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第四章

第23話 狐

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 三内丸山なのか確認はできなかったが、青森には20軒程度の集落が複数存在した。俺たち4人は各里を巡り巫女と神の資質を備えた者を探し出した。今回は長居できないが、いずれ鉄と薬草・文字を広めに訪れることになるだろう。青森で二手に別れる。俺とミコトとハクは北海道にわたり、リュウジとカナとシェンロンは日本海側を南下する。実は北海道にも縄文時代の遺跡が多く存在する。特に函館に集中するが、苫小牧(カリンバ)・釧路などでも大規模な集落跡が発見されている。
「さすがに寒いっすね。」
「こんな環境でも人が定住を始めたってところに興味がわくよね。」
「そうっすね。もっと南に移住しようとか考えなかったっすかね。」
「うん、元々はナウマンゾウやオオツノジカなどの大型哺乳類を追ってきたんだろうけど、2万年前くらいには絶滅してるんだよね。」
「そこで獲物がいないから帰ろうって思わなかったんすかね。」
「定住してないから帰るって発想はなかったんだろうね。それに、シベリアから南下してきた人たちもいたみたいだし。」
「まあ、住めば都っていいますもんね。」
「そのうちに温暖化で海が広がり、本州と行き来できなくなってしまったんだね。」
「一番近い場所で25キロくらい離れてますからね。」

 俺たちは各集落を尋ねた。ちなみに海は走って渡った。神様だからね、それくらいは簡単なんです。各里には手土産でモリ頭を持参している。これは、トラの里の人たちが拵えてくれたものだ。北海道にも巫女と神は存在し、俺は御名を与え神を増やしていった。こうして巫女のネットワークは西日本全域に拡大した。全員が上級クラスまで覚醒してくれれば、行き来せずとも薬草とひらがなの普及が実現する。
 北海道では海獣も狩猟の対象となる。しかもトドまで含まれるらしい。トドは最大で体長3メートルを超え、体重は1トンに及ぶ。そのため、三又のモリではなく一本の大きなモリが望まれているのがわかった。次回は参考にしたい。ちなみにエゾオオカミにも遭遇した。神体となった俺達には従順だったが、やはりハクよりも一回り以上小さい。ハクも今では体長150センチを超えているのだ。俺たちは北海道の原野を走り抜けた。
「すげえ気持ちいいっすね。」
「ああ。だが狩猟民は存在しないようだね。」
「夏はともかく、冬を越すのは厳しいんじゃないっすか。クマも出るし。」
 そう。ヒグマとも何度か遭遇した。ヒグマは最大で2.8メートルにも達する日本では陸上で最大の哺乳類である。鉄砲のないこの時代、少人数では勝ち目はないだろう。
 帰りは本州の内陸部を通って富士へ帰る。海側だけでなく、内陸部にも集落が存在するのだ。結局今回の探索で、巫女24名と神8名が追加された。
「神は合計で14名か、少し心許ないな。」
「まあ、何とかなるんじゃない。それよりも、主役のミコトは大丈夫なのかい。」
「あんまり大丈夫じゃないっすよ。」
「でもな、やっぱアマテラスが日本の顔なんだからさ、ミコトしかいねえだろ。」
「いやいやいや、ここは武の頂点であるスサノオさんでもいいっしょ。竜神の長でもあるわけですし。」
「もう、ミコトさん往生際が悪いですよ。」
「そうだ、カナに任せましょう!同じアマテラスなんだし。」
「ああそうだ、セオさんどこか鉄鉱石の鉱脈ないですかね。」
 セオリツヒメ様は言いづらいので、最近はセオさんと呼んでいる。
「お前の持ってきた本の中に出ていないのか?」
「日本の鉱山って調べたんですけど、鉄は北海道か青森なんですよね。海底の鉱脈とかあったら、ちょっと隆起させてみたいなって。」
「うむ、精霊に調べさせておくわ。だが、やるとしても事が終わってからじゃぞ。」
「わかってますよ。」

