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第一章
転生したら肉の塊だった
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記憶に残っているのは、破砕機に飲み込まれていく右手……。
多分、俺は死んだのだろう。
廃棄物処理施設で働いていた俺は、破砕機に投げ入れたプラスチックゴミに絡んでいた紐に気づかず、右腕から破砕機に引きずり込まれていった。
そして今、俺は崖の上を歩いていた。
右側は漆黒の靄が覆う奈落。
左側は、巨大なローラーが回転する破砕機のようなもの。
足元は幅10cmにも満たない細い道が続いており、右か左を選択しろと、強い風が吹き付けてくる。
俺は細く灰色の道を歩き続けていた。
やがて、右側から伸びてきた、触手の先にサメの口をつけたようなモノに右手を食われた。
痛みは感じなかったが、俺の体は前のめりに倒れた。
左側から伸びてきた触手に左手も食われる。
左ひじ、肩、右足、膝、太もも、脇腹、胸。
そして最後に両側から伸びてきた触手に頭を食われた。
次の瞬間、俺は暗闇の中にいた。
体という認識は無かったが、食われているという感覚はあった。痛覚はない。
-死にたくなければ喰え-
そんな声が聞こえた気がした。
今、俺を喰っているのはネズミだろう。
俺は体を広げてネズミを捕食した。
アメーバーのような感じだった俺の体が、四足動物のそれに変化し、目・耳・鼻・口が生まれた。
視界と動ける体を手に入れた俺は、周囲を確認しながら生き物を片っ端から吸収していった。
まだ足りない。
本来の体に戻すためには、もっと多くのエサが必要だった。
最初は”吸収”しか選択肢のなかった行動だが、”見る””聞く””嗅ぐ”とできることが増えていく。
”歩く”で移動を選択したのだが、四足歩行には慣れていない。
だが、移動したおかげで、完全だった闇に、変化が生じた。
光を感じたが、まだはっきりと見ることはできない。
”見る”と”触れる”ことで、今いる場所が湿った岩に囲まれた空間であることを認識した。
多分1mくらいの横穴で、光は眩しくて直視できない。
多分、その穴の出口らしい場所に近づいた俺だったが、ふいに足元の感覚がなくなったことに気づいた。
右の前足が宙に浮き、バランスを崩した俺の体は頭を下にして落ちていった。
ふいに浮遊感が消え、3・4度体がはねた。
痛みはない……、というか、痛覚自体が”まだ”ないのかもしれない。
呆然とそんなことを考えた。
多分、体に損傷はなかったと思う。
唯一、前足だけがうまく動かない。
それでも這うように移動し、目に入った緑の物体を吸収した。
多分、草だったのだろう。
俺は光合成を習得した。
太陽エネルギーを利用して水を分解し、酸素を取り出して二酸化炭素から炭水化物を合成する。
試験用に丸暗記した文章が頭に浮かんだが、これは役に立つんだろうか。
だが、太陽光は活力を与えてくれた。
ぼんやりとした視界内で動くものを触手で捕獲し、次々と吸収していく。
虫やヘビ、ミミズにトカゲに小型の魔物。
昆虫の羽を生やすことはできたが、この体を飛ばせるような浮力は得られていない。
それにしても、魔物か……。ここは俺のいた世界とは違うようだ。
時間の感覚はなかったが、昼と夜の区別はついた。
昼は暖かく、エネルギーに満ちて動けるが、夜になって冷え込むと体の機能が低下する。
このころ、中型の哺乳類らしき生物にかじられる事態が発生した。
痛みはなかったが、不快感が大きい。
動きの鈍る夜だったため、体を硬くして抵抗したが、一割ほど食われてしまったようだ。
昼間の時間帯に捕食したネズミなどから、俺は体を毛で覆うことを覚えた。
これで体温の維持が可能となり、夜も動けるようになった。
そして、ある夜。
ついに中型哺乳類の捕獲に成功した。
獲物は猫だった。
十分な量の血と肉を得た俺は、本来のDNAの持つ姿へと変態した。
まだ乳児だが、手足だけでなく、視力や張力など、人としての能力を取り戻し、そして人間に拾われた。
俺を拾ってくれたのは年老いた夫婦だった。
俺は、定期的な食事を与えられ、レオという名を授かった。
時間はかかったが、言葉を教えてもらい、この世界の知識も与えられた。
二人に隠れて、周囲に生息する動物類を吸収していく俺は、いくらでも成長することができたが、見かけの成長速度は人間の5倍くらいにとどめておいた。
それでも、老夫婦にすれば驚異の成長だったと思う。
まあ、かぐや姫も成長が早かったというし、許容範囲だろう。
ここはガラル帝国の北東にあたる辺境部で、最寄りの村からは人間の足で3日ほどの距離だという。
一日30km歩くとして、100kmほどだろうか。
老夫婦は、若いころは村に住んでいたが、村を追い出されたらしい。
詳しいことは聞けなかったが、どうも禁忌をおかしたらしい。
二人は、小さな畑で穀物を育て、罠で動物を捕らえて暮らしていたため、一年過ぎてからは農業に専念してもらい、狩りは俺が担当した。
サルと同じ俊敏性を持ち、オオカミやヤマネコの嗅覚と張力を持つ俺には、普通の動物は簡単に捕獲できた。
獲物は木のヤリだけだ。
更に、蝙蝠のエコーロケーションで周囲の状況を確認し、変幻自在の触手を使えばヤリすらも必要なかった。
ヤリは老夫婦を納得させるために持っているようなものだった。
家の周囲に出る魔物はゴブリンとツノウサギの2種類だけだった。
一度だけゴブリンを吸収したのだが、とてつもなく臭かった。
だが、魔物からは魔石という魔力の結晶を得ることができるため、魔石目当てで狩りは続けた。
ツノウサギは普通に食えた。
二人と暮らすようになって2年。
老衰により二人は相次いで他界した。
散々迷ったが、俺は二人を吸収した。
二人と離れたくなかったのだ。
二人を吸収したことで、俺の体に魔力が生まれ、二人の知識にあった生活魔法を習得した。
狩りに使える程ではないが、水を出したり火を起こすこともできる。
風呂に入らず体を清潔に保つのも生活魔法だ。
普段の俺は、なめし皮で婆さんが作ってくれたノースリーブを着ている。
ほかに俺の持ち物はないのだが、爺さんの使っていた収納袋に二人の遺品を詰め込んで、俺は南東を目指した。
この方角に都があるらしい。
家を出発した時は12才くらいの体だったが、旅の途中で15才くらいまで成長させた。
特に急ぐ旅でもない。
家の周りとは違う獲物を吸収しつつ、都を目指していく。
「そういえば……飛べるかな。」
小さいころは虫の翅を再現して飛ぼうとしたがダメだった。
羽を作るのは面倒なので、蝙蝠の羽にした。
肩口に切れ込みを入れて、そこから羽を外に出す。
1mの羽では、全然浮力は得られなかった。
2m、3m……、5mで少しだけ浮力を感じた。
片側8mでやっと浮くことができたが、実用的ではない。
「やっぱり、人間の体は飛ぶようにできてないんだな。」
それでも、川を渡ったり、谷を飛び越えたりできるのは便利だろう。
まあ、被膜を薄くしてあるので、服の内側にたたむことができる。
適当に練習しながら行くことにした。
【あとがき】
スキルの吸収を書きたくなって始めて見ました。ほかの2作があるので、気が向いたときに更新します。
多分、俺は死んだのだろう。
廃棄物処理施設で働いていた俺は、破砕機に投げ入れたプラスチックゴミに絡んでいた紐に気づかず、右腕から破砕機に引きずり込まれていった。
そして今、俺は崖の上を歩いていた。
右側は漆黒の靄が覆う奈落。
左側は、巨大なローラーが回転する破砕機のようなもの。
足元は幅10cmにも満たない細い道が続いており、右か左を選択しろと、強い風が吹き付けてくる。
俺は細く灰色の道を歩き続けていた。
やがて、右側から伸びてきた、触手の先にサメの口をつけたようなモノに右手を食われた。
痛みは感じなかったが、俺の体は前のめりに倒れた。
左側から伸びてきた触手に左手も食われる。
左ひじ、肩、右足、膝、太もも、脇腹、胸。
そして最後に両側から伸びてきた触手に頭を食われた。
次の瞬間、俺は暗闇の中にいた。
体という認識は無かったが、食われているという感覚はあった。痛覚はない。
-死にたくなければ喰え-
そんな声が聞こえた気がした。
今、俺を喰っているのはネズミだろう。
俺は体を広げてネズミを捕食した。
アメーバーのような感じだった俺の体が、四足動物のそれに変化し、目・耳・鼻・口が生まれた。
視界と動ける体を手に入れた俺は、周囲を確認しながら生き物を片っ端から吸収していった。
まだ足りない。
本来の体に戻すためには、もっと多くのエサが必要だった。
最初は”吸収”しか選択肢のなかった行動だが、”見る””聞く””嗅ぐ”とできることが増えていく。
”歩く”で移動を選択したのだが、四足歩行には慣れていない。
だが、移動したおかげで、完全だった闇に、変化が生じた。
光を感じたが、まだはっきりと見ることはできない。
”見る”と”触れる”ことで、今いる場所が湿った岩に囲まれた空間であることを認識した。
多分1mくらいの横穴で、光は眩しくて直視できない。
多分、その穴の出口らしい場所に近づいた俺だったが、ふいに足元の感覚がなくなったことに気づいた。
右の前足が宙に浮き、バランスを崩した俺の体は頭を下にして落ちていった。
ふいに浮遊感が消え、3・4度体がはねた。
痛みはない……、というか、痛覚自体が”まだ”ないのかもしれない。
呆然とそんなことを考えた。
多分、体に損傷はなかったと思う。
唯一、前足だけがうまく動かない。
それでも這うように移動し、目に入った緑の物体を吸収した。
多分、草だったのだろう。
俺は光合成を習得した。
太陽エネルギーを利用して水を分解し、酸素を取り出して二酸化炭素から炭水化物を合成する。
試験用に丸暗記した文章が頭に浮かんだが、これは役に立つんだろうか。
だが、太陽光は活力を与えてくれた。
ぼんやりとした視界内で動くものを触手で捕獲し、次々と吸収していく。
虫やヘビ、ミミズにトカゲに小型の魔物。
昆虫の羽を生やすことはできたが、この体を飛ばせるような浮力は得られていない。
それにしても、魔物か……。ここは俺のいた世界とは違うようだ。
時間の感覚はなかったが、昼と夜の区別はついた。
昼は暖かく、エネルギーに満ちて動けるが、夜になって冷え込むと体の機能が低下する。
このころ、中型の哺乳類らしき生物にかじられる事態が発生した。
痛みはなかったが、不快感が大きい。
動きの鈍る夜だったため、体を硬くして抵抗したが、一割ほど食われてしまったようだ。
昼間の時間帯に捕食したネズミなどから、俺は体を毛で覆うことを覚えた。
これで体温の維持が可能となり、夜も動けるようになった。
そして、ある夜。
ついに中型哺乳類の捕獲に成功した。
獲物は猫だった。
十分な量の血と肉を得た俺は、本来のDNAの持つ姿へと変態した。
まだ乳児だが、手足だけでなく、視力や張力など、人としての能力を取り戻し、そして人間に拾われた。
俺を拾ってくれたのは年老いた夫婦だった。
俺は、定期的な食事を与えられ、レオという名を授かった。
時間はかかったが、言葉を教えてもらい、この世界の知識も与えられた。
二人に隠れて、周囲に生息する動物類を吸収していく俺は、いくらでも成長することができたが、見かけの成長速度は人間の5倍くらいにとどめておいた。
それでも、老夫婦にすれば驚異の成長だったと思う。
まあ、かぐや姫も成長が早かったというし、許容範囲だろう。
ここはガラル帝国の北東にあたる辺境部で、最寄りの村からは人間の足で3日ほどの距離だという。
一日30km歩くとして、100kmほどだろうか。
老夫婦は、若いころは村に住んでいたが、村を追い出されたらしい。
詳しいことは聞けなかったが、どうも禁忌をおかしたらしい。
二人は、小さな畑で穀物を育て、罠で動物を捕らえて暮らしていたため、一年過ぎてからは農業に専念してもらい、狩りは俺が担当した。
サルと同じ俊敏性を持ち、オオカミやヤマネコの嗅覚と張力を持つ俺には、普通の動物は簡単に捕獲できた。
獲物は木のヤリだけだ。
更に、蝙蝠のエコーロケーションで周囲の状況を確認し、変幻自在の触手を使えばヤリすらも必要なかった。
ヤリは老夫婦を納得させるために持っているようなものだった。
家の周囲に出る魔物はゴブリンとツノウサギの2種類だけだった。
一度だけゴブリンを吸収したのだが、とてつもなく臭かった。
だが、魔物からは魔石という魔力の結晶を得ることができるため、魔石目当てで狩りは続けた。
ツノウサギは普通に食えた。
二人と暮らすようになって2年。
老衰により二人は相次いで他界した。
散々迷ったが、俺は二人を吸収した。
二人と離れたくなかったのだ。
二人を吸収したことで、俺の体に魔力が生まれ、二人の知識にあった生活魔法を習得した。
狩りに使える程ではないが、水を出したり火を起こすこともできる。
風呂に入らず体を清潔に保つのも生活魔法だ。
普段の俺は、なめし皮で婆さんが作ってくれたノースリーブを着ている。
ほかに俺の持ち物はないのだが、爺さんの使っていた収納袋に二人の遺品を詰め込んで、俺は南東を目指した。
この方角に都があるらしい。
家を出発した時は12才くらいの体だったが、旅の途中で15才くらいまで成長させた。
特に急ぐ旅でもない。
家の周りとは違う獲物を吸収しつつ、都を目指していく。
「そういえば……飛べるかな。」
小さいころは虫の翅を再現して飛ぼうとしたがダメだった。
羽を作るのは面倒なので、蝙蝠の羽にした。
肩口に切れ込みを入れて、そこから羽を外に出す。
1mの羽では、全然浮力は得られなかった。
2m、3m……、5mで少しだけ浮力を感じた。
片側8mでやっと浮くことができたが、実用的ではない。
「やっぱり、人間の体は飛ぶようにできてないんだな。」
それでも、川を渡ったり、谷を飛び越えたりできるのは便利だろう。
まあ、被膜を薄くしてあるので、服の内側にたたむことができる。
適当に練習しながら行くことにした。
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