7人のメイド物語

モモん

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第八章 家族

第135話 足りないのは……

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 政務は数日間休ませてもらい、俺は復活した。
 これまでの俺は、どこかに地球世界から来たという感覚が残っていたのだが、ジョイの意識と一体化したことで完全にこの世界の人間なんだと実感できた。

 ソフィアに対しても、やはり孤児だという後ろめたさがあったのだが、産んでくれた母が分かったというだけでそれが消え失せた。
 また、ナギと共に生きた……、生き抜いた経験は俺の価値観を大きく変えてしまった。
 生きるという極限の目的の前では、倫理観など意味のないものだった。
 地中海沿岸やヨーロッパの国々とも、きちんと話をする必要を感じていた。

 
 俺には、先のビジョンが見えていない。
 魔道具に頼り切っていたら、科学の進歩が見込めないのではないか。
 内燃機関や火薬。その先にある自動化や電気の普及。
 だが、そこに至るには化石燃料の活用も必要だろう。
 そしてそれは、環境破壊へとつながる。

 そもそも、地球世界の発展が正常だったのかという疑問も払拭できない。

 どうする……
 どうしたらいい……
 
 答えの見えない問いかけに、俺は焦りを感じていた。

 ”魔法は環境を壊すの?”
 内面からの問いかけだった。
 ……そうか、ジョイの視点で見てみればいいのか。

 ”魔法は環境を壊すのか”
  ……NOだ。
  加熱しても炭素は発生しない。

 ”魔法には限界があるのか”
  ……これはどうだろうか?
  現状、原爆のような大規模破壊兵器は必要ない。
  いや、地球社会でも必要ないだろう。あんな、大量殺人兵器は。
  そういえば、こんな話を聞いたことがある。

   戦争とは、軍隊同士が戦うもので、国家間の争いのツールなのだ。
   これに民間人を巻き込んだ場合、それは戦争ではなく殺人になる。
   爆弾が出現したことで、この定義があっさりと破綻してしまった。
   広島と長崎に落とされた原爆は、軍事基地を狙ったものですらない。
   あきらかに民間人を狙った大量殺人なのだ。

  ……そうだよな。威力を見せつけるだけなら、東京湾にでも落とせば良かったんだ。
  威力の必要なケース。
  例えば、小惑星がぶつかりそうとかだろうか。
  俺なら、直接出かけて行って、収納に取り込んでおしまいだな。
  宇宙にいくための技術の発展は必要かもしれない。
  魔法の組み合わせで何とかなるような気もする。
  あとは、高出力の推進機で軌道を変えてやれば何とかなりそうだ。
  ……答えはNOだな。
  魔力量には限界があるが。

 ということは、魔法を発展させれば良さそうだ。
 科学もそれにあわせて進歩するだろう。 

 俺の中で方向性は決まった。
 学び舎を他の国にも広めていって、知識の底上げを行うんだ。
 国を豊かにすることで、不幸な子供たちを救うことのできる体制を構築する。
 ナギの恩に報いるには、これが最適なのだろう。


数日後、俺は本宅でくつろいでいた。

「ふっ切れたような顔をしてるな。」
「はい。」
「無茶はするなよ。」
「この国に作ってきたものを、世界に広げていくだけですよ。」
「それがお前の出した答えなら、国はお前をサポートするさ。」
「お母さんにもまだまだ頑張ってもらわないといけません。」
「そうだろうな。」
「あら、まだ引退できないのかしら。」
「世界中から、不幸な子供がいなくなるまで……。」
「……それならしょうがないわね。でもね、もう少し頻繁に燃料を与えてくれないとね……。」
「今回のは、自信作なんですけどね。」
「サクランボのゼリーね、まあ94点というところかしら。」
「足りないのは何でしょう?」
「そうね。白い砂浜とパラソル。照りつける太陽の下で出されたら満点かもね。」


【あとがき】
 ふう、もう一息。
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