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喚く女

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 あの2人の裁判が開かれることになった。
 襲撃から1年近くが経っていた。

 皇帝や皇子達が蛇になることを公表していない以上、被害者である俺が蛇のままでは、皇族の襲撃事件を公表出来なかったせいだ。

 その為、豚王とクソ女は、捕縛からずっと帝国の牢に繋がれていた。
 既にあの国は別の国に売り渡してある。ふたりを守る国はもはや、何処にもない。


「王よ、小国では満足出来なかったか?」

「フン、蛇が、偉そうに」

  帝国皇帝の問いに小国の王は嘲った。

「蛇が皇帝だと? 蛇に仕えるくらいならワシに仕えた方が臣下も幸せだろうて」

 高位貴族の当主達が殺気だつが、皇帝が手を挙げてそれを制した。


「王よ、皇帝とはそなたが思うようなものではない。彼等は、皇族が善政を行い、民を慈しみ国を守るからこそ、喩え、蛇でも仕えてくれているのだ。我らは、蛇である我々を守り、敬ってくれる彼等の恩義に報いる為、皇族でいるに過ぎない。だからこそ、帝国は強くなったのだ」

「ほざけ! ワシなら帝国をもっと大きくしてやれる! そうだ今からでも遅くはない、おい、そこの蛇よ、ワシに玉座を寄越せ! さすれば、お前を許してやろう」

「貴様、皇子を殺害しようしておきながら何を!」

 我慢出来なくなった貴族の当主が怒鳴る。

「フン、 たかが蛇を間引こうとしただけのことではないか。大したことではないわ」

「余の言葉も届かぬか。哀れな。
 小国とはいえ、元は一国の王とは思えぬ」

「賢しそうに何をいうのじゃ、蛇の分際で。
そうじゃ、思い出した! 10年ほど前にも2匹の蛇を間引こうとしたのじゃが、失敗してしまったな。
いや、1匹は成功したようなものかのぅ」

  場内が静まり返った


「…………………では、第1皇子と第2皇子の襲撃も、そなたの仕業か?」


 皇帝の怒りが満ちる


「ああ、そうじゃ」

「朱華は10年も人に戻れず苦しんでおるのだ! 
貴様、赦さんぞ!」

「たかが蛇ではないか」

「おのれ!……そなたはすぐには殺さぬ。皇子達の毒を混ぜて飲ませてやろう。皇子達の毒は互いに拮抗するのだ、逆に死ねなくなる。ただひたすら猛烈な苦しみを味わい続けるがいい」

「ワハハ、それがどうした、それにしても親蛇よ、2番目の蛇は哀れだのぅ? 」

 一度も己を省みることがなかった元、小国の王は、笑いながら最も深い地下牢に連れていかれた。二度と日を見ることはない。


 深く息を吐き、冷静さを取り戻した皇帝が視線を移す。
「さてチェリーナ。何か述べたいことはあるか?」

「恐れながら陛下、私は王と父に利用されただけなのです! 私は被害者です!」

 元王の断罪される姿を見て、チェリーナが震えながら訴える。

「ほう、さようか。蒼亜、この女の始末はそなたに任せよう、好きにするがいい」

 皇帝の言葉にチェリーナが俺を見る。

「助けてください蒼亜様、私は貴方の婚約者だったのよ? そうでしょう? 私は被害者なんだもの、蒼亜様なら私を助けてくれるわよね?  ねぇ許すって言って? そうだ、私、蒼亜様の側妻そばめになるわ。
 きっと、満足させてあげるから、ね?」

「名を許した覚えはないと言った筈だ! 何が婚約者だ、側妻になるだと? 貴様のような女に触れてたまるか、穢らわしい!」

「ヒィッ! お、お許しを」

「お前は帝国を欺き、のさばり、俺の伴侶を痛めつけ、俺を殺害しようとした。そして朱華兄上の不幸を嬉々として利用した! そもそも、その不幸もお前の父親のやったことだろうが! 死んだ父親の分までお前が償え!」

「い、いやぁ! し、紫蘭様、お願いします、どうか助けてください!」

 図々しく紫蘭にまで すがろうとするチェリーナを衛兵が取り押さえた。

「紫蘭にしたことを忘れたのか! 酌量などするものか! お前もあの男と同じように苦しみ抜いて死ぬがいい! 連れて行け!」

「いやあぁぁぁ! 助けて、助けて誰かぁ!」

 助けを求めたチェリーナを哀れむ者は一人もいなかった。



 罪人のいなくなった場内に静けさが戻る。 

「此度のことで、そなた達にも要らぬ苦労をさせた。すまなかった。だが、あの王には帝国の素晴らしさを改めて教えてもらったように思う。貴殿らの支えがあってこその帝国だ。これからも共に民を守って貰いたい。よろしく頼む」

 集まってくれた高位貴族の当主達に、皇帝が立ち上がり自ら頭を下げる。
 王妃をはじめ、俺を含めた皇族全員が皇帝に続いて頭を下げた。俺の隣にいる紫蘭もともに。




 高位貴族の当主達が、静かに膝をついた。








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