7人のメイド物語

モモん

文字の大きさ
上 下
114 / 142
第六章 海の先

第108話 ヤマ

しおりを挟む
 ヤマの国王はエル・コバカナという初老の男性だった。
「こんな遠くまでお越しいただきありがとうございます。」
「いえ、異国の文化に触れる機会を与えてくださり感謝の念に堪えません。」

 両国の参列者の紹介から始まった懇話会はやがて部門に別れた部会へと移行していく。
 俺はもちろん産業部会だ。
「来る途中で拝見したのですが、こちらの主要となる穀物はトウモロコシですよね。」
「はい。そのまま焼いたり茹でたりして食べられますし、粉にして練ったものをパンのように焼いたりしています。」
「スープにしても美味しそうですね。」
「いえ。スープにすることはほとんどありません。」
「えっ、そうなんですか。」
 残念ながらコーンスープは普及していないようだ。

 この国の産業としては、宝石の加工がある。
 水晶を磨いて人形にしたり、宝石を加工してアクセサリーにするのだ。
 そのあともいくつかの産業案件について意見交換し、俺は城の井戸にポンプを設置した。

 夕食会まで時間があったので、俺は城の厨房を借りてコーンスープを作ることにした。
 茹でたトウモロコシの実をはがし、スライスした玉ねぎをバターで炒めます。
 タイミングを見計らってトウモロコシを加え、コンソメスープを入れて数分間煮てからミキサーにかけます。
 それを濾しながら鍋に戻し、牛乳を加えながらゆっくりと加熱し、塩少々で味を整えていきます。
 最後に生クリームを垂らし、パセリのみじん切りをパラリで完成です。

「す、凄い!トウモロコシの旨味が際立っています!」
 同席してくれた料理長も太鼓判を押してくれました。

「夕食会に先立ち、フォン王国のタウ局長がトウモロコシのスープを作ってくださいましたのでお試しいただきたいと思います。」
 給仕たちがスープの入ったカップを全員の手元に用意した。
「ではいただきましょう。」
 参加者がスプーンでスープを口に運んでいく。
「!」 「こ、これは!」 「……美味しい!」 「なんて優しいスープなの。」 口々に賛辞をいただいた。

「これは驚きです。我が国特産のトウモロコシを使って、このようなスープをおつくりいただけるとは!」
「フォン王国のタウでございます。このスープは栄養価の高いものですから、食事の進まない病人にも提供できると思います。」
 会場がざわつきます。
「そして、これにヤポネのコメを加えて煮れば、それだけで十分な食事になります。炊き出しにも使えると思いますので、ぜひご検討ください。」
 会場は盛大な拍手に包まれた。

「ねえタウ、国王から聞いたのだけれど。」
「はい。」
「この国は、数年前までもっと南に伸びていたようなの。」
「南というと、イカン帝国のあたりですね。」
「そう。もともとはヤマ王国とナフサ王国の間に国はなかったのだけれど、十数年前に海をわたってきた一族が国を起こしたの。それがイカン帝国。」
「なるほど。イカンは新興国なんですね。」
「そうよ。そして、イカンはヤマとナフサに戦を仕掛けて領土を拡大し、奪った土地の人たちを奴隷にしてさらに国を大きくしていったようね。」

「ヤマとナフサは抵抗しなかったんですか?」
「この大陸には、戦という概念がなかったのよ。」
「武器もなく、戦の備えもなかった。この町の様子をみればそれが分かりますね。」
「最近になってようやく城壁を築いたり、武器を持って抵抗しているみたいなんだけど、形勢は不利だと言っていたわ。」
「とはいっても、国家間の問題に介入する訳にもいきませんし、むつかしいところですね。」
「そうよね。我が国に被害が出ているわけじゃないし……。」


【あとがき】
 新大陸上陸です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...