【完結】桜色の思い出

竹内 晴

文字の大きさ
上 下
1 / 12

春の1ページ

しおりを挟む
 桜が舞う春の季節。

 今日から新しい人生ものがたりが始まる。

 中学生を終え、高校生となる。

 ワクワクとドキドキで胸踊る新生活。

 それは、新しい本との出会いを彷彿ほうふつとさせるような感情を思わせる。

 これから始まる物語は、2人の男女の物語。

 それでは、人生じんせいと云う名の本のページをめくって行こう。

 「入学式も終わって今日から高校生か~。なんか実感わかないなー。」

 彼女の名は桜乃はるの 由紀みゆき

 彼女は、今日から新1年生として三州高校みしまこうこうに通うこととなった。

 「あ!!」

 由紀が驚きながらも嬉しそうな声で叫んだ。その視線の先にいた人物こそが、この物語におけるもう1人の重要人物である。

 「おっはよ!!」

 由紀に肩を強く叩かれ少し痛がる素振りを見せる。彼の名は井上いのうえ 春斗はるとである。

 2人は幼稚園の頃からの幼なじみで住む家も隣同士、小学生からずっと2人で人生じんせいを歩んできた。2人は一心同体いっしんどうたいと言っても過言かごんではない程の仲である。

 しかしながら、2人には互いに言えない秘密があった。

 それは・・・

 互いに互いを好きであるということ。勿論それは友達や幼なじみといった感情ではなく男女として、つまり初恋の相手として好きであるということである。

 しかしながらお互いに初恋同士。恋愛などしたこともない2人が揃うとどうなるか?

 「おう、相変わらず痛えな」

 「う、うるさい!」

 「てか由紀の教室別じゃん?早く行かねーと最初のHRホームルームから遅刻すんぞ?」

 お互いに素直になれない現状が生まれるのだ。

 (本当は同じ教室になりたかった・・・)

 「とは、口が裂けても言えない・・・」

 由紀が思わず口に出してしまった言葉を聞かれていないか辺りを見渡し、人影がないことにほっと肩を撫で下ろすと、由紀の背後から突如として肩を軽く叩かれる。

 由紀が思わず声を出し驚きながら後ろを向くと中学からの同級生だった速水はやみ とおるがいた。

 「玲!?」

 由紀のその声に反応するように自身の教室に入りかけていた春斗が由紀を見る。しかし、2人との距離は遠く会話まで聞こえない春斗は気になるのを隠すことができず、2人のことを見つめていた。

 (あの2人、中学から仲良いよな・・・。てか何話してんだよ!こっからじゃ会話も聞こえないし・・・)

 春斗がそんなことを考えていると、教室の中から春斗
を呼ぶ声が聞こえる。しかし、春斗は2人の様子が気になるあまりその声を聴き逃していた。

 「ちょっと聞いてるの?春斗ってば!?」

 突如として春斗の耳に入る声に驚きを隠せず、春斗は少し動揺しながら声の主の方に視線を移した。

 「何回も呼んでるのにさー、春斗ってほんと集中しだすと周りのこととか見えなくなるよね。」

 春斗に声をかけてきたのは、玲と同じく中学からの同級生だった天海あまみ かおるである。

 その2人の姿は由紀の視線に不本意ながら入ってしまう位置であり、春斗と同じく由紀も全く同じことを考えていた。

 (中学の時から思ってたけど、なんであんなに春斗にべったりなのよ!ここからじゃ何話してるかなんて聞こえないし!!)

 そう、2人は無意識に以心伝心してしまうのだ。

 「早く行こー!春斗!」

 薫は春斗の手を握りながら由紀の方に目線だけ移した。薫が由紀と視線があったことを確認すると、由紀に勝ち誇ったような笑みを浮かべて教室に入った。

 (あいつ!絶対わざとだ!)

 由紀の変化に気がついた玲は由紀をなだめるように言った。

 「また薫か?ったくあいつも暇だよな~。由紀の気持ち知っててやってんだろ?」

 玲は苦笑いをしながら由紀の気持ちを察して続けた。

 「けどさ!中学の頃の噂?じゃないけど、薫って春斗にふられてるらしいぜ?」

 玲のその言葉に一瞬言葉を無くした由紀だったが、すぐにその意味を理解しほっとしたように笑った。

 玲が何かを思い出したように言った。

 「そうだ!俺らも早く教室行くぞ!HR始まっちまう!」

 その言葉で我に返った由紀が玲の腕を持ち走り出した。

 案の定、教室は2人の席以外埋まっており注目の的になっていた。

 (こんなはずじゃなかったのに・・・)

 由紀が懸念けねんしていたことはすぐに起こってしまった。

 桜乃さんているじゃん?あの子2組の速水くんとできてるらしいよ?

 え~、速水くんちょータイプだったのに・・・

 速水くんと桜乃さん廊下で見たんだけど、あの2人どんな関係なんだろ?

 お互いに名前で呼びあってたし・・・。もしかして・・・。

 同級生の女子たちの間で入学初日から噂になってしまった由紀。

 しかし、それとは別でまたもうひとつの噂も広がっていた。

 (やっぱりこうなるよね・・・。)

 由紀は自身の机にうつ伏せになり状況整理をしていた。

 入学初日からズレ始める歯車、2人の恋の行方はどうなってしまうのだろうか・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

傷つけて、傷つけられて……そうして僕らは、大人になっていく。 ――「本命彼女はモテすぎ注意!」サイドストーリー 佐々木史帆――

玉水ひひな
青春
「本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~」のサイドストーリー短編です!  ヒロインは同作登場の佐々木史帆(ささきしほ)です。  本編試し読みで彼女の登場シーンは全部出ているので、よろしければ同作試し読みを読んでからお読みください。 《あらすじ》  憧れの「高校生」になった【佐々木史帆】は、彼氏が欲しくて堪まらない。  同じクラスで一番好みのタイプだった【桐生翔真(きりゅうしょうま)】という男子にほのかな憧れを抱き、何とかアプローチを頑張るのだが、彼にはいつしか、「高嶺の花」な本命の彼女ができてしまったようで――!   ---  二万字弱の短編です。お時間のある時に読んでもらえたら嬉しいです!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...