悪役令嬢はやめられない

モモん

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第5話 属性魔法

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 レイミの父親は侯爵家の次男だったのだが、農業改革の功績を認められて叙爵されていた。
 彼は現在も農業局長として活躍している。
 
「それでだ、そこの女子。」

 ライガはラルを指さして言った。

「お前こそ見かけない顔だが、転入生ならそれらしく挨拶の時間までおとなしくしていたらどうだ。」

「あ、あら、卒業式の時にご覧頂けませんでしたの?」

「卒業式?お前の顔など、見た覚えはないのだが。」

「わたくし、シュルル=ローズレア第3王子の婚約者、ラルと申します。」

「卒業式の日、第3王子が婚約を宣言したのは聞いていたが、俺の知る限り陛下が認めたとは知らなかったな。これは失礼した。」

「まあまあライガ、女生徒を貶めるのはどうかと思いましてよ。ねえラルさま、あなたも正式に制約発表前に婚約者を名乗るのは如何かしら?」

「シャ、シャルル様は婚約者だと言ってくださいましたわ。」

「公式には何の発表もされておりません。したがって、公式見解ではシャルル様の婚約者はわたくしになりますの。」

「で、ですが……」

「私も、衆目の前で宣言された以上、シャルル様に対しては何の感情もございません。ですが、国の決定を待たずに発言された以上、相応のお咎めは免れないでしょう。それでも無理強いされるのであれば、継承権はく奪の上、王族から追放されましてよ。」

「ああ、宰相たる父も同じことを言っていたな。」

「それに、ラル様は魔法こそ4属性を使われるそうですけど、レベルの高い授業についてこられるのかしら。心配ですわ。」

「その心配はご無用ですわ。私たちがフォローいたしますもの。」

 伯爵家の子女たち20名がラルを囲んだ。
 レイミから見ると、全員が黒いモヤに包まれており薄気味が悪かった。
 それに対して、公爵家・侯爵家の子女たちは、以前からレイミと交流があり、抵抗がついていたのだろう。
 
 レイミから見て、クラスが汚染されているのはイヤだった。
 だから、始業式の間にクラスメンバーの靄を除去しておいた。
 そして、教室に戻ると状況が一変していた。
 全員がラルから遠ざかっているのだ。

「ど、どうなさいましたの……皆様……わたくしと……」

「ご、ごめんなさい。何か気分が優れないものですから……」

 そこへ担任が入ってくる。

「どうかしら、ラルさん。このクラスで馴染めそう?」

「い、いえ、Cクラスで結構です。」

 担任の説明では、今朝シュルル王子から急な要望があり、ラルをどうしてもAクラスに入れろという事だったが、教師たちは拒否した。
 それでも駄々を捏ねたので、クラスに馴染めるのか様子だけ見ようという事になり、今回の運びになったという。
 つまり、レイミが何とかするだろうという他力本願……丸投げにしただけの事だった。

 それならば最初から教えてくれればいいのにとレイミは思ったが、勿論口には出さない。
 そして予定通り、学園の半数近くから陰口を叩かれながら、自分に向けられた悪意を貯めこんで転換していく。
 ラルは去年までのレイミと同じように城に通うのだが、下地も出来ていない平民の娘に詰め込むのだから、毎日深夜まで城で教育されてしまう。
 そのストレスは全てレイミに向けられるのだから、レイミにとっては願ってもない事だ。

 4年になったレイミたちは、魔法陣に関する授業が始まった。

「現在発見されている魔法陣は8種類あります。火・水・風・土の初級魔法と中級魔法です。魔法陣を使うことで、詠唱の時間を省くことができますし、自分の持つ属性以外の魔法も使う事ができます。」

「先生!それだと、魔法の呪文を習う意味ないですよね。」

「ところがですね、魔法陣から起動する魔法は、呪文を唱えた場合と比較して20%程度の威力しか出ないんですよ。」

「そうなんです。だから、あくまでも補助的に使うか、生活用の魔道具として使われるんですね。水道や魔導コンロ、冷温庫に製氷機。魔道具には基本的に魔法陣が使われているんです。」

 魔法陣の授業には、魔道具作りの時間も含まれており、授業の一環で作られた魔道具が製品化されて広まったヒット作品も多いという。
 だが、レイミの聖魔法には魔法陣が出ない。
 そもそもが、魔力を使うわけではないので、まったく別種の力と言えるのかもしれない。

 そして、魔法陣での有効範囲や作用点等の細かい記述方法を学んでいく。
 男子生徒が夢中になるのは、魔法陣を応用した魔剣で、女子生徒は主にアクセサリーに人気が集まる中、レイミは普通の道具には興味がなかった。
 魔法の20%しか効果を発揮しない魔道具よりも、聖属性をどうにかして付与できないか考えているのだ。
 魔力を蓄積しているとされる魔法石や色々な素材、魔法陣の解析魔力の流れと聖力との比較。
 そうするうちに、レイミは魔力と聖力を混ぜ合わせる事が可能だと気付いた。
 そして、その混合した力を使うことで、効果も3倍くらいに向上している。

「レイミ、お前の身体強化はおかしいんじゃねえか?」

 ライガの問いにレイミは誤魔化しをかける。

「そんな事はございませんわ。普通の身体強化ですもの。」

「そ、それにレイミ様の属性は水だったはず。属性以外の魔法は魔法陣と同じように、1割程度の威力しか出せないはずですわ。それなのに……これでは、全属性魔法師のよう……。」

「アンジュ様、き、気のせいですわ。オホホホホッ……」

 当然だが、混合した聖魔力とも呼ぶべき力は、普通の魔力と同じように使える為、レイミの聖魔力量は常人の5倍くらいに相当する。
 そして聖魔力を練っているうちに、それを単独で飛ばせる事に気が付いた。
 威力自体は大した事はなく、石を薙げる程度のものだが、魔法陣に撃ち込めばそこの魔法に介入する事になり、結果として発動中の魔法を強制解除する事が可能になったのだ。
 
 それは魔法陣に関しても同様で、稼働中の魔道具に表示される魔法陣に聖魔力を撃ち込むと、そこの魔力の元になる魔法石を破壊してしまう程だった。
 
 だが、レイミはそんな手の内を見せるような事はしない。
 毎日、一人で聖魔力を練っては聖魔法を行使し、魔力成分が描く薄い魔法陣を書き留めていた。
 そう。聖魔法にも魔法陣が存在したのだ。
 昼間は学園中を歩き回り、自分に対する悪意を取り込みながら、それを転換して夜に聖魔力へと練り上げる。
 レイミはそういう地道な活動を続けている。

 そんな日々を送る中、3月に入ってニュースが飛び込んでくる。

「聞いたか、シュルル王子が城を飛び出したらしいぞ。」

「そのようですわね。私との婚約解消は認められたものの、ラル嬢との婚約は認められなかったとか聞きましたが……」

「だが、城を出てどうやって暮らしていくというのだ。」

「王族というのは、万一に備えてそれなりの宝石を持たせておくと聞いていますわ。それこそ、贅沢をしなければ一生食べていけるだけの価値だそうです。」

「だが、それだって元は国の金だろう。」

「あの第3王子がそんなことを気にすると思いますか?それに剣とか身の回りの品を持ち出せば、当座の生活費くらいはいくらでも工面できますしね。」

「許せねえよな、そんなの……」

「前から、王族としての地位など、いつでも捨ててやるとかいっていましたからね。」

「だが、王子という身分でなくなったら、ラルはどうするんだ?」

「さあ、もしかしたらライガに乗り換えるかもしれませんわね。」

「興味ねえよ、あんな女。」


【あとがき】
 王子出奔
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