 翌朝、俺たちは奈良に向けて出発した。カナは富士に残してある。したがって、いつものメンバーだ。日本アルプスを超え駿河湾を駆け抜ける。文字通り一直線に奈良へ向かった。
「直線距離だと近いもんっすね。」
「気を引き締めろよ。ここからが本番なんだから。」
「分かってるっすよ。」
 俺たちは石造りの建屋の前にいた。
「ふざけてるっすね。こんなもの作るなんて。」
「いや、鉄筋コンクリートよりマシだろ。」
「きさまら何ようだ!」
「ああ、玉藻前(たまものまえ)に取り次いでくれ。アマテラスが来たとな。」
 リュウジが門番に告げる。縄文の服装に槍の先だけが銅製か。なんとも不格好である。
「よい、お前たちは下がっておれ。」
「しかし、玉藻前様……」
「わらわが良いと申して居る。」
「はっ。」
 門番はどこかへ消えた。
「ようこそ、三貴神どの。さあ中へ。」
 通された部屋には、木製の椅子とテーブルが用意されていた。
「ほう、これを見ても躊躇せぬとは、先の世界から来たものと見受ける。」
「なるほど、そういう見方もあるっすね。ということは、玉藻前さんも同様という事っすね。」
「まあ、茶番は良い。何用じゃ。」
「簡単っす。この国から出て行ってほしい。それだけっすよ。」
 そう、大陸からやってきた狐の妖怪二匹と少数の軍勢に和の国は侵略を受けていた。いや、妖怪というよりも存在は邪神というべきか。人同士の争いを知らないこの時代の人々は、いわれのない残虐な殺戮を受け、マガや鬼といった穢れを生み出したのだ。もう一人の邪神は妲己といった。史記では妲己の登場は紀元前10世紀頃と記録されているが事実はそうではなかった。
「見返りは?」
「追撃はしないことを保証しましょう。」
「くくっ、笑わせてくれる。何の力も持たぬ和国の神が我を脅すとはのう。ましてや和国の主力である西の神を封じておるというのにのう。」
「判断はお任せっす。六日の猶予をあげるっすよ。七日目の満月が刻限っす。」
「ほう。それまでに撤退せねばどうするというのじゃ。」
「強制退去させていただくっすよ。」
「ホッホッホッ。それは楽しみな。当然、東の神総出で来られるのよな。」
「もちろんっす。」
「そこで東の神を滅すれば、この国はわらわの物という事じゃの。」
「そうなりますね。」
「古今東西、和国の神が力を使ったことなどなかろう。それを見せてくれるというのならそれも一興かな。」

 俺たちは富士に戻ってきた。
「この時代の中国ってどんな状況なんすか?」
「夏王朝の頃だと思うよ。もうカイコの家畜化はできているから、絹の織物もあっただろうね。さすがに玉藻前が来ていたようなキモノみたいなのを作る技術はないだろうけど。状況としては、やっぱり揚子江沿岸の恵まれた土地をめぐって北からの侵略とかあったんじゃないかな。」
「中国4千年とか聞くしな。」
「コメの水耕栽培も始まっていたみたいだし、争いがなければもっと発展していたんじゃないかな。」
「じゃあ、この時代に来たのは、追いやられた民族ってことかよ。」
「まあ、日本に来たのはごく一部。30人程度らしいからどんな民族かは分からないらしいね。でも、ミコト、うまく対応できたじゃないか。」
「もう、ヒヤヒヤだったっすよ。」
「まあ、アマテラスだからな。」
「でも、本当に14人で大丈夫なんすか?」
「問題ないよ。向こうも未来の情報とか持ってたみたいだけど、だから余計にこっちの戦力を侮ってるみたいだね。」
「で、これからどうするんだ?」
「とりあえず、全員の武器を作っちゃうよ。丸腰はさすがに心細いだろ。」


【あとがき】
 古事記・日本書紀は西日本を中心に描かれた世界です。でもそれは、出雲・ヤマトが武力で他の部族を抑え込んでいった結果じゃないでしょうか。稲作によって貧富の差が生まれ、水源の確保などと相まって争いへと発展したのか、それとも渡来人によって争いが持ち込まれたのか。難しいところですよね。どちらにしても、完結は近いです……多分。

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