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第八章 家族
第134話 目覚め
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「かあ……さん……。」
目を開けた俺の目に映ったのは、ソフィアと……キキョウさんだった。
19年前、ぼやけていた視界が、徐々にはっきりしてきた中で、毎日見ていた顔……。
年の経過による変化はあったが、間違いようのない顔だった。
「あなた……。」
「う……ん、もうだいじょうぶ……だ。」
二人分の自我が混ざったことで、少し混乱しており、体を起こすのにも多少の違和感があった。
「だいじょうぶ……大丈夫……。」
自分に言い聞かせるようにして体を起こす俺を、ソフィアがやさしくサポートしてくれる。
「ふう……。」
ベッドに座った俺の顔を、ソフィアが優しく抱え込んでくれた。
何も聞かないで包んでくれるソフィアの心が嬉しい。
ゆっくりと頭を整理する時間があった。
「キキョウさん……。」
「はい……。」
涙声だった。
「俺は……ジョイ……なんですか?」
「……なぜ…………。」
「ドラゴンに焼かれる……前のことを思い出しました。」
「……手掛かりは……背中の、カギ形のアザだけでした……。」
「誘拐なのでしょうか……、そのあとで、水に落ちて……死にかけました。」
「捕らえた犯人によれば、流れの急な川だったそうです。」
「死にかけた俺を拾ってくれたのは、ナギという小さな女の子でした。」
「ナギ……。」
「浮浪児です。」
「あなた……。」
「木の根や、草を食べて、盗みをして必死に生きて……ナギは俺にジンという名をつけてくれました。」
「ジン……。」
「でも、あの日現れたドラゴンに、ナギも俺も焼かれ……」
俺の顔を抱くソフィアの手にチカラがこもる。
「俺だけが、スカーレット母さんに助けられて生きてきたんです。」
「ごめんなさい!」
キキョウ母さんが泣き崩れる。
「私が目を離さなければ!……アーッ!」
少し間をあけて語りかける。
「泣かないでください……。」
「……。」
ソフィアが、俺を離してキキョウかあさんを支えに動いてくれる。
状況を理解してくれたのだろう。
「運がいいとか、悪いとかいいますけど、その全てがあって俺がいるんです。」
「タウ……さん……。」
「ソフィアと会えて、浮浪児のいない国も実現できた。医療の発展にも、少しは貢献できた。死んでいったナギやスカーレット母さんも少しは褒めてくれるかなって……。」
俺は3日間、寝込んでいたらしい。
十分な栄養と睡眠をとって、俺とソフィアは花屋さんを訪れた。
俺をジョイではないかと疑ったのは、風呂でテト父さんが俺のアザを見たことがきっかけだったらしい。
そこから、元々孤児だったという情報を得るのは簡単だったようだが、確証は持てずにいたそうだ。
「俺を闇の中から引き出してくれたのは、母さんの子守歌だったんだ。」
「そういえば、お母さまがあなたの耳元で歌っていたわ。」
「何しろ、ソフィアと出会う前の俺って、毎年のように死にかけていたからさ、安らぎにつながる記憶って、子守歌くらいしか……。」
「私は驚いたわよ。目が覚めて私の顔を見た途端”かあさん”とか呼んだんですからね。もう、これはヤバイって!」
「ゴメンゴメン、生まれてからの記憶を辿っていたからさ……。」
記憶が一体化しても、ナギの手掛かりは探しようがない。
できれば、スカーレット母さんと一緒の墓に入れてやりたかったが……。
【あとがき】
いろいろと考えましたが、ナギは……。
目を開けた俺の目に映ったのは、ソフィアと……キキョウさんだった。
19年前、ぼやけていた視界が、徐々にはっきりしてきた中で、毎日見ていた顔……。
年の経過による変化はあったが、間違いようのない顔だった。
「あなた……。」
「う……ん、もうだいじょうぶ……だ。」
二人分の自我が混ざったことで、少し混乱しており、体を起こすのにも多少の違和感があった。
「だいじょうぶ……大丈夫……。」
自分に言い聞かせるようにして体を起こす俺を、ソフィアがやさしくサポートしてくれる。
「ふう……。」
ベッドに座った俺の顔を、ソフィアが優しく抱え込んでくれた。
何も聞かないで包んでくれるソフィアの心が嬉しい。
ゆっくりと頭を整理する時間があった。
「キキョウさん……。」
「はい……。」
涙声だった。
「俺は……ジョイ……なんですか?」
「……なぜ…………。」
「ドラゴンに焼かれる……前のことを思い出しました。」
「……手掛かりは……背中の、カギ形のアザだけでした……。」
「誘拐なのでしょうか……、そのあとで、水に落ちて……死にかけました。」
「捕らえた犯人によれば、流れの急な川だったそうです。」
「死にかけた俺を拾ってくれたのは、ナギという小さな女の子でした。」
「ナギ……。」
「浮浪児です。」
「あなた……。」
「木の根や、草を食べて、盗みをして必死に生きて……ナギは俺にジンという名をつけてくれました。」
「ジン……。」
「でも、あの日現れたドラゴンに、ナギも俺も焼かれ……」
俺の顔を抱くソフィアの手にチカラがこもる。
「俺だけが、スカーレット母さんに助けられて生きてきたんです。」
「ごめんなさい!」
キキョウ母さんが泣き崩れる。
「私が目を離さなければ!……アーッ!」
少し間をあけて語りかける。
「泣かないでください……。」
「……。」
ソフィアが、俺を離してキキョウかあさんを支えに動いてくれる。
状況を理解してくれたのだろう。
「運がいいとか、悪いとかいいますけど、その全てがあって俺がいるんです。」
「タウ……さん……。」
「ソフィアと会えて、浮浪児のいない国も実現できた。医療の発展にも、少しは貢献できた。死んでいったナギやスカーレット母さんも少しは褒めてくれるかなって……。」
俺は3日間、寝込んでいたらしい。
十分な栄養と睡眠をとって、俺とソフィアは花屋さんを訪れた。
俺をジョイではないかと疑ったのは、風呂でテト父さんが俺のアザを見たことがきっかけだったらしい。
そこから、元々孤児だったという情報を得るのは簡単だったようだが、確証は持てずにいたそうだ。
「俺を闇の中から引き出してくれたのは、母さんの子守歌だったんだ。」
「そういえば、お母さまがあなたの耳元で歌っていたわ。」
「何しろ、ソフィアと出会う前の俺って、毎年のように死にかけていたからさ、安らぎにつながる記憶って、子守歌くらいしか……。」
「私は驚いたわよ。目が覚めて私の顔を見た途端”かあさん”とか呼んだんですからね。もう、これはヤバイって!」
「ゴメンゴメン、生まれてからの記憶を辿っていたからさ……。」
記憶が一体化しても、ナギの手掛かりは探しようがない。
できれば、スカーレット母さんと一緒の墓に入れてやりたかったが……。
【あとがき】
いろいろと考えましたが、ナギは……。
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