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第Ⅵ章 南の大地
副局長
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天気の悪い日にはワイバーンは飛べない。
漁にも出られないし、果実の収穫もできない。
だから、ふいに運航が止まることもある。
それに、三か国が同じ天気とは限らないので、そのあたりを考慮して出荷の準備をするよう予め周知されている。
アルトハインにはセシルが常駐しているので、そういう場合は国内で消費する。
例えばアルトハインを出発してシュトーリアの天気が悪ければ、国境付近のダイトウに降りて積み荷を処分すればよい。
シュトーリアとダイバーンの出荷物は日持ちするからまったく問題ない。
こうしたことを含め、外務局副局長のヒューイは草案作りを急いでいた。
相場については、国内価格で金貨1枚分を出荷の目安としたいのだが、各国の生活水準によっては格差の出る可能性がある。
予め定量を決める方法もあるのだが、特に果実は季節によって価格が変動するし、種類も変わるだろうから、やはり時価が適当だと思っている。
時価であれば、種類が増えても対応できるだろう。
運搬料は一割とし、シーリアの原案通り半分を流通税として販売後に国庫に入れる。
これで、毎日銀貨一枚の税金が国に入ることになる。
いや、シュトーリアの分を入れれば銀貨1.5枚か。
10日で金貨1.5枚になり年間では荒天を見込んで金貨30枚程度……
これでは一人分の給料にしかならない。
できれば、金貨100枚程度の税収は確保したい。
となれば、一度の出荷を金貨3枚まであげればよい。
いや、金貨5枚だな。
あとは、この物量と輸送力の確認が必要となる。
「ふう」とため息をつく。
ヒューイは貴族ではない。
商人であったのだが、国と取引を勧める中で、引き抜かれたのだ。
以来、ずっと経理畑を歩んできたのだが、ここにきて外務局副局長という大役を仰せつかった。
普通は、副局長どころか、課長職だって貴族が大半を占めている。
前例のない出世だった。
それだけに、この取引を成功させ、国に利益をもたらさなくてはならない。
普通であれば、これだけ遠方との取引ならば、商品の価値と同額が輸送費である。
ヒューイも3割程度を考えていたのだが、局長は1割でいいと公言している。
その理由が、物資を国民が入手しやすくするというのだから反対はできない。
一歩間違えると慈善事業になってしまうのだが、そこをどう折り合いをつけるかが自分の価値の証明と感じている。
「ヒューイさん、あまり根を詰めないで、気楽に考えてください。
もし、どちからの国と戦になったら、どれだけの出費になるでしょうか」
「戦ですか」
「戦を回避するための一つの手段なんですから、収益が目的ではないと考えてください」
「しかし、これだけの人員が外務局にいるわけですから、人件費分は稼がないと」
「王様にも申し上げましたが、人件費は通常の税金でまかなわれています。
私たちの仕事は、税金を国民に還元するためにあるんだと考えましょうよ」
「確かに、儲けるだけなら卸価格を吊り上げればいいだけなんですが」
「それではせっかくの食材が貴族だけのものになってしまいます」
「やはり、一番は民ですか」
「そういうことです」
「大丈夫です。
民も国も喜ぶ原案を作りますから」
「すみません。私がもっとしっかりしていればよかったのに」
「なにをおっしゃいますか。これだけの大事業が成立しようとしてるんです。
それだけで十分。裏方の仕事はおまかせください」
「よろしくお願いします」
漁にも出られないし、果実の収穫もできない。
だから、ふいに運航が止まることもある。
それに、三か国が同じ天気とは限らないので、そのあたりを考慮して出荷の準備をするよう予め周知されている。
アルトハインにはセシルが常駐しているので、そういう場合は国内で消費する。
例えばアルトハインを出発してシュトーリアの天気が悪ければ、国境付近のダイトウに降りて積み荷を処分すればよい。
シュトーリアとダイバーンの出荷物は日持ちするからまったく問題ない。
こうしたことを含め、外務局副局長のヒューイは草案作りを急いでいた。
相場については、国内価格で金貨1枚分を出荷の目安としたいのだが、各国の生活水準によっては格差の出る可能性がある。
予め定量を決める方法もあるのだが、特に果実は季節によって価格が変動するし、種類も変わるだろうから、やはり時価が適当だと思っている。
時価であれば、種類が増えても対応できるだろう。
運搬料は一割とし、シーリアの原案通り半分を流通税として販売後に国庫に入れる。
これで、毎日銀貨一枚の税金が国に入ることになる。
いや、シュトーリアの分を入れれば銀貨1.5枚か。
10日で金貨1.5枚になり年間では荒天を見込んで金貨30枚程度……
これでは一人分の給料にしかならない。
できれば、金貨100枚程度の税収は確保したい。
となれば、一度の出荷を金貨3枚まであげればよい。
いや、金貨5枚だな。
あとは、この物量と輸送力の確認が必要となる。
「ふう」とため息をつく。
ヒューイは貴族ではない。
商人であったのだが、国と取引を勧める中で、引き抜かれたのだ。
以来、ずっと経理畑を歩んできたのだが、ここにきて外務局副局長という大役を仰せつかった。
普通は、副局長どころか、課長職だって貴族が大半を占めている。
前例のない出世だった。
それだけに、この取引を成功させ、国に利益をもたらさなくてはならない。
普通であれば、これだけ遠方との取引ならば、商品の価値と同額が輸送費である。
ヒューイも3割程度を考えていたのだが、局長は1割でいいと公言している。
その理由が、物資を国民が入手しやすくするというのだから反対はできない。
一歩間違えると慈善事業になってしまうのだが、そこをどう折り合いをつけるかが自分の価値の証明と感じている。
「ヒューイさん、あまり根を詰めないで、気楽に考えてください。
もし、どちからの国と戦になったら、どれだけの出費になるでしょうか」
「戦ですか」
「戦を回避するための一つの手段なんですから、収益が目的ではないと考えてください」
「しかし、これだけの人員が外務局にいるわけですから、人件費分は稼がないと」
「王様にも申し上げましたが、人件費は通常の税金でまかなわれています。
私たちの仕事は、税金を国民に還元するためにあるんだと考えましょうよ」
「確かに、儲けるだけなら卸価格を吊り上げればいいだけなんですが」
「それではせっかくの食材が貴族だけのものになってしまいます」
「やはり、一番は民ですか」
「そういうことです」
「大丈夫です。
民も国も喜ぶ原案を作りますから」
「すみません。私がもっとしっかりしていればよかったのに」
「なにをおっしゃいますか。これだけの大事業が成立しようとしてるんです。
それだけで十分。裏方の仕事はおまかせください」
「よろしくお願いします」
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