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第五章 結婚
第98話 ハリ再び
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ハリについたのは昼前だった。この世界では昼食というのは食べないことが多い。
「こうやって二人で歩いていると、デートみたいだな。」
「デートにメイド服で箒を持ってくる女の子なんていないと思うよ。」
「ここにいるだろ。」
「だから結婚できないんだよ。」
「そういうことをいうと、今朝みたいに乳を吸わせてやらないぞ。」
「し、仕方ないだろ。起きたら目の前にあったんだから……。」
そんな会話をかわしながら商店街を歩いていたら、港の方が騒がしくなった。
「行ってみよう。」
「何かあったんですか?」
「ああ、外国の船がクラーケンに襲われたらしい。」
「クラーケンって?」
「タコの怪物だよ。ほら、あそこの船。マストが一本折れてるだろ。船体も半壊の状態らしい。」
タコと聞いて、無性にタコ焼きが食べたくなった。
「そういえば、しばらくタコをたべてないな……。」
「おいおい、タコなんて食えるわけないだろ。海の悪魔なんだぞ。」
「そうか、醤油かソースがないと食えないか……」
「醤油?魚醤なら売ってるぞ。」
「魚醤……あるんですか?」
「うん?旅のモンか。魚醤がなかったら魚が食えないだろう。」
「あとはワサビがあれば……。」
「ワサビだって売ってるよ。外国産だから値は張るがな。」
そう聞いた瞬間、俺の頭の中はタコワサでいっぱいになってしまった。そうか、前回はフルーツばかり目についたから気づかなかったのか。
「アイラ、クラーケンの情報を聞きにいこう!」
「それなら冒険者ギルドの方が早いだろ。」
冒険者ギルドには、思った通り情報が集まっていた。緊急討伐依頼は張り出されていなかったが、受付には届いていた。
「その依頼を受けたいんですが。」
「それは助かりますが、こちらはSランクの依頼ですよ。」
「ああ。俺がSランクだ。」
「えっ、あっ、本物なんですね!この町にSランクの方がいらっしゃるとは思えなかったんで、ヤップに応援依頼をするところだったんです。今、ギルマスを呼んでまいりますから応接でお待ちください。」
俺たちは応接に通された。待つこともなく禿げた爺さんがやってきた。
「おっ、タコじゃねえか。」
「アイラ、それは……。」
「うっ、冥途のアリサ……」
「誰が冥途なんだよ!」
二人は顔見知りのようだ。
「まさか、お前さんがこの町にいるとはな。アノーラに指名討伐をかけようとしていたところだったんだ。」
「まあ、アタイら二人で大丈夫だろう。アノーラも忙しいしな。」
「こちらは?」
「アタイのご主人で、タウ教育局長だ。一週間前に来たばかりだから、名前くらいは知ってるだろう。」
「えっ、まさかあの……奇跡の医師タウ様で……」
「そのタウだぞ。」
「ですが、医師では戦闘の役には……」
「タウもAランクだぞ。」
「まさか……」
俺は冒険者カードを提示した。
「ほ、本物……、だが船はどうする。皆怖がって船など出してはくれんぞ。」
「大丈夫だ。超強力な船がある。昨日、アノーラの船も強化してきたところだが、それよりも遥かに強力な戦闘艦だからな。」
「二人で船は動かせんだろう。」
「安心しろ。帆船じゃねえから船はタウが一人で動かせる。あとは俺が仕留めるだけだろ。」
「帆船じゃないって、まさか漕ぐのか?」
「バカじゃねえのか。この体で船が漕げるもんかよ。魔道具に決まってるだろ!」
「魔道具の船など聞いたことがないぞ。」
「ああ。昨日ヤップでお披露目したばかりだからな。まあいい。クラーケンの出没はどのへんなんだ。」
ギルマスはテーブルに地図を広げた。
「湾の入口。この二つの岬がせり出したところなんだ。一番やっかいな場所に現れたんで緊急に対処せんと被害が拡大してしまう。」
「そこならこっからでも見えるんじゃねえか?まあいいや。報酬は?」
「討伐で金貨50枚。追い払うだけでも金貨10枚だ。」
「ほかに条件や制約はないんですか?」
「ああ。条件はない。」
「よっしゃ、タウ行こうぜ!」
その時だった、受付嬢が駆け込んできた。
「ギルマス、また外国の船が襲われています!」
「またか!」
「アイラ、行くぞ!」
「おう。」
