【完結】不思議なホラー

竹内 晴

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なんの声?

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 それはまだ、俺が19歳の頃の話。

 バイト先の友達、男女含めて6人でとある廃墟はいきょのホテルにきていた。ここは、ラブホ街に位置しており、小さな山にいくつも並ぶホテルの内の1つである。

 このホテルは、山頂の木々が生い茂る部分の側面に位置していたため、ホテルの駐車場入口になる坂には木や草が無造作に生えており、道には折れた大木が横たわる異様な空気のたたずまいをしていた。

 その光景はまるで、来るものを拒むかのようなどんよりとどこか嫌な空気をかもし出していた。

 俺たちは、車を廃墟のホテルの近くの路上に止めて、中へは皆で歩いて入ることにした。

 駐車場の坂を登ると、道には木の枝が散らばり、左右を見てもジャングルかと思うほど草木が生えていた。カーブに差し掛かると折れた大木がカーブの角に沿うように横たわっており、俺たちは大木を避けるように進んでいく。

 少し進んだところでガラリと景色が変わり、異世界にでも行ったかのような感覚になった。そこには、ホテルの中庭があり、左を見ると何十年も使われていないような壊れた車が無造作に止まっている。

 俺を含めた男女6人がそのまま中庭を進みホテルの入口に到達した。ホテルの入口の側面には雑草が生い茂っていた。

 俺は先陣を切って中に入ろうと1歩足を踏み入れた瞬間背筋が凍った。なんとも言えない重苦しい空気、背後から感じる正体も分からない視線、明らかに外気よりも冷たい空気。俺はそのプレッシャーに耐え切ることができず入ることを諦めた。

 それからは俺は後ろの方で待機しており、A君がホテルの中へ入ろうとした。

 次の瞬間だった。

 俺は茂みの方から俺たちのことをじっと見つめる視線を感じた。「何かまずい気がする」そう思った俺は「ちょっと待って!」と声を出してA君がホテルへ入ることを阻止した。

 A君は「なんでよ?」と不思議そうに俺に聞いてきた。

 「あっちの方からなんかわからんけど見られてるみたいな視線感じるねん」

 俺は茂みを指さして言った。一緒に来ていた女の子たちは「キャー」と少し怖がっていたがB君が「気のせいやろ」と再びホテルに入ろうとする。

 その瞬間、先程と全く同じ視線を感じたが、今回のは先程よりも強く冷たい空気だった。俺は慌ててB君を呼び止める。俺は茂みをじっと見つめてB君が中に入らないように止めていた。

 ただならぬ緊張感を感じたのか、B君が「帰った方が良さそうやな」と言いながら入口から離れる。その瞬間、一気に緊張がほぐれた。

 中庭を通りながらB君が俺に声をかけてきた。

 「ホンマにやばいと思った。俺もなんかわからんけど言うてた視線みたいなん感じてさ。ホンマにあかんって思ったわ。」

 そういうとB君が壊れた車の方を指さして言った。

 「入った時からずっと気になっとったんやけど、あれが一番ヤバイ気するねん。ちょっと写真だけ撮るわ。」

 B君がホテルの小窓をバックに車を含めて廃墟のホテル全体が写るように写真を撮った。

 家に帰った俺にB君から一通のメールが届いた。

 「あの写真ホンマにやばかったから見て欲しい!」

 そう書かれたメールと先程の写真が送られてきた。

 そこには、明らかに車の前にモヤがかかっており、そのモヤは人が立っているようにも見えた。更に、ホテルの小窓からは階数やバラバラの位置の窓からこちらを見つめる3つの顔が見えていた。

 明らかにやばいと感じた俺は霊感が強い友達に相談することにした。

 翌日、返事が返ってきた。俺はその内容に鳥肌が止まらなかった。

 「これ、3人じゃなくて窓全部からお前ら見られてるで?これ、中に入らんで良かったな。」

 あの日もしも中に入っていたならどうなっていたのだろうか。そう思いながら、B君に連絡をして写真を削除してもらった。

 それから数週間が経ち、俺はあの日のことなど忘れてしまっていた。

 しかし、その日の夜に事件は起こった。

 突然耳鳴りが片耳だけなり始めた。俺はいつもの事かと寝返りを打つが、その日はいつもと違って耳鳴りは止むことはなかった。不思議に思いながらもまた寝返りを打つが、その音は向きを変える度にどんどん大きくなって行った。

 耳鳴りの音も、最初は「ピー」とモスキート音の様な音だったが、徐々にその音がラジオのような「ザザザ」と言う音に変わり、最後には激しく砂が擦り合うような音に変わった。しかし、寝返りを打つとその音が止まり俺は「ホッ」と肩を撫で下ろした。

 しかし、次の瞬間・・・。

 「ねえ?」

 耳元で女性が囁きかけてきたのだ。もちろん、部屋には俺しかおらず、辺りを見渡しても誰もいない。怖くなった俺は、急いで家を飛び出した。扉の前で外気を吸い呼吸を整えてから部屋に戻った。

 恐る恐る布団をめくるが、先程の声の主はいるはずもなく、俺は少し「ホッ」とした。

 それからその声もその耳鳴りも聞くことはなくなっていたが、その当時付き合っていた彼女から妙な話を耳にする。

 「そういえばさ、泊まり行った時にシャワー借りたやん?そん時にドアの前で女の人かな?「ねえ?」って聞こえたからお母さんかなって思ってドアの方見たら誰もおらんくてな?部屋のすりガラスあるやん?寝れんくてずっとそこ見てたんやけど、俺くんがドアの方向いてる時は何も無いねん。けどな、うちの方向いてる時だけ女の人の影がなんか行き来しててさ。お母さんにしては動きとかも変やしなんやったんやろうな?」

 俺は、その瞬間鳥肌が止まらなかった。そう、あの出来事は夢なんかじゃなかったのだ・・・。
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