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花のこどもたち ~12年後~

2.私が知らない私の婚約

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「サーシャ・オラクル嬢? ああ、知っているよ、半年前にステファンに引っ付いて来た子だろう?」

「ステファンに?」

 帰宅後、2つ上の兄ジェリスに尋ねると、あっさり答えが返ってくる。

 「さすがね、お兄様は人気があって顔も広いから、ご存知だとは思ってたけど。でも、ステファンに? 」
 
 優秀過ぎて、10歳で第二王女の婚約者に極められたのはどうお思いなのかしら? 聞けないけれど。

「そうだよ。入学早々、ステファンの婚約者になりたいと、本人に直談判してきたんだ」

「直談判? 告白ではなくて?」

「いや、あれは直談判だよ。好きだとか言わずに、自分が如何に有用な人間であるかとか、自分が妻になったら、どんな風に役に立つとか力説してた。
 で、最後に、あなたに最適な相手は自分だとぶちまけて、ステファンに婚約を迫ってた」

「凄い……」

「だろう? 隣に私がいるのに、全く見えてなくてね、ステファンが本当に好きなんだと思ったよ。告白の仕方はともかくね」

「でも、サーシャ嬢には婚約者がいるじゃない?
ステファンはまだ誰もいないけど」 

「…………マリア、本の管理も大事だけどね、生きてる人間にも、もう少し気を配ってくれないか? はあぁ…」
 
「お兄様、そんな大きな溜め息をつかなくても」

「あのな、ステファンは、婚約者がいるからとサーシャ嬢に断ったんだよ。だからオラクル侯爵が、別の婚約者をサーシャ嬢にあてがったのさ、

 最後の一言は完全に嫌味ね

「しょうがないじゃない、とても役に立ちそうな文献が見つかって夢中だったの
 あら? ならどうして今頃になって、私に文句を言い出したのかしら?」

「…………マリア、私がジェスキアのお祖父様に文句を言いたいよ。図書館の管理をするようになってからのお前は………いや、それよりもだ。お前にサーシャ嬢が文句を言うのは、仕方のないことなんだ」

「どうしてよ? 私、何もしてないわ」

「婚約者がいると言った筈のステファンが、最近になって相手を探し始めたんだ。婚約者がいるからと諦めたステファンに、実は相手がいなかったと、自身の婚約が決まったあとで聞かされたんだよ? サーシャ嬢が悔しくないはずがない」

「だからどうしてよ、ステファンに言えばいいじゃないの、私に嫌がらせなんかしないで!」

 子どものように頬を膨らませた妹を、兄は穴の空くほど見つめてきた。

「…………………ステファンはね、マリア、婚約なんて嘘だと、どうしても引き下がらないサーシャ嬢に、お前が婚約者だと言ったんだよ」

「はい?!」

「正式な婚約ではないけど、彼の話では、12年前に婚約したそうだけど?」

「ええ?!」

「ちょっと待て、お前、ステファンを振ったのだろう? 」

「好きだとか言われてもいない相手を、どうやって振るの? 」

「頼む、嘘だと言ってくれ。最近まで2人があまりにも仲が良かったから……まさか、そこまでぼんやりだとは思わなかった」

 お兄様が机に肘をついて頭を抱えてしまう。

「何てことだ、すまないステファン……」

「何? どういうことなの?」

「あいつは、幼い頃から婚約してたお前に『ステファンでなくていい』と言って振られたと私に言ってきたよ」

 !

「心当たりがあるんだね……」

「私婚約しているなんて知らなかったもの! お父様から何も言われてないし、ステファンだって、何も言わなかったわ」

「考えてもごらん? お前はジェダイト国に三家しかない公爵家の令嬢だ。しかも、もう一家の当主が祖父で、両家とも相当な財力と権力がある。
 そんなお前が、何故15にもなって縁談もなく婚約者もいないと思えるんだ?」

 確かにそうだわ。10歳を越える頃には大抵の令嬢には婚約者がいるもの。それに条件だけみれば、とてもいい物件よね。たとえ図書館に入り浸りであったとしても、縁談が来ないはずがない……。

「お父様とお母様が、時期をみて決めてくださるとばかり……」

「バカだね。うちの両親が勝手に相手を決めるはずがないだろう?  ジェスキアのお祖父様達だってそうだ。彼等は絶対にそんなことはしない」

「でも、他の家はそうだわ。お兄様だって、10歳で王女様と婚約したじゃない。
 それにうちは公爵家なんだし、私が下手な相手を選んだらどうするの? 」

「私のことは放っておいてくれ。ともかく、どうしようもない相手を選ぶような、そんな育て方をしていないという自信があるんだろう。
 それに、自分達が苦しんだからというのもあるだろうしね」

「お兄様は昔、お父様達に何があったのか聞いているんでしょ? ねぇ? 何があったの?」

「言わないよ。お前も高等部に入る前に教えて貰えるはずだ。それに直接、父上達から聞いた方がいいだろうしね」

 いいわ。ご親切な人達が、聞こえよがしに話すから、薄々知っているし。ただ、話がまちまちで食い違ってて、どれが本当やら。
 一体、真実が何なのか知りたくなっても仕方ないでしょう?

 でも、お兄様は言わないと言ったら絶対に言わない人だから、これ以上は無駄ね。
 いいわ。そのうち記録か何か見つけてみせるもの。

「まあいいけど。でもお兄様、おかしいじゃない? 勝手に決めないというのなら、何故、私は知らなかったの?」

「知らなかったのじゃないよ、お前は忘れたんだろう。私とよりずっとステファンと仲がいいものだから、承知していると思ってた私達がバカなんだ。父上達も、私もとんでもないボンヤリだってことか…………」

「しょうがないじゃない! お兄様は婚約してから王女様とばかりだったもの。ステファンがずっと私の相手をしてくれてたの! 仲が良くて当たり前だわ。それに、12年前って言ったら私、まだ3歳なのよ?」

「そうだな。そしてステファンは5歳だ」

「でしょう? 何があったのか知らないけど、そんな覚えてもいないような頃のことで責められても困るわ」

「可哀想なステファン。あいつはずっと覚えていたんだ。12年もね。そして、約束を守っていたんだよ」

「約束って?」

「それは私にも教えてくれなかった。お前から貰った大事な約束だからと言ってね」

 はっきりしないのね! モヤモヤするわ

「だけどお前の話だと、ステファンはとうとう諦めたんだな」

 お父様達も、ステファンも、私のことなのに、私を除け者にして話を進めるなんて、どうかしてるわ!

「さっき、父上達がボンヤリだと言ったけど、そんなはずはない。何の理由もなく、父上達がお前に何も話してこなかったとは考えられない」

「こんな大事なことを話さない理由って何?」

「さぁね。今日は帰りが遅くなると言っていたから、明日にでも父上に聞いてみれば?」





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