5 / 7
第4話 室内飼いの猫だもの
しおりを挟む
朝の光に目を覚ます。
ゆっくりと目を開けると、目の前に美少女の顔があった。色白な幼くも整った顔立ちに、美しい白髪、そして白くて長いまつ毛。
寝起きで視界に入る美貌に一瞬思考が停止するが、すぐに昨夜のことを思い出す。
「夢じゃなかった…」
思わず口に出た小さな呟きに少女のまつ毛がピクっと揺れ、その瞼がゆっくりと開く。
「…ん、ご主人…おはよ」
まだ眠そうな翡翠色の瞳が私を見つめる。
「ユキ、おはよう」
そう言ってユキの頭を撫でると、先に布団から出てカーテンを開ける。ベランダを出ると、鉢植えの小さな芽が少し大きくなっていた。
「ユキを連れてきてくれてありがとう」
水をあげて感謝の言葉を伝える。私の言葉はちゃんと届いていたんだ。
それからユキと朝食を食べて出かける準備をする。今日は休日だからユキの服を買いに行こうと思う。ユキを外に連れていくのは病院の時くらいだったので、一緒に買い物なら喜ぶだろう。
「ユキ、お買い物行こう」
だけどユキから返ってきた返事は予想外の言葉だった。
「行かない」
「え…なんで…?」
するとユキは自信満々に答える。
「私にはご主人のお見送りとお迎えという重要な任務があるのだ!」
あぁ、もう本当に可愛い。元室内飼いの猫をいきなり買い物に連れ出すのは、かなりレベルが高かったかもしれない。これから少しずつ外に慣れていけばいいよね。仕方ないので1人で買い物に行くことにした。
「ユキ、どんな服がほしい?」
「服などいらないぞ?私にはこれがある」
ユキは自分が着ているワンピースを指差す。昨日お風呂に入れた時、ワンピースを洗濯する間に私の服を着せようと思ったのだが、どこからかもう1着取り出して着ていたのだ。
「他にも着てみたい服とかあるでしょ?」
「じゃあ、ご主人が着てたこれ!ご主人の匂いがするから好き」
諦めきれない私を気にする様子もなく、クローゼットから私のTシャツを取り出した。私の匂いがする服がいいなんて本当に可愛い。
どんな服を着せようか考えていたのに、そんな可愛い拒否をされたなら諦めるしかない。他に必要なものを探してこよう。
「ご主人!いってらっしゃい!」
「ユキ、いってきます!」
笑顔で駆け寄ってくるユキを抱きしめて家を出た。
さて、当初はユキの服目的の買い物だったので、結局買ったのは食料品とシャンプーハットだけだった。とりあえず、シャンプーハットがあればユキの頭も洗えるだろう。
「ご主人!おかえりー!」
帰宅して家に帰ると、ユキが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ユキ、ただいま!」
やっぱりユキのお迎えがあるのは嬉しい。
それから2人でのんびりとした休日を満喫し、再び嫌がるユキをお風呂に入れようと浴室に連れていく。
「これはなんだ?」
ユキは不思議そうにシャンプーハットを見つめる。そう、今回はこの秘密兵器があるのだ。
「水がかかっても大丈夫な秘密道具だよ」
「こんなもので私が守れるわけない」
不安そうなユキにシャンプーハットを装着し、頭からシャワーをかける。
「ぎゃぁぁ……あれ…?」
頭が濡れるのに悲鳴をあげるが、すぐに違和感に気付いたらしい。
「ね?大丈夫でしょ?」
「ご主人はすごいぞ!」
私が凄いわけじゃないけど、シャンプーハットは凄いらしい。ユキは急に自信満々だ。
「好きなだけお湯をかけてもいいぞ!」
さっきまで情けない悲鳴をあげてた癖に…。でもあんなにお風呂嫌いなユキが、大人しくシャンプーをさせてくれる日がくるなんて…本当に感動しかない。ありがとう、シャンプーハット!
こうやってこれからと2人の日常をもっと楽しく彩っていこう。
そしてユキが帰ってきてから数日が経った。
ベランダの鉢植えの小さな芽は少しずつ大きくなってきているし、ユキとの毎日は楽しくて幸せだ。
でも私はある問題に直面していた。それは、ユキが一向に家から出る気配がない事だ。私が出掛ける時はいつも笑顔で見送ってくれるが、私が準備をする間ずっと寂しそうに私にくっついて離れない。だから一緒に行こうと誘う時もあるけれど、絶対に拒否される。
基本的にユキの生活は猫のままで、昼間も寝ている事が多い。だから私がいない間もゴロゴロしているのだろう。
それなら少しくらい一緒に来てくれてもいいのに…。
「ユキ、今日は近くの公園までお散歩しない?」
「行かない、待ってる」
ずっとこの調子…。室内飼いの猫はみんなこうなのだろうか?お外に興味はないのかな?
