【完結】桜色の思い出

竹内 晴

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春の7ページ

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 「あんたすごいよ・・・」

 かおるの言葉にとおるが応える。

 「親友の恋を邪魔するつもりもないし、由紀みゆきも多分・・・春斗はるとのこと好きなんじゃないの?だったら由紀好きな子のことを応援するのも男の務めじゃないかな?後さ、俺から言わせてもらえば、全部わかった上で逃げずに追いかけてる薫の方が俺はすごいと思うよ?」

 心の底から敬意をもって玲は薫に告げた。

 「それじゃ、俺らも帰ろっか?」

 玲は薫に言うと歩き始める。

 「あんたほんっと!わかんないわ~。好きなら追いかけたらいいじゃない?何すかしてカッコつけてんの?親友だからとか、そんなのただの逃げじゃない!!気持ちぶつけることも出来ないで何が親友よ!最初から諦めてるだけじゃない!」

 薫は玲に叫ぶように言った。玲は、薫の言葉に悔しさを隠すように唇を噛み締め、強く拳を握って薫の方に振り向く。

 「言いたいことはそれだけ?」

 玲は薫に気持ちを悟られまいといつもの笑顔を見せた。

 「またそうやって・・・」

 薫は玲の方に向かってスタスタと歩き寄ると、玲のネクタイを握り、自身の目線の高さになるように引っ張った。

 「あんたさ、それでも男なわけ?好きな子が幸せならそれでいいだの、親友のために手を引くだの。うじうじうじうじと・・・。」

 玲は薫の言葉に反論することはなく、唇を噛み締めて視線を逸らした。その態度に呆れた様子の薫。

 「もういいわ・・・、あんたはいつももんね。」

 薫はそう言うと握っていたネクタイを離し、自身の家の方に向かって歩き始める。その姿を見て黙っていた玲が薫に駆け寄ろうとしたその時・・・。

 「来ないで!ここからは1人で帰れるから・・・ここまで送ってくれてありがとう」

 「いや、家までは送るよ」

 玲のその言葉に対して薫は・・・。

 「来ないでって言ってるじゃん!あんた見てると、自分がバカみたいに思えるじゃん・・・。」

 この時、薫の心では色々な感情に襲われていた。薫が少し玲に振り向いた顔を前に戻すと、風に流されて玲の方に微かにしずくが流れてきた。玲は薫が涙を流していることに気がつくと、薫の方に駆け寄って薫の手首を握り自身の方に引き寄せるように、薫を強く抱きしめる。

 「ちょっ・・・、何してるのよ」

 薫が離れようと必死で抵抗する中、玲が薫に話し始める。

 「薫の言う通りだよ」

 その言葉に抵抗していた薫が「え?」と玲を見上げた。

 「俺さ、わかってたんだ。全て言い訳にして、告白する前から逃げてて、自分には振り向いて貰えないって、由紀が好きなのは春斗で俺には見向きもしないって・・・。振られるのが怖くてずっと逃げて、そうやって自分に言い聞かせて納得できないのに納得させようとして、俺はずっと羨ましかった!素直に自分の気持ちに正直にいられる薫も、俺の手の届かない存在に手が届くのに触れようとしない春斗も・・・。俺はずっと2人に憧れ、張り合うつもりもないのに勝手に2人に嫉妬して、俺は春斗も薫も尊敬してたんだ・・・。だから、こんな俺を見て自分を馬鹿だと言って涙を流すのはやめてよ。」

 薫は玲の言葉に救われたような気持ちになった。その瞬間、薫は玲の胸で腕に包み込まれながら涙を流した。

 ひとしきり泣いた後、薫は玲と一緒に帰りながら、夕日が沈み赤く染った空の下で話し始める。

 「さっきはごめんね?私もさ、どうしていいのか分からなくて、玲に当たっちゃったの・・・。自分が2人の邪魔をしてるんじゃないかって・・・。親友ライバルだって言ってもさ、私にとっては大切な親友しんゆうなんだよね。だからさ、私も玲と同じで2人には幸せになって欲しいってやっぱり思うの!だからさ、やっぱり私は由紀のライバルであることを選ぶよ」

 薫は玲をにっこりと笑った。その笑顔は夕日の灯りに照らされて、玲にはとても美しく尊く見えた。それと同時に、玲の中にひとつの感情が生まれ始めた。

 「ありがとね!玲のおかげで吹っ切れた~!だからさ、玲も諦めるの諦めなよ?ぶち当たったらいいじゃん?やるだけやってそれでもダメならしょうが無いけどさ、何もやらずに諦めるのって、やって諦めるよりも嫌じゃない?」

 玲は口元をにやりとさせて言った。

 「そうだな・・・ぶち当たるのも悪くないかもね」

 そう言うと赤く染る夕焼けの空を見上げた。

 (お礼言わないと行けないのはこっちだよ・・・ありがとう、薫・・・。)

 玲の頬から微かに涙が流れる。今まで必死に隠してきた感情が込み上げたかのように・・・。

 「あ、玲泣いてんの?」

 薫が涙を見て少しだけバカにするように無邪気に笑った。

 「これ、涙じゃないよ?ちょっと汗かいただけだから。」

 「ふむふむ~、泣いてもいいんだよ~?ほらほら~、お姉さんの胸に飛び込んでおいで~。」

 「それは無理」

 「は?なんでよ~!」

 「だって薫、胸な・・・」

 玲が言いかける前に玲の腹めがけてパンチをキメた。鈍い音と共に「うっ・・・」という玲の苦しそうな声だけが残った。
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