上 下
10 / 224
第一章

卒業

しおりを挟む
「えっ、バレちゃった?」

 そう言って小さく舌を出した。いわゆるテヘペロである。
その仕草に胸がキュンときたが、道場生の方は見事にノった。
そう、分かっているのに、カエデさんの仕掛けに悪乗りするのだ……

「あの新入り……」 「殺すか……」 「ふざけやがって……」

 やめようよ、みんなw
ほら、本気にしてるのが一人……

「それでは昇級戦を始める。
まずは新入りシュウ、対するは末席ザムザ」

 カエデさんの合図で試合を始める……コロスとかキルとか本気で言ってるんですけど……この人。

 いきなり上段に構えるザムザ。
えっ、素人の俺が見てもスキだらけなんですけど……もしかして誘い?

 迷っているうちに上段から振り下ろされる木刀。
少し下がって難なく避けるが、そのまま片手突きに変化……中段に構えてるのに突きって……
難なく払いザムザの頭に軽く木刀をあてる。

「それまで!勝者シュウ!」

 一応礼をして一旦下がる。

「次、35席タカス!」

「おう!」

 真剣勝負とはいえ、クマと対峙した時に比べれば緩い。
クマが相手だと、間合いを見切れなければ、胸に受けた爪痕のように自分が傷つく。
あと数ミリ深ければ、文字通り肉を持っていかれる。
木刀が掠めたところで、何のことはないので、ギリギリまで間合いを詰められる。
剣技と蹴り技で5人まで勝つことができた。

「次、13席 シンラ!」

「はい!」

 線の細い青年が立ち上がった。

「「お願いします!」」

 その瞬間、空気が変わった。
この人……強い。
互いに中段に構えたままだが、俺の方は動けない。
あらゆるパターンをシミュレートするが勝ち筋が見えない、

 動いた瞬間に切られるのが分かるほどには、上達した……のかな。


「まいりました……」正直に頭を下げる。

 その後、何人かが上位者に挑みいずれも退けられた。

「ふむ、こんなところかのう。
シュウよ、お主を十五位に任ずる。詳しくはギルドで確認するように」

 先生の言葉に場内がざわつく。
15位だと……大丈夫か……など

 午後は、高位者が順番に胸を貸してくれた。
切り返しが遅いとか、具体的に弱点を指摘してくれる。

「また、飯をもって遊びに来いよな」とか、「本気で嫁に来い」とかetc
やばい、目が霞んできた……

 道場の掃除を終え、そのまま宴会へと移行する。
料理は近くの食堂から持ち込まれたが、俺も仕込んでおいた寸胴を提供する。
最後となる料理は、クマ肉の味噌煮込みである。
数日間煮込んだクマのスネ肉はトロットロになっているし、一緒に煮た根菜類もいい感じだ。
仕上げに、アサツキのみじん切りをふりかけて完成。

 もう一品は、スペアリブである。肋骨周りの肉を、骨ごと漬け込んで煮詰めたもの。
醤油ベースではちみつをいれて甘辛く仕上げた。
これを唐揚げのごとく山盛りにして皿を出す。

「では、シュウ君の鍛錬終了と、十五位就任を祝して、乾杯!」

 第5席の先輩が音頭をとり、宴会が始まった。
先輩全員にお礼を兼ねて酌をして回るが、誰もが料理の味付けに使った調味料について聞いてくる。
味噌も醤油も発酵食品で、この世界では見当たらず、再現も難しい。
秘伝のタレで、在庫もほとんど残ってない旨伝えるとみんな残念がった。

 一番残念がっていたのはカエデさんだ。
私のお肉が……私のお肉が……と、同じことを何度も繰り返す。
仕方ないので、次回は他の肉料理を持ってくると約束した……いや、させられた。

 クマ肉はクセがあるため、豚や牛のようにクセのない肉はないのだろうか。
ウサギ肉でもいいが、やっぱりバラ肉が欲しい。
ライトノベルでは、よくオーク(猪)やミノタウロス(牛)の肉が美味い事になっているがどうなんだろう。
直立歩行であり、腹筋が割れているイメージがあるけど、筋肉質じゃないのか。
いつか遭遇できるんだろうか……そんなことを考えながら夜は更けていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...