それでもユキは頑に家から出ようとしないのだ。もっと時間が必要なのかな?
それからもう1つ、最近気が付いた違和感がある。それはユキが鉢植えを見る目だ。
人間になって戻ってきた時にユキは穏やかな瞳で小さな芽を見つめていたが、最近の鉢植えを見つめる翡翠色は、どこか不安気な揺らぎを見せる時がある。
私の気のせいかもしれないけど、なんとなくそんな気がする。
「ご主人!ぎゅーっ!」
考え事をしていると、ユキが後ろから抱きついてきた。
「よしよし」
こんなに元気なんだし、気のせいなんだろうな。そう思ってたユキを抱きしめた。
そして鉢植えの花は、もうすぐ蕾になろうとしていた。
ゆっくりと目を開けると、目の前に美少女の顔があった。色白な幼くも整った顔立ちに、美しい白髪、そして白くて長いまつ毛。
寝起きで視界に入る美貌に一瞬思考が停止するが、すぐに昨夜のことを思い出す。
「夢じゃなかった…」
思わず口に出た小さな呟きに少女のまつ毛がピクっと揺れ、その瞼がゆっくりと開く。
「…ん、ご主人…おはよ」
まだ眠そうな翡翠色の瞳が私を見つめる。
「ユキ、おはよう」
そう言ってユキの頭を撫でると、先に布団から出てカーテンを開ける。ベランダを出ると、鉢植えの小さな芽が少し大きくなっていた。
「ユキを連れてきてくれてありがとう」
水をあげて感謝の言葉を伝える。私の言葉はちゃんと届いていたんだ。
それからユキと朝食を食べて出かける準備をする。今日は休日だからユキの服を買いに行こうと思う。ユキを外に連れていくのは病院の時くらいだったので、一緒に買い物なら喜ぶだろう。
「ユキ、お買い物行こう」
だけどユキから返ってきた返事は予想外の言葉だった。
「行かない」
「え…なんで…?」
するとユキは自信満々に答える。
「私にはご主人のお見送りとお迎えという重要な任務があるのだ!」
あぁ、もう本当に可愛い。元室内飼いの猫をいきなり買い物に連れ出すのは、かなりレベルが高かったかもしれない。これから少しずつ外に慣れていけばいいよね。仕方ないので1人で買い物に行くことにした。
「ユキ、どんな服がほしい?」
「服などいらないぞ?私にはこれがある」
ユキは自分が着ているワンピースを指差す。昨日お風呂に入れた時、ワンピースを洗濯する間に私の服を着せようと思ったのだが、どこからかもう1着取り出して着ていたのだ。
「他にも着てみたい服とかあるでしょ?」
「じゃあ、ご主人が着てたこれ!ご主人の匂いがするから好き」
諦めきれない私を気にする様子もなく、クローゼットから私のTシャツを取り出した。私の匂いがする服がいいなんて本当に可愛い。
どんな服を着せようか考えていたのに、そんな可愛い拒否をされたなら諦めるしかない。他に必要なものを探してこよう。
「ご主人!いってらっしゃい!」
「ユキ、いってきます!」
笑顔で駆け寄ってくるユキを抱きしめて家を出た。
さて、当初はユキの服目的の買い物だったので、結局買ったのは食料品とシャンプーハットだけだった。とりあえず、シャンプーハットがあればユキの頭も洗えるだろう。
「ご主人!おかえりー!」
帰宅して家に帰ると、ユキが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ユキ、ただいま!」
やっぱりユキのお迎えがあるのは嬉しい。
それから2人でのんびりとした休日を満喫し、再び嫌がるユキをお風呂に入れようと浴室に連れていく。
「これはなんだ?」
ユキは不思議そうにシャンプーハットを見つめる。そう、今回はこの秘密兵器があるのだ。
「水がかかっても大丈夫な秘密道具だよ」
「こんなもので私が守れるわけない」
不安そうなユキにシャンプーハットを装着し、頭からシャワーをかける。
「ぎゃぁぁ……あれ…?」
頭が濡れるのに悲鳴をあげるが、すぐに違和感に気付いたらしい。
「ね?大丈夫でしょ?」
「ご主人はすごいぞ!」
私が凄いわけじゃないけど、シャンプーハットは凄いらしい。ユキは急に自信満々だ。
「好きなだけお湯をかけてもいいぞ!」
さっきまで情けない悲鳴をあげてた癖に…。でもあんなにお風呂嫌いなユキが、大人しくシャンプーをさせてくれる日がくるなんて…本当に感動しかない。ありがとう、シャンプーハット!
