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第六章 海の先
第101話 外務局長
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0.3mmのボールを作って、さらにそれが自由に動ける程度のシリンダーなんて、手仕事で作れるものじゃない。万が一作れたとしても、とんでもない金額になってしまうだろう。
だが、可能性はあるんだと、産業局はボールペンのサンプルと図面の提供を求めてきた。俺が各局に3本しか与えなかったからだ。……訂正する。外務局だけは例外だ。俺がソフィアの頼みを断るなんてありえない。
しかも、俺には兼務がついている。外務局相談役……。これは、ソフィアが外国を訪問する際には、俺が同行するという事態を前提としている。外務局の半数はハリに常駐して各国の対応窓口にあたっていた。
俺は宰相と地図をはさんで検討していた。
「どうする。行くのか?」
「行っておいた方がいいでしょうね。」
「皇帝の即位式か……、面倒な招待状なんか寄こしやがって。」
「問題はお祝いですね。どうしましょうか。」
「やつらの狙いが井戸のポンプだって情報は入ってるんだがな……。」
「ああ。それなら望むものを渡してやりましょうよ。」
「だがな、みすみすポンプを渡すのは気が進まないんだが。」
「大丈夫でしょ。錆びなくて硬い金属を作り出すのは多分できないでしょうから。」
「ステンレスといったか。」
「ええ。そうだ、継ぎ目のないものを作ってやって、分解できないようにしてやりますよ。ああ。それにゴムだってないでしょうからね。」
この国が取引しているのは、主に東のヤポネ国と海の向こうにある南北に伸びた大陸にあるヤマ王国とイカン帝国とナフサ王国。さらに、南の海にあるコラアマ王国である。
この中のイカン帝国が今回即位式を行うというのだ。クーデターによる政権交代ではないかと、きな臭い情報も入ってきている。国として無視できない最大の理由は、フルーツの輸入国だからだ。
「それで、日程の調整はできそうなの?」
「今、調整させているところです。」
「ヤポネ国には、少し長く滞在したいな。」
「何故ですの?」
「ほら、前に食べてもらったコメを作っている国なんだよ。」
「ああ、あの白い穀物ですね。」
「うん。ヤポネには他にも美味しいものがあるんじゃないかって気がするんだ。」
「まあ、タウったら……。でも、あの後で作ってもらったオニギリも美味しかったですわ。」
「そうだ。各国に井戸ポンプを手土産にしようかな。」
「でも、それだとイカン帝国の即位祝いが見劣りするんじゃないでしょうか。」
「大丈夫。イカンのものは金色にメッキして、見栄えよくしておくから。ああ、それと金の羽ペンでもおまけにつけてやろう。」
「私としては、コラアマ王国にいるらしい可愛らしい動物が気になっておりますの。」
「へえ、そんなのがいるんだ。」
「お腹の袋で子育てするらしいですわ。」
「ふーん、コアラかな……。」
外遊にあたり、連れて行くのはアイラとシノブに決めていた。何かあった時の戦力になるからだ。
アイラの箒に自動小銃型魔道具と同じ機能を追加し、シノブの懐刀にも同様の機能を付与した。
自分用はどうするか考えて、考えているうちに自動小銃とバズーカが10丁ほど出来上がっていた。まあ、軍隊を作るわけじゃないけど、とりあえず収納に保管した。そこで、ふと思いついてスチーム付きのアイロンとヘアーアイロンを作った。こちらも10台ずつだ。マリアンヌに見せたら、速攻で商品化してくるといいながら出かけて行った。ソフィア用に城と自宅に常備し、王妃のメイドと母さんのメイドに渡しておいた。これも反応がよかったので、各国の手土産候補にしておくかな。
「ダメだ。護身用の武器が思いつかない……。そうだ!」
ボールペンのインクの蓋の穴を塞ぎ、インクには油を加えて粘性を与えた。そしてインクを入れた後でゴム栓を押し込んで中の空気を圧縮してやる。試し書きをしたところ、書き味に遜色はなかった。横にしても振ってもインク漏れはないので、キャップを作って体裁を整え、お尻側を少し削って射出孔にして魔石と魔導線を組み込む。魔石には水を発生して射出する魔法式が書いてあった。水の勢いを増して、より細い水流にしていく。何度目かの書き換えで満足のいくものとなった。10m離れて石を瞬時に切断できたのだ。
