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第六章 海の先
第105話 究極兵器
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そばと天ぷらが完成した。
お昼には少し早い時間なので、ほかにお客さんはいなかった。
「大将も一緒にどうぞ。」
ズズズッ。ズズッ。
「うん、美味しい。ソバの香りが、口から鼻に抜けていくのが心地いいですね。」
「おっ、嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。で、この天ぷらってのはどうやって食うんだい。」
「天ぷらをそばつゆにちょこっとつけて食べてみてください。」
「こうかい。」
サクッ!
「ほう、この食感は面しれえな。」
「かぼちゃにもしっかり火が通っていて、とても甘くて美味しいです。」
「そばつゆに油が入ったことで、ソバを食べる時にもつゆがまるくなるんですよ。この感じは、好みが別れると思いますけど。」
「どれ。」
ズズズッ。
「ああ、確かにつゆの中の醤油のとげとげしさが丸くなってやがる。」
「私……、この感じ好きですわ。」
「ソバの食感とはまったく違うからな。この変化があれば、いくらでもソバを食えそうだぜ。」
「かき揚げも美味しいです。ゴボウやタコの食感が、また変化を感じさせてくれますわ。」
「ほかにも、エビや小魚の開き、ナスやイカなんかの天ぷらも美味しいですよ。それに、このかき揚げをタレに浸してご飯の上に乗せるのも美味しいんですよ。」
「うっ、確かに……想像しただけで旨そうだな……。」
「天丼と言って、天ぷらを作り置きしておけばお手軽に食べられるんですよ。」
「ちょ……、待ってろメシを持ってくるから。」
「御飯があるのなら、油が温まっていますので、もう一つ披露しちゃいましょうか。」
「ま、まだ、何か見せてくれるのかい。」
「せっかく美味しいそばつゆがあるんですから。」
俺は収納からイノシシの肉と固めに焼いたパンを取り出した。パンをおろし金ですってパン粉にする。
溶き卵を肉に絡めてパン粉をつけて揚げる。
そして、そばつゆで玉ねぎを煮て揚げたてのカツを投入して溶き卵をかけふたをする。
仕上げに刻み葱をパラリ……。
俺が作ったのはかつ丼だ。
「な、なんじゃこりゃあ!」
「凄いです。半熟の玉子と衣のサクサク感。それにそばつゆが絶妙なハーモニーを奏でています。」
「上品な食べ物じゃないですけど、美味しいでしょ。」
「いや、旨いなんてもんじゃねえよ。カナちゃんじゃねえが、この組み合わせは……そう、究極の……。」
「お母さまでも、これを口にしたらドンブリを口に持って行って掻き込みますわ。大将、明日からお店で提供してください。」
「承知!と言いたいところだが、うちはソバ屋だぜ……。」
「お蕎麦屋でご飯を出してもいいじゃないですか!」
「うーん……。だが、これを逃すほどの馬鹿でもねえ……。しょうがねえ、今日は店じまいだ。これからパン屋と米屋と油問屋に話をつけてくる。ああ、人も雇わないといけねえじゃねえか。」
ソバ屋さんは、かつ丼をたいらげると本当に”臨時休業”の張り紙を出してしまった。
どうやら本気になったらしい。
これは、俺の責任ではない……と、思うのだが、この国に来ればかつ丼が食べられるというのはうれしい誤算だ。
しかも、かつ丼とザルそばのセットメニューも楽しめるのだ。俺からすれば大歓迎である。
【あとがき】
究極の食兵器”かつ丼”の登場です。いえ、素材でみれば、エビ・カニ・ウニなどの海鮮をはじめとした美味しいものが沢山あると思いますが、安価な素材の組み合わせで作られたかつ丼は庶民の宝だと思っています。
お昼には少し早い時間なので、ほかにお客さんはいなかった。
「大将も一緒にどうぞ。」
ズズズッ。ズズッ。
「うん、美味しい。ソバの香りが、口から鼻に抜けていくのが心地いいですね。」
「おっ、嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。で、この天ぷらってのはどうやって食うんだい。」
「天ぷらをそばつゆにちょこっとつけて食べてみてください。」
「こうかい。」
サクッ!
「ほう、この食感は面しれえな。」
「かぼちゃにもしっかり火が通っていて、とても甘くて美味しいです。」
「そばつゆに油が入ったことで、ソバを食べる時にもつゆがまるくなるんですよ。この感じは、好みが別れると思いますけど。」
「どれ。」
ズズズッ。
「ああ、確かにつゆの中の醤油のとげとげしさが丸くなってやがる。」
「私……、この感じ好きですわ。」
「ソバの食感とはまったく違うからな。この変化があれば、いくらでもソバを食えそうだぜ。」
「かき揚げも美味しいです。ゴボウやタコの食感が、また変化を感じさせてくれますわ。」
「ほかにも、エビや小魚の開き、ナスやイカなんかの天ぷらも美味しいですよ。それに、このかき揚げをタレに浸してご飯の上に乗せるのも美味しいんですよ。」
「うっ、確かに……想像しただけで旨そうだな……。」
「天丼と言って、天ぷらを作り置きしておけばお手軽に食べられるんですよ。」
「ちょ……、待ってろメシを持ってくるから。」
「御飯があるのなら、油が温まっていますので、もう一つ披露しちゃいましょうか。」
「ま、まだ、何か見せてくれるのかい。」
「せっかく美味しいそばつゆがあるんですから。」
俺は収納からイノシシの肉と固めに焼いたパンを取り出した。パンをおろし金ですってパン粉にする。
溶き卵を肉に絡めてパン粉をつけて揚げる。
そして、そばつゆで玉ねぎを煮て揚げたてのカツを投入して溶き卵をかけふたをする。
仕上げに刻み葱をパラリ……。
俺が作ったのはかつ丼だ。
「な、なんじゃこりゃあ!」
「凄いです。半熟の玉子と衣のサクサク感。それにそばつゆが絶妙なハーモニーを奏でています。」
「上品な食べ物じゃないですけど、美味しいでしょ。」
「いや、旨いなんてもんじゃねえよ。カナちゃんじゃねえが、この組み合わせは……そう、究極の……。」
「お母さまでも、これを口にしたらドンブリを口に持って行って掻き込みますわ。大将、明日からお店で提供してください。」
「承知!と言いたいところだが、うちはソバ屋だぜ……。」
「お蕎麦屋でご飯を出してもいいじゃないですか!」
「うーん……。だが、これを逃すほどの馬鹿でもねえ……。しょうがねえ、今日は店じまいだ。これからパン屋と米屋と油問屋に話をつけてくる。ああ、人も雇わないといけねえじゃねえか。」
ソバ屋さんは、かつ丼をたいらげると本当に”臨時休業”の張り紙を出してしまった。
どうやら本気になったらしい。
これは、俺の責任ではない……と、思うのだが、この国に来ればかつ丼が食べられるというのはうれしい誤算だ。
しかも、かつ丼とザルそばのセットメニューも楽しめるのだ。俺からすれば大歓迎である。
【あとがき】
究極の食兵器”かつ丼”の登場です。いえ、素材でみれば、エビ・カニ・ウニなどの海鮮をはじめとした美味しいものが沢山あると思いますが、安価な素材の組み合わせで作られたかつ丼は庶民の宝だと思っています。
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