こうやってこれからと2人の日常をもっと楽しく彩っていこう。
そしてユキが帰ってきてから数日が経った。
ベランダの鉢植えの小さな芽は少しずつ大きくなってきているし、ユキとの毎日は楽しくて幸せだ。
でも私はある問題に直面していた。それは、ユキが一向に家から出る気配がない事だ。私が出掛ける時はいつも笑顔で見送ってくれるが、私が準備をする間ずっと寂しそうに私にくっついて離れない。だから一緒に行こうと誘う時もあるけれど、絶対に拒否される。
基本的にユキの生活は猫のままで、昼間も寝ている事が多い。だから私がいない間もゴロゴロしているのだろう。
それなら少しくらい一緒に来てくれてもいいのに…。
「ユキ、今日は近くの公園までお散歩しない?」
「行かない、待ってる」
ずっとこの調子…。室内飼いの猫はみんなこうなのだろうか?お外に興味はないのかな?
それでもユキは頑に家から出ようとしないのだ。もっと時間が必要なのかな?
それからもう1つ、最近気が付いた違和感がある。それはユキが鉢植えを見る目だ。
人間になって戻ってきた時にユキは穏やかな瞳で小さな芽を見つめていたが、最近の鉢植えを見つめる翡翠色は、どこか不安気な揺らぎを見せる時がある。
私の気のせいかもしれないけど、なんとなくそんな気がする。
「ご主人!ぎゅーっ!」
考え事をしていると、ユキが後ろから抱きついてきた。
「よしよし」
こんなに元気なんだし、気のせいなんだろうな。そう思ってたユキを抱きしめた。
そして鉢植えの花は、もうすぐ蕾になろうとしていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
記憶も記録もありません…全てを消された放浪者(わたし)は、わけもわからずスローライフしてます❗️
Ⅶ.a
ファンタジー
主人公、ライラは目覚めると、記憶も、名前も、過去もすべてを失っていた。荒涼とした大地に立ち尽くす彼女は、自分が誰で、何故ここにいるのか一切わからないまま、ただ一人で歩み始める。唯一の手がかりは、彼女の持つ一冊の古びた日記帳。だが、その日記帳もほとんどのページが破られ、読める部分は僅かしか残っていない。
日記の数少ない記述を頼りに、ライラは静かな村「エルムウッド」にたどり着く。この村はまるで時間が止まったかのように穏やかで、住人たちは皆、心優しく、彼女を温かく迎え入れる。ライラは村人たちと一緒に日々の生活を送りながら、自分の過去を取り戻すための手掛かりを探していくことになる。
村での生活は、彼女にとって新鮮で驚きに満ちていた。朝は鶏の世話をし、昼は畑で野菜を育て、夕方には村の人々と共に夕食を囲む。そんな日々の中で、ライラは次第に自分の心が癒されていくのを感じる。しかし、その穏やかな日常の中にも、彼女の失われた記憶に関する手掛かりが少しずつ現れてくる。
ある日、村の古老から語られた伝説が、ライラの記憶の一部と奇妙に一致することに気づく。かつて、世界には大きな戦争があり、その中で多くの記憶と記録が意図的に抹消されたという。ライラの失われた記憶も、その戦争に関わっているのではないかと推測する。古老の話を聞くたびに、彼女の中に何かが目覚め始める。
エルムウッド村でのスローライフは、ライラにとっての癒しとともに、自分を取り戻すための旅路でもある。村人たちの温かさに触れ、日々の小さな喜びを見つける中で、彼女は少しずつ自分の居場所を見つけていく。彼女の過去が何であれ、今を生きることの大切さを学びながら、ライラは自分の未来を描き始める。
物語は、ライラがエルムウッド村での生活を通じて成長し、自分の本当の姿を見つける過程を描く。喪失された記憶、抹消された記録、そして全てを消された放浪者としての彼女が、新しい生活の中でどのように自分を再発見していくのか。ライラの冒険と共に、読者はほっこりとした温かい気持ちになりながら、彼女の物語に引き込まれていく。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる