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「この実、喰ったことあるか? ないだろう。美味いんだぞ、喰ってみるか?」

 そう言うと、食べごろの実をいくつか採り、自分の口に入れて見せてから、その兎に届ける。赤い塊は納得いかずに悔しそうだが、美味いという実の誘惑に勝てずに、素直に白狼の手からひとつ摘まんで口に放り込む。

「甘い!」
「だろう?」

 思ったよりも甘くフルーティーな味に兎が思わず笑顔になると、白狼も釣られて自慢気に笑う。

「これ美味いな。ばあ様にも持って行ってあげよう」

 さっきまでの怒りも忘れて嬉々として白狼に話しかるのは、笑った笑顔が少年と言うに相応しい、元気な印象の兎の男の子だ。名前は玄兎と言った。

 くりくりとした大きな目、その深い黒色の瞳にちなんで、黒を表す玄兎と名付けられた。大きな目、濃い瞳、長い耳、柔らかな茶色の体毛は少年らしい明るい元気さと繊細さをよく表している。身体は白狼と比べると半分を超える程しかなく、狼族に比べて小柄な兎族の中でも玄兎は特に小柄だった。

 手を伸ばしても到底届かないだろうと思うのに、玄兎はその小さな身体を精一杯伸ばし、跳んで木の実を採ろうとする。フードを落とした真っ赤なケープが、玄兎の動きに合わせてふわふわと舞う。その姿は小さな子供が遊んでいるようでとても可愛らしいが、本人に言ったら鬼のように起こるだろうと、何も言わずに白狼は玄兎に採った実を渡した。

「美味いが、沢山食べると毒だってさ」
「そっか、じゃあこれだけにしておこうかな。サンキュ」

 玄兎が白狼を見上げてニコリと笑う。

「実が欲しかったら呼べ。代わりに採ってやる」
「またチビだってバカにしやがって……。すぐに白狼なんて追い越してやるからな」

 バカにしたわけではないがそう聞こえたのか、玄兎は白狼に噛み付くように言う。

「抜かせるものなら、抜かしてみせろ」

 そう答えながら、何ですぐに玄兎は怒ってしまうのだろうと考える。多分、自分の言い方が悪いのだろうけど……。
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