【完結】桜色の思い出

竹内 晴

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春の10ページ

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 春斗は玲の助けもあり、何とか由紀を見つけ出すことに成功した。しかし、案の定由紀は困惑し、誤解をして怒りをぶつけてきた。

 「多分、がいたから、今ここに立ってると思う。俺一人じゃ、素直になれなくて、きっと由紀のことだって見つけらんなかったかもしれねー。だからさ、由紀が怒ってる理由も、なんとなくだけど分かる。ここでさ、俺が由紀に対していくら誤解だって言っても信じて貰えないかもしれねー。だから、一言だけ言わせて欲しい。」

 そう言うと、春斗が由紀に向かって頭を下げた。

 「ごめん!何もかも中途半端で、高校になってからちゃんと由紀のこと見れてなかった。」

 春斗のいつもと違う少し成長した姿を見て言葉を失う由紀。罵倒ばとうされることを覚悟していた春斗だったが、何も言われないことに違和感を感じて頭をあげる。さっきまで怒りをむき出しにしていた由紀が、今は動揺しているように見えた。

 由紀との距離が遠く、ちゃんと姿を認識できない春斗が由紀に近寄る。

 そこには、戸惑いを隠しきれない由紀の姿があった。由紀の中に怒りとは別に、先程まで子供のような幼なじみが、自分のために成長する姿を見て動揺していたのだ。

 しかし、いつまでたっても鈍感な春斗は、そんな由紀の心情を理解することは難しく。

 「どうしたんだよ?由紀・・・」

 その言葉で我に返った由紀は・・・。

 「どうしたもこうしたもない!なんでいきなり謝るのよ!いつもみたく反論なりなんなりしてきなさいよ!」

 由紀が動揺のあまり、意味の分からない言動を発してしまう。いつもの調子を取り戻したことを悟った春斗が由紀に反撃を仕掛ける。

 「は?それってつまり、由紀は俺にいじめてもらいたくてここまで走ってきて1人で泣いてたってことか?由紀って・・・案外M?」

 しかし、言われっぱなしの由紀ではなかった。

 「うるさいわね!そんなわけないでしょ!辛かったのはほんとだし、何も信じられなくなってたこともほんとよ!でも、春斗が!」

 由紀が何か言いかけたところで止まった。それを聞き逃さなかった春斗。

 「何?俺がどうかした?」

 意地悪に聞いてくる春斗に由紀が照れ隠しに春斗の胸元をポカポカと叩く。その攻撃は、春斗に1ミリも効くことはなく。

 「ほんと、悪かった・・・」

 言葉とは裏腹に、春斗が由紀を強く抱き締めた。

 その様子を見つめる2つの人影が、屋上の入口扉から覗いていた。

 「なーんだ。心配して見に来たのにさ~。いいムードじゃん?」

 「ホントな、ここまではだったけどね」

 そう、2つの人影の正体とは・・・。

 2人を心配して追いかけてきていた玲と薫であった。そして、今回の1件の首謀者である。

 「けど、まさか本気で泣くなんて思わなかったけどね」

 玲が小さく笑った。

 「う、うるさいわね!だってしよーがないでしょ?春斗があんな風になるなんて思わなかったんだから・・・」

 照れ隠しとも言える反論を玲にする。時は遡り、玲と薫が2人と別行動をしたあの日の放課後・・・。

 「私らもなんだかんだ小学校からの幼なじみじゃん?なんとなくだけどさ、あんたの考えてることわかっちゃった・・・。」

 薫が玲ににっこりと笑いかける。

 「あんたの覚悟に免じて私も今回は協力してあげる」

 予想外の回答に驚く玲。

 「いいのか?俺のやろうとしてることは完全にヒールな役回りだぞ?」

 その言葉に小さく頷く薫。こうして2人の計画が実行された。それが、今日の一連の出来事である。

 こうして、2人の思惑通りにことが進んだかに思われたが・・・。

 「春斗、どうだったの?」

 1人戻ってくる春斗に心配の様子で駆け寄る薫。

 「あぁ、2人のおかげでできたよ」

 薫が安心する素振りを見せる。しかし、薫には1つだけ引っかかっていることがあった。

 一方、屋上に1人残った由紀は・・・。

 「ちゃんと気持ち伝えたの?」

 玲が屋上の入口から声をかける。その声に少し驚くも、玲であることを認識すると・・・。

 「うん!玲のおかげでできたよ!ありがと~」

 由紀が嬉しそうに笑った。

 「そっか・・・良かった」

 由紀に笑いかける玲。しかし、玲にも気になることがあった。

 2人が気にしていることとは・・・

 「それで?その後は?」

 2人が別々の相手に尋ねると・・・。

 「え?いつも通り話しただけだけど?」

 2人が不思議そうな顔をして応える。

 -数分前-

 「それじゃー、俺は先戻るわ。ちゃんと顔拭いとけよー。」

 春斗は由紀にハンカチを渡すと、そのまま階段の方に向かって行った。階段から降りてくる春斗を教室の影から観察していた玲が、薫に電話で指示を出した。

 こうして先程の対面になった訳だが・・・

 相変わらずの2人に悩まされることを確証した2人は、お互いに頭を抱えていた・・・。
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