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第一章

領主の弟

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「ひ、ひい! 誰か! 誰か!」

 呼びかけに応じる様にガチャガチャと鎧の音がする。

「サクラ、無力化して」

『はい』

 可愛そうだとは思う。 
重たい鎧をガチャガチャと鳴らしながら走ってきたところへ、サクラの電撃が襲う。


「国務大臣、マック、宰相を連れて領主のところへ」

 領主室の前にはフルアーマーにハルバート(斧槍)を携えた4名の衛兵がいた。

「クロウ、遊んでいいよ」

 物足りなそうにしていたクロウを解放する。
クロウの強襲に一旦身構える衛兵だが、クロウのスピードについていける筈もない。
驚いたことにクロウの爪は鎧さえも切り裂いた。 衛兵4人は為すすべもなく倒れこむ。 あとは蹂躙タイムだ。

「クロウはここに残って、増援がきたら無力化しといてね」

「にゃあ」

 領主は親族会議中のようだった。 直属スタッフを血縁者で固めているらしい。

「宰相、経過を説明して」

 宰相が息も絶え絶えに説明すると、領主の顔が怒りで真っ赤になる。 血圧たかそうだなこの人。

「ふざけるな、虫けらが金貨1000枚だと! すぐに兵を集めろ。
ゴルの奴らを皆殺しだ!」

 あまり状況が見えていないようだ。
俺が宰相の首を刎ねると噴出した血が領主の頭から降りかかる。
それで頭が冷えたのか領主が聞いてくる。

「この事をセキは知っているのか! 知っていたらタダでは済まさんぞ!」

「知らせていたら僕が一人で来るわけないでしょ。 まあ、一人でも大丈夫だけど」

「うぬっ……」

「僕ら夫婦に対する賠償として金貨500枚、ゴルに対する迷惑料として金貨500枚。
関係者の処分と新領主名の詫び状。 できれば武力による不可侵の約束を書面化したい」

「ふざけるなぁ!」

「発言してもよろしいでしょうか」

 金髪碧眼のイケメンがかかった血を拭いながら発言を求めてきた。

「どうぞ」

「継承権1位、現領主の弟でケビンといいます。
どうぞよろしくお願いします」

「ゴルの町のシュウです。
すると、現領主が失脚すれば新領主になられるわけですね」

「まあ、ここにいるスタッフの合意が必要ですけどね」

「ケビン! 反乱を起こす気か! わしは許さんぞ!」

「五月蝿いですね。『スリープ!』」

「ありがとうございます。それで、賠償金は領主の財産を差し押さえればお支払いできます。
関係者の処分も、残りは外務大臣とそこにいる3名なので問題ありません。
最後の不可侵の件ですが、どうしても町民の中にある東方の弱小集団という認識が拭えません」

「5倍の力量差だとそれはやむを得ないでしょうね」

「この町は、人口増加による食糧不足が問題になりつつあります。
できれば、ゴルの町との交易などでそういった問題が改善されるようなケースが確立できると、共存という意識が芽生えると思うのですが、いかがでしょう」

「食料なら僕が調達できますし、品種改良された穀物やイモ類根菜類の種も用立てできますよ。
それに、玉子を毎日産んでくれるトリの量産化を行っているところですので、そのノウハウとトリ自体をお分けすることもできます。
今回は、そのトリを無理やり持っていこうとしたのでこのような結果になりましたが、正当な段取りで合意のもとであればお譲りするのにやぶさかではありません」

「ケビン兄様、素晴らしい提案ではないですか。 今回の会合も食糧不足に備えてのもの。
現領主は、下にものに任せておけばよいという考えでしたが、こうした取り組みを町の行政区が中心となって行うことで町民の信頼を得ることができますよ。」

「そうですわね。私も賛成です」

「うん、みんなの考えは分かった。
シュウ殿、これからあらためて具体案を検討するという事で、この場を納めてもらえないだろうか」

「いいですよ」

「ゴルの町へは、ゴタゴタを片付けてお詫びに伺いたい。
それと、よろしければ個人的に友誼を結ばせて欲しいのだが……」

「よろこんでお受けいたします」
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