんだ」と言う玄兎に、「そんなチビが一人で行くのは怖いだろう」と森を抜けた一軒家のばあ様の家まで一緒に歩いた。それ以来、習慣のように玄兎が森に入る時には白狼が現れて、ばあ様の家の近くまで送って行き、帰りはまたどこからともなく現れて帰りの三十分程を一緒に歩く。
森の中の一本道を一人で歩くのは村育ちの玄兎からしたら心細く、白狼が一緒にいてくれるなら心強かった。どうせならと、そこから先の村に続く原っぱに白狼を誘ったこともあるが、森から先には絶対に出てこなかった。
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