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第一章
道場最後の日
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「うん、これなら大丈夫ね。
シュウさん、明日昇級戦があるの。
シュウさんは正式な門下生じゃないけど、一週間の成果を確かめたいから出てくださいね」
カエデさんからそう言われたのは、6日目の夕方だった。
「それから、夜は卒業祝いの宴会ですから、他に用事を入れないでくださいね」
そういうカエデさんの膝にはしっかりとサクラが陣取っている。
長毛種であるサクラは首のあたりが一番のモフりポイントだ。
柔らかな毛を堪能しつつ、首筋を撫でてやると喜ぶ。その辺は既に習得済みのようだ。
道場の掃除を終えて帰宅。
食事、入浴、明日の仕込みを終えて、久々にステータスを開くと生命力や攻撃力など軒並みふた桁に上がっていた。
キーボードを認識させるが、十の位は操作できなかった。
それでも全てのステを1Fにできた。これは大きい……十進数であれば16のステを31にあげた事になる。
一般的な成人男性が20である事を考えれば飛び上がりたくなるほどに嬉しい。
はあ、カエデさんとも会えなくなるな……
『ええ、カエデは撫でるのが上手ですから、少々寂しいですね』
……声に出ていたようだ……サクラ、少しは空気読めよ……
翌朝、いつもどおりに4時に家を出る。
やっぱり、足が軽い。飛んでいる虫の全てが認識でき、軽く避けながら走る。
いつもより早く道場に着いた。
釜で麦飯を炊き、クマドンの具が入った寸胴を温める。
それに加えて、今日はクマの生姜焼きだ。
鉄板の上で刻みニンニクを炒め、ニンニクの香ばしい香りが漂ってきたら生姜醤油に漬け込んでおいた薄切り肉を炒める。
クマの脇腹の肉で、適度に脂がのっている……美味そうだ。
皿にサラダ用の青物を盛り、そこに肉をのせる。
「お、なんの匂いだ……ニンニクだな!」
「くう、腹が泣くぜ……」
「ああ、母ちゃんの匂いだ……」
「今日は、僕の最終日ですから、朝から肉肉祭りですよ」
「待て、シュウの最終日……だと」
「明日からの、俺の飯はどうなるんだ!」
「シュウ、道場の賄いになれ!俺が推薦する!」
食事前から盛り上がってしまった。
「くうぅ、肉が目にしみるぜ」
「おかわり!」
「俺は、麦飯に直接生姜焼きを載せてくれ」
「うんめー」
「シュウ、俺の嫁になってくれ!」
「シュウ、カエデの婿にならんか!」
最後の一言に、静寂が訪れる。衝撃の発言主は先生だった。
「せ……先生、カエデお嬢さんの婿はお嬢さんより強いって条件が……」
「いや、シュウが婿さんになれば、毎朝美味い飯が……うっ、賛同してよいものか悩む……」
「お祖父様、冗談はそれくらいにしてくださいまし……」
心なしか、カエデさんの顔が赤く見えるが……彼女は美味しいものを食べると紅潮するきらいがある。
食事の片付けをし、道場に向かうとカエデさんが道着を手渡してくれた。
着ていたワークシャツを脱ぐとヒッ!と息を呑む音が聞こえた。
「シュウさん、その傷は……」
「ああ、毎日クマと真剣勝負してればこれくらいの傷はつきますよ。
傷だけ塞いで、自然治癒に任せた方が、ステータスの上がりが早いって聞いたもので……」
胸から脇腹へ、脇腹から尻へ、腕や足にも無数の傷跡があった。
「私にお肉を食べさせてくれるために、こんな無理を……」
カエデさんは、そう言いながら一番大きな胸の傷に指を這わせる……
「わざとですよね、それ」
そう、カエデさんはそういう人だった。
「えっ、バレちゃった?」
シュウさん、明日昇級戦があるの。
シュウさんは正式な門下生じゃないけど、一週間の成果を確かめたいから出てくださいね」
カエデさんからそう言われたのは、6日目の夕方だった。
「それから、夜は卒業祝いの宴会ですから、他に用事を入れないでくださいね」
そういうカエデさんの膝にはしっかりとサクラが陣取っている。
長毛種であるサクラは首のあたりが一番のモフりポイントだ。
柔らかな毛を堪能しつつ、首筋を撫でてやると喜ぶ。その辺は既に習得済みのようだ。
道場の掃除を終えて帰宅。
食事、入浴、明日の仕込みを終えて、久々にステータスを開くと生命力や攻撃力など軒並みふた桁に上がっていた。
キーボードを認識させるが、十の位は操作できなかった。
それでも全てのステを1Fにできた。これは大きい……十進数であれば16のステを31にあげた事になる。
一般的な成人男性が20である事を考えれば飛び上がりたくなるほどに嬉しい。
はあ、カエデさんとも会えなくなるな……
『ええ、カエデは撫でるのが上手ですから、少々寂しいですね』
……声に出ていたようだ……サクラ、少しは空気読めよ……
翌朝、いつもどおりに4時に家を出る。
やっぱり、足が軽い。飛んでいる虫の全てが認識でき、軽く避けながら走る。
いつもより早く道場に着いた。
釜で麦飯を炊き、クマドンの具が入った寸胴を温める。
それに加えて、今日はクマの生姜焼きだ。
鉄板の上で刻みニンニクを炒め、ニンニクの香ばしい香りが漂ってきたら生姜醤油に漬け込んでおいた薄切り肉を炒める。
クマの脇腹の肉で、適度に脂がのっている……美味そうだ。
皿にサラダ用の青物を盛り、そこに肉をのせる。
「お、なんの匂いだ……ニンニクだな!」
「くう、腹が泣くぜ……」
「ああ、母ちゃんの匂いだ……」
「今日は、僕の最終日ですから、朝から肉肉祭りですよ」
「待て、シュウの最終日……だと」
「明日からの、俺の飯はどうなるんだ!」
「シュウ、道場の賄いになれ!俺が推薦する!」
食事前から盛り上がってしまった。
「くうぅ、肉が目にしみるぜ」
「おかわり!」
「俺は、麦飯に直接生姜焼きを載せてくれ」
「うんめー」
「シュウ、俺の嫁になってくれ!」
「シュウ、カエデの婿にならんか!」
最後の一言に、静寂が訪れる。衝撃の発言主は先生だった。
「せ……先生、カエデお嬢さんの婿はお嬢さんより強いって条件が……」
「いや、シュウが婿さんになれば、毎朝美味い飯が……うっ、賛同してよいものか悩む……」
「お祖父様、冗談はそれくらいにしてくださいまし……」
心なしか、カエデさんの顔が赤く見えるが……彼女は美味しいものを食べると紅潮するきらいがある。
食事の片付けをし、道場に向かうとカエデさんが道着を手渡してくれた。
着ていたワークシャツを脱ぐとヒッ!と息を呑む音が聞こえた。
「シュウさん、その傷は……」
「ああ、毎日クマと真剣勝負してればこれくらいの傷はつきますよ。
傷だけ塞いで、自然治癒に任せた方が、ステータスの上がりが早いって聞いたもので……」
胸から脇腹へ、脇腹から尻へ、腕や足にも無数の傷跡があった。
「私にお肉を食べさせてくれるために、こんな無理を……」
カエデさんは、そう言いながら一番大きな胸の傷に指を這わせる……
「わざとですよね、それ」
そう、カエデさんはそういう人だった。
「えっ、バレちゃった?」
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