海辺まで走って船を出す。乗り込むと同時に発進させ全速力にもっていく。時折宙を飛ぶが我慢だ。およそ10分ほどで船に近づき減速する。
「あれがクラーケン。」
「ああ、でかいな。」
避けられない距離まで近づいて、アイラが主砲を2発連続でぶっぱなした。2本の氷の杭がクラーケンの足にヒットした。
「足じゃダメだ。頭を狙って。」
「主砲じゃ細かい照準は無理だ。バズーカと自動小銃をくれ!」
俺は収納から両方を取り出してアイラに渡した。
「命綱を忘れないで!」
「承知!」
アイラはデッキに飛び出していった。俺は大きく舵を切り、回り込んで反対からのコースに持っていく。時折伸びてくる足を左右に避けながらタコに向かっていく。
足は自動小銃で焼き払いながら、バズーカはまだ撃っていない。
ギリギリまで近づいたところで、バズーカの氷槍三連射がタコにヒットする。タコはズズズズッと船から離れて海中に沈んでいく。だが俺は油断せず、スピードを緩めないまま円を描いて移動していった。
突然船の前に足が立ちふさがった。俺は主砲を火球に切り替えぶっぱなす。直径1mの火球が直撃した足は千切れとんだ。そこから反転してさらに一本の足を葬り巡行する。
次に直進コースを選んだ時、2本の足が出現した。その先に頭が浮かび上がる。足の間から頭を狙うと、アイラが2連射で足を吹っ飛ばし、主砲が頭を吹き飛ばした。
沈む前にタコを収納に収める。沈む前の足も回収できた。
俺は襲われていた船に近寄って声をかけた。
「自力で港にいけますか?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう!」
港に到着すると俺たちは大きな声援で迎えられた。アイラは得意げに手を振って応えている。
真っ先にギルマスが駆け寄ってきた。
「ありがとう。よくやってくれた。」
「タコは出しますか?」
「ああ、広場で見せてくれ。」
広場で収納から出すと、頭から足の先まで28mというとんでもないサイズだった。
「これ、足を広げたら30mいきそうだな。」
「なんでもいいから早く食べてみたいですよ。」
「おまえ、これを食うつもりなのかよ!」
「旨そうですよ。吸盤のコリっとした感じがいいんですよね。」
「悪魔を食うバケモンがいた……。」
「よう、タコ。こいつ、もうSランクでいいんじゃねぇか?」
「ああ。王都のギルマスに打診しておくよ。」
タコにはひときわ大きな魔石が2個入っていた。俺たちは魚醤とわさびを探していたのだがとんでもないモノを見つけてしまった。
それは”コメ”だった。
「こ、これは何処から入ってきたんですか?」
「ああ、東の小さな島国だったな。名前は……、ヤポンだったかな。」
「精米する前の種もみはないんですか?」
「そういえば、精米した時にこぼれたのが少しあったな。買ってくれるなら探してくるが。」
「買います。全部。」
【あとがき】
ついにコメが登場しました……って、別に膨らませる話でもないんですけどね。
「こうやって二人で歩いていると、デートみたいだな。」
「デートにメイド服で箒を持ってくる女の子なんていないと思うよ。」
「ここにいるだろ。」
「だから結婚できないんだよ。」
「そういうことをいうと、今朝みたいに乳を吸わせてやらないぞ。」
「し、仕方ないだろ。起きたら目の前にあったんだから……。」
そんな会話をかわしながら商店街を歩いていたら、港の方が騒がしくなった。
「行ってみよう。」
「何かあったんですか?」
「ああ、外国の船がクラーケンに襲われたらしい。」
「クラーケンって?」
「タコの怪物だよ。ほら、あそこの船。マストが一本折れてるだろ。船体も半壊の状態らしい。」
タコと聞いて、無性にタコ焼きが食べたくなった。
「そういえば、しばらくタコをたべてないな……。」
「おいおい、タコなんて食えるわけないだろ。海の悪魔なんだぞ。」
「そうか、醤油かソースがないと食えないか……」
「醤油?魚醤なら売ってるぞ。」
「魚醤……あるんですか?」
「うん?旅のモンか。魚醤がなかったら魚が食えないだろう。」
「あとはワサビがあれば……。」
「ワサビだって売ってるよ。外国産だから値は張るがな。」
そう聞いた瞬間、俺の頭の中はタコワサでいっぱいになってしまった。そうか、前回はフルーツばかり目についたから気づかなかったのか。
「アイラ、クラーケンの情報を聞きにいこう!」
「それなら冒険者ギルドの方が早いだろ。」