ソフィアには服飾ギルドに特注して青と緑と黒のスーツを作ってもらった。下はタイトスカートだ。
「最近、身長が伸びてしまってお洋服のサイズが合わなかったんです。胸とおしりもきつくなってきたし……。とても助かりますわ。」
「うん。女性らしい柔らかなシルエットになってきたね。」
「きっと、どなたかが毎日触るからですわ。」
「お願いだから、人前で滅多なこと言わないでくださいね。」
「あら、職場では割とオープンに話すんですよ。」
背中を冷汗がつたわった。外務局ではどんな話をしているんだろうか……。
やがて、各国との調整も終わり、五か国の訪問が正式決定した。
同行するメンバーは、ソフィアと俺、外務局スタッフ2名とアイラにシノブの6名だ。全員の荷物は、俺の収納に入れていくので、艇内はゆったりしている。
とある晴れた日、俺たちは飛空艇で出発した。最初の訪問国はヤポネだ。ほぼ200km/時で5時間、およそ1000kmの距離だという。直前に改造して、トイレも備え付けてある。搭載してあるコンパスと、時折見える小島を頼りに、高度50mほどを維持して飛行する。船の場合は、風向きにもよるが二日から四日かかるらしい。推進機の注文が殺到するのも当然だろう。
ヤップへの推進機が普及したころ、ハリから大型専用の推進機開発の要望が出た。基本的には俺の戦闘艇があるので魔法式や魔道具に問題はないのだが、海から引き上げて改造する必要がある。航海技術が一番進んでいるのはコラアマ王国で、ほとんどの大型船はコラアマ王国で建造されたと聞く。したがって、魔法局の職員がコラアマ王国へ派遣される形で調整が進められているらしい。ちなみに、わが国で所有する大型船は俺が収納に納めて、船体強化を含めて改造済みである。推進機の装着により、安定して時速35kmが実現できたらしい。出力はもっと上げられるのだが、強化した船体でもこれ以上は厳しいと思う。
やがて、俺たちはヤップ王国を視界に収めた。首都のマヤトはもう少し北東に進んだところだ。
記憶にある日本は、東海岸沿いに北上し、九州・四国を超えて内陸に入ったあたりがマヤト朝廷だったか……。
記憶通りの場所に、大きな町が広がっていた。
【あとがき】
外交編のスタートです。
だが、可能性はあるんだと、産業局はボールペンのサンプルと図面の提供を求めてきた。俺が各局に3本しか与えなかったからだ。……訂正する。外務局だけは例外だ。俺がソフィアの頼みを断るなんてありえない。
しかも、俺には兼務がついている。外務局相談役……。これは、ソフィアが外国を訪問する際には、俺が同行するという事態を前提としている。外務局の半数はハリに常駐して各国の対応窓口にあたっていた。
俺は宰相と地図をはさんで検討していた。
「どうする。行くのか?」
「行っておいた方がいいでしょうね。」
「皇帝の即位式か……、面倒な招待状なんか寄こしやがって。」
「問題はお祝いですね。どうしましょうか。」
「やつらの狙いが井戸のポンプだって情報は入ってるんだがな……。」
「ああ。それなら望むものを渡してやりましょうよ。」
「だがな、みすみすポンプを渡すのは気が進まないんだが。」
「大丈夫でしょ。錆びなくて硬い金属を作り出すのは多分できないでしょうから。」
「ステンレスといったか。」
「ええ。そうだ、継ぎ目のないものを作ってやって、分解できないようにしてやりますよ。ああ。それにゴムだってないでしょうからね。」
この国が取引しているのは、主に東のヤポネ国と海の向こうにある南北に伸びた大陸にあるヤマ王国とイカン帝国とナフサ王国。さらに、南の海にあるコラアマ王国である。
この中のイカン帝国が今回即位式を行うというのだ。クーデターによる政権交代ではないかと、きな臭い情報も入ってきている。国として無視できない最大の理由は、フルーツの輸入国だからだ。
「それで、日程の調整はできそうなの?」
「今、調整させているところです。」
「ヤポネ国には、少し長く滞在したいな。」
「何故ですの?」
「ほら、前に食べてもらったコメを作っている国なんだよ。」
「ああ、あの白い穀物ですね。」
「うん。ヤポネには他にも美味しいものがあるんじゃないかって気がするんだ。」
