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第二章

憧れ

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メーカーへのプレゼンが終わるまで待つように言われ、やっと浅見と二人で話せる時間が取れた。

「当然、この世界じゃないわよね」

「ああ」

「自由に行き来できるってこと?」

「ああ」

「私だって、ライトノベルくらい読むのよ。
異世界ってやつよね」

「ああ」

「そこで末永君は自由にお城を使えるポジションにいる」

「ああ、そこの領主とは親友で、俺の嫁の兄でもある」

「写真のタイムスタンプを確認したわ。
亀から自宅らしい着替え風景、そして城。
瞬間的な移動が使えるのね」

「ああ」

「そういうのに憧れてたのよ。
でも、主人公は君で、私は脇役……」

「俺は、俺の物語の中で主人公をやってるだけだ。
お前にはお前の物語があるだろ」

「でも、私の物語には異世界はやってこない」

「こうして接点はできただろ」

「でも、私は変わらず会社へ通うわ」

「カエデというんだが」

「最初の奥さんね、黒髪の人」

「彼女と出会って、向こうに永住することに決めた。
こっちの世界には親も兄弟もいない。
俺は向こうの世界に家族を求めたんだ」

「そうなんだ……」

「行き来できるのは単なる幸運だ。
俺は向こうの世界のためにこっちを利用している。
君は何で異世界にこだわるんだ」

「……そうね、子供のころ人魚に憧れたの。
今でも人魚の登場するアニメは欠かさず見てるし、ゲームだってするわ。
でも、本物の人魚はこんなものじゃないって違和感があるのね。
なんだろう、生の魚だってバリバリ食べるだろうし、セックスだってするはずだし、トイレにも行く。
そういったものを超越してなお存在する美しさみたいなものを求めてるんだろうと思う」

「ああ、人間の姿から海に飛び込むときの美しさは表現しがたいな」

「くっ、ズルいよ自分だけ……」

「泣くほどのことじゃねえだろう」

浅見は俺の胸に顔をうずめた。

「感謝はしてるわ。
本物の人魚の画像を見られた。思い描いたとおりの美しさだった。
そして、彼女たちの服を作りたいって心から思った」

「作るのかよ」

「今回のプロジェクトもそうよ。
人魚に服を着させたらってコンセプト。発案者は私。
だけど、あんなものじゃ彼女たちの魅力は引き出せていないわ」

「人魚の美しさは、彼女たちの肌の白さにもある。
胸にかかるソバージュの髪とかな。
それは写真を撮っていて感じたよ」

「もっと露出を多くすればいいの?」

「いや、逆だと思う。
チャイナドレスのスリットのようなピンポイントの露出の方がいい。
それと対比した下着、もしくはスイムウェアかな……
ああ、例えばジムだ。黒のロングコートみないなのに、ヒールの高いサンダル。
脱ぎ捨てたコートの下にスポーツブラとパンツ。胸元に光る汗からのシャワーシーン。
黒のコートを羽織って夜の波止場。パサっと落ちるコートと海に飛び込む女性がマーメイドに戻っていく…
ダメだな、イメージが貧困すぎる……」

「うーん、黒との対比ね。
あーっ、もう!ねえ、会わせてよ、あの金髪の子、奥さんなんでしょ」

「別にいいけど、あっ、晩飯でも食ってくか」

「えっ、いいの?」

「なあ、テイクアウトできる美味いパスタないかな」

「私の行く、テイクアウトもやってる洋食屋さんならあるけど」

「5種類のパスタを3人前ずつ。ついでにスープとサラダもセットで5人前頼む」
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