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あわない女

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(どうした? 何故泣く?)

「蒼様、私、蒼亜殿下に疎まれているのかしら?」

( !? )

「最近、お食事の席か、たまのお茶席しか殿下にお会いして頂けないの」

(ずっと蛇で会っているからな)

「陛下のご命令で婚約していただいたのだから、仕方ないのかしら?」

(一体、どういうことだ? 
  婚約を嫌がっていたのではないのか?)

 タシーンッ タシーンッ

 慌てて否定したが、蛇ではどうしようもない。


「私ね、辺境では蛇の話ばかりする蛇女と言われていたの。助けてくれた蛇に会いたかっただけなのに。だから、いつまで経っても婚約者が決まらなかったの。お父様が哀れに思って陛下に相談してくださったのよ」

(罪作りだな、前皇帝陛下じいさん

「初めてお会いした時、殿下はとても不満そうだったわ。微笑んですらくださらなかったの」

(違う! 俺は諦めていただけだ!)

「でも、お話はしてくださったから、いつか受け入れてくださると思ったのだけど。無理だったみたい。私、陛下に婚約を解消して頂けないか、お願いしてみるわ」

(待て! 違う!)

 急いで執務室へ行き、人に戻って私室に戻る。


「で、殿下!」

 急に現れた俺に驚いた紫蘭は、不在中に私室に入った決まり悪さか口ごもった。

「婚約を解消すると言っていたそうだが?」

「どうして?」

「隣に聞こえたそうだ」


 皇子の私室の壁がそんなに薄いわけはないが、この際そういうことにしておく。


「そうでしたの」

「で? 解消するつもりか?」

「殿下の方こそ、私を疎んでいらっしゃる!」

「そんなことはない」

「嘘です!」


 目を爛々と煌めかせて怒る紫蘭は美しい。

「やはり、そうなのですね。いつも私をご覧になるときは険しいお顔ばかり。お嫌いなら嫌いだとそう仰ってくださればよいのです!」

 そう告げると、紫蘭は俺を押し退け出ていった。

 その晩から、紫蘭は具合が悪いと言って食事の席にも顔を見せなくなった。

 そうなると、全く紫蘭に会えない。
 食事と茶席以外に、人の姿で会おうとしなかった俺が悪いのだが、避けられればどうしようもない。

(嫌われていると思っていたのだ、
   仕方ないだろう?)

 困った俺は、緑華に助けを求めた。




 緑華と、婚約者である翠鈴が招いてくれた茶席。

 紫蘭は俺とは目も合わさない。

「紫蘭様? お食事以外で、ご一緒する機会がなかったので、本日はいらしてくださって嬉しいですわ」

「こちらこそ。お招き、ありがとうございます」

「皇城の生活にはもう慣れましたか?」

「はい、皆様、ご親切にしていただけるので」

「それは良かった」


 3人が会話を続けてる側で、黙ったままだった俺に、緑華が聞いてきた。

「兄上、紫蘭嬢がお相手で良かったですね?」

 緑華がここだ!と言わんばかりに俺を強く見た。

「ああ。陛下のご配慮には感謝している」

 紫蘭が俯く。

 そうじゃなーい、と翠鈴が俺を睨んだ。


「紫蘭嬢、兄上は女性に慣れていないのだ」

 せっかくの緑華の言葉にも、紫蘭は微笑みを浮かべるだけで俺を見なかった。




「兄上、しっかりしてください!」

「このままでは破談にされますわよ?」

「兄上は蛇の姿では好かれているのでしょう? 
人の姿で好かれることなど、それに比べたら楽ではありませんか!」

「その通りですわ。紫蘭様を逃したら次はございませんわよ?」

 失敗した茶席のあとで、緑華達に説教されてしまった。プリプリしながら去っていった翠鈴達には申し訳ないが、どうすれば良いのかわからない。

 悩み疲れて部屋を訪れても、顔すら拝めない。




 陛下に呼ばれて執務室に入ると、陛下が困ったように手招きする。父として話すときの癖だ。


「蒼亜、紫蘭嬢が婚約の解消を願いに来たぞ」

「! お認めになったのですか?」

「たわけ。お前が紫蘭を好いていることぐらい承知しておる。考え直せと部屋に返した」

「ありがとうございます」

「だがな、紫蘭嬢の父である辺境伯を介して、解消を願い出て来られれば、そうはいかぬ。あいつは娘を大切にしておるからな。余も立場上、無理強いは出来ぬ」

「……承知致しました」


 どうにかせよと檄を受けて部屋を出されたが、何か解決策が出た訳ではなかった。




 


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