「まあ、タウったら……。でも、あの後で作ってもらったオニギリも美味しかったですわ。」
「そうだ。各国に井戸ポンプを手土産にしようかな。」
「でも、それだとイカン帝国の即位祝いが見劣りするんじゃないでしょうか。」
「大丈夫。イカンのものは金色にメッキして、見栄えよくしておくから。ああ、それと金の羽ペンでもおまけにつけてやろう。」
「私としては、コラアマ王国にいるらしい可愛らしい動物が気になっておりますの。」
「へえ、そんなのがいるんだ。」
「お腹の袋で子育てするらしいですわ。」
「ふーん、コアラかな……。」
外遊にあたり、連れて行くのはアイラとシノブに決めていた。何かあった時の戦力になるからだ。
アイラの箒に自動小銃型魔道具と同じ機能を追加し、シノブの懐刀にも同様の機能を付与した。
自分用はどうするか考えて、考えているうちに自動小銃とバズーカが10丁ほど出来上がっていた。まあ、軍隊を作るわけじゃないけど、とりあえず収納に保管した。そこで、ふと思いついてスチーム付きのアイロンとヘアーアイロンを作った。こちらも10台ずつだ。マリアンヌに見せたら、速攻で商品化してくるといいながら出かけて行った。ソフィア用に城と自宅に常備し、王妃のメイドと母さんのメイドに渡しておいた。これも反応がよかったので、各国の手土産候補にしておくかな。
「ダメだ。護身用の武器が思いつかない……。そうだ!」
ボールペンのインクの蓋の穴を塞ぎ、インクには油を加えて粘性を与えた。そしてインクを入れた後でゴム栓を押し込んで中の空気を圧縮してやる。試し書きをしたところ、書き味に遜色はなかった。横にしても振ってもインク漏れはないので、キャップを作って体裁を整え、お尻側を少し削って射出孔にして魔石と魔導線を組み込む。魔石には水を発生して射出する魔法式が書いてあった。水の勢いを増して、より細い水流にしていく。何度目かの書き換えで満足のいくものとなった。10m離れて石を瞬時に切断できたのだ。
ソフィアには服飾ギルドに特注して青と緑と黒のスーツを作ってもらった。下はタイトスカートだ。
「最近、身長が伸びてしまってお洋服のサイズが合わなかったんです。胸とおしりもきつくなってきたし……。とても助かりますわ。」
「うん。女性らしい柔らかなシルエットになってきたね。」
「きっと、どなたかが毎日触るからですわ。」
「お願いだから、人前で滅多なこと言わないでくださいね。」
「あら、職場では割とオープンに話すんですよ。」
背中を冷汗がつたわった。外務局ではどんな話をしているんだろうか……。
やがて、各国との調整も終わり、五か国の訪問が正式決定した。
同行するメンバーは、ソフィアと俺、外務局スタッフ2名とアイラにシノブの6名だ。全員の荷物は、俺の収納に入れていくので、艇内はゆったりしている。
とある晴れた日、俺たちは飛空艇で出発した。最初の訪問国はヤポネだ。ほぼ200km/時で5時間、およそ1000kmの距離だという。直前に改造して、トイレも備え付けてある。搭載してあるコンパスと、時折見える小島を頼りに、高度50mほどを維持して飛行する。船の場合は、風向きにもよるが二日から四日かかるらしい。推進機の注文が殺到するのも当然だろう。
ヤップへの推進機が普及したころ、ハリから大型専用の推進機開発の要望が出た。基本的には俺の戦闘艇があるので魔法式や魔道具に問題はないのだが、海から引き上げて改造する必要がある。航海技術が一番進んでいるのはコラアマ王国で、ほとんどの大型船はコラアマ王国で建造されたと聞く。したがって、魔法局の職員がコラアマ王国へ派遣される形で調整が進められているらしい。ちなみに、わが国で所有する大型船は俺が収納に納めて、船体強化を含めて改造済みである。推進機の装着により、安定して時速35kmが実現できたらしい。出力はもっと上げられるのだが、強化した船体でもこれ以上は厳しいと思う。
やがて、俺たちはヤップ王国を視界に収めた。首都のマヤトはもう少し北東に進んだところだ。
記憶にある日本は、東海岸沿いに北上し、九州・四国を超えて内陸に入ったあたりがマヤト朝廷だったか……。
記憶通りの場所に、大きな町が広がっていた。
【あとがき】
外交編のスタートです。
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