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第四章

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ワシントンD.C.での対象者は50人だった。
長官クラスにまで拡大した結果だ。
ワシントンD.C.では、男性の看護師も多かった。
別に女性と決めつけた訳ではないので、俺は淡々と付与していく。
まあ、男性と女性では、気合の入り方が違うだけだ。


そして、その3日後から州単位での付与が始まる。
初日のニューヨーク州は人口1945万人、対象者は195人プラスアルファで200人。
俺はクリーンの付与だけで、説明はスタッフに任せている。
一番人口が多いのはカリフォルニア州の3951万人で、実質400人への付与だ。

アメリカの人口が3億2820万人なので、実質3500人程度だ。
州単位で一日かけるので、二か月弱必要だ。

その中に、WHO主催の3日も含まれる。

ニューヨークの会場には、朝早くから選抜された看護士が集まっていた。
スタッフが簡単な説明を行い、別室で付与に入る。

「あの……、パトリシアといいます。
本当にエイズが治るんですか?」

「エイズが治るかどうかはわからない。
僕の与える力は、ウィルスや細菌を駆除できるだけのものです。
医者ではないから、それで治療になるかどうかはわかりません」

「それって、治療ではないんですか」

「それはあなたのほうが詳しいでしょ。
エイズウィルスの陽性反応を陰性に変えることはできますが、免疫不全の状態が解消されるかはわかりません。
腫瘍は除去できると思いますけどね」

「そうですか……」

「誰か、知り合いがエイズなんですか?」

「妹が……」

「ここへ連れてこられるなら、後で診てあげてもいいですよ」

「ホントですか!」

「その代わり、全員が終わってからですよ」

「は、はい!」

「では、付与を済ませてしまいましょう」

全員が終わった後で、パトリシアの連れてきた妹を診る。

「うむ、腫瘍と免疫不全の両方ですか。
一応やってみましょう。
『ハイキュア!』
『クリーン!』
治療の魔法で腫瘍を除去してエイズウィルスもなくなったはずです。
これで、医師の診断を受けてみてください。
僕にできるのはここまでです」

「あ、ありがとうございました」


結局、他の場所でも同じようなケースがあり、一日仕事になってしまう

クリーンのメリットは計り知れないが、遠隔で処置できるのも大きい。
そしてそれはデメリットでもある。

そして、やっぱりトラブルも発生する。
駅のトイレが汚いので、クリーンをかけたら、中で使用中だった女性がスッピンになったとかだ。
この場合、器物損壊を適用するかどうかでもめている。
また、ホームレスを周辺ごときれいにしたら、風邪をひいて死んでしまった。
これは、いまだに犯人が見つかっていないのだが、直接の死因は風邪だ……

日本からは、医師に付与してほしいと希望された。
医師会の申し出らしいが、これは拒否した。


そしてWHOの一回目の日がやってきた。
一日当たり350人で、各国5人づつ。
人種もバラバラで、性別・年代もバラバラだ。
このチャンスに60歳の爺さんを送ってくる国は、何を考えているんだろう。
日本もそうだった。

肩書は保健〇〇協会理事……とか〇〇保健所長……、何を考えているんだろう。

「いや、すまないね」

「あなた。あと何年現役でやれるんですか」

「いや、若いもんが手をあげないんで、仕方なくだな……」

話す気も起きなかった。

「はい、次」


こうして、全米と全国への展開が終わった。
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