冒険者ギルドには、思った通り情報が集まっていた。緊急討伐依頼は張り出されていなかったが、受付には届いていた。
「その依頼を受けたいんですが。」
「それは助かりますが、こちらはSランクの依頼ですよ。」
「ああ。俺がSランクだ。」
「えっ、あっ、本物なんですね!この町にSランクの方がいらっしゃるとは思えなかったんで、ヤップに応援依頼をするところだったんです。今、ギルマスを呼んでまいりますから応接でお待ちください。」
俺たちは応接に通された。待つこともなく禿げた爺さんがやってきた。
「おっ、タコじゃねえか。」
「アイラ、それは……。」
「うっ、冥途のアリサ……」
「誰が冥途なんだよ!」
二人は顔見知りのようだ。
「まさか、お前さんがこの町にいるとはな。アノーラに指名討伐をかけようとしていたところだったんだ。」
「まあ、アタイら二人で大丈夫だろう。アノーラも忙しいしな。」
「こちらは?」
「アタイのご主人で、タウ教育局長だ。一週間前に来たばかりだから、名前くらいは知ってるだろう。」
「えっ、まさかあの……奇跡の医師タウ様で……」
「そのタウだぞ。」
「ですが、医師では戦闘の役には……」
「タウもAランクだぞ。」
「まさか……」
俺は冒険者カードを提示した。
「ほ、本物……、だが船はどうする。皆怖がって船など出してはくれんぞ。」
「大丈夫だ。超強力な船がある。昨日、アノーラの船も強化してきたところだが、それよりも遥かに強力な戦闘艦だからな。」
「二人で船は動かせんだろう。」
「安心しろ。帆船じゃねえから船はタウが一人で動かせる。あとは俺が仕留めるだけだろ。」
「帆船じゃないって、まさか漕ぐのか?」
「バカじゃねえのか。この体で船が漕げるもんかよ。魔道具に決まってるだろ!」
「魔道具の船など聞いたことがないぞ。」
「ああ。昨日ヤップでお披露目したばかりだからな。まあいい。クラーケンの出没はどのへんなんだ。」
ギルマスはテーブルに地図を広げた。
「湾の入口。この二つの岬がせり出したところなんだ。一番やっかいな場所に現れたんで緊急に対処せんと被害が拡大してしまう。」
「そこならこっからでも見えるんじゃねえか?まあいいや。報酬は?」
「討伐で金貨50枚。追い払うだけでも金貨10枚だ。」
「ほかに条件や制約はないんですか?」
「ああ。条件はない。」
「よっしゃ、タウ行こうぜ!」
その時だった、受付嬢が駆け込んできた。
「ギルマス、また外国の船が襲われています!」
「またか!」
「アイラ、行くぞ!」
「おう。」
海辺まで走って船を出す。乗り込むと同時に発進させ全速力にもっていく。時折宙を飛ぶが我慢だ。およそ10分ほどで船に近づき減速する。
「あれがクラーケン。」
「ああ、でかいな。」
避けられない距離まで近づいて、アイラが主砲を2発連続でぶっぱなした。2本の氷の杭がクラーケンの足にヒットした。
「足じゃダメだ。頭を狙って。」
「主砲じゃ細かい照準は無理だ。バズーカと自動小銃をくれ!」
俺は収納から両方を取り出してアイラに渡した。
「命綱を忘れないで!」
「承知!」
アイラはデッキに飛び出していった。俺は大きく舵を切り、回り込んで反対からのコースに持っていく。時折伸びてくる足を左右に避けながらタコに向かっていく。
足は自動小銃で焼き払いながら、バズーカはまだ撃っていない。
ギリギリまで近づいたところで、バズーカの氷槍三連射がタコにヒットする。タコはズズズズッと船から離れて海中に沈んでいく。だが俺は油断せず、スピードを緩めないまま円を描いて移動していった。
突然船の前に足が立ちふさがった。俺は主砲を火球に切り替えぶっぱなす。直径1mの火球が直撃した足は千切れとんだ。そこから反転してさらに一本の足を葬り巡行する。
次に直進コースを選んだ時、2本の足が出現した。その先に頭が浮かび上がる。足の間から頭を狙うと、アイラが2連射で足を吹っ飛ばし、主砲が頭を吹き飛ばした。
沈む前にタコを収納に収める。沈む前の足も回収できた。
俺は襲われていた船に近寄って声をかけた。
「自力で港にいけますか?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう!」
港に到着すると俺たちは大きな声援で迎えられた。アイラは得意げに手を振って応えている。
真っ先にギルマスが駆け寄ってきた。
「ありがとう。よくやってくれた。」
「タコは出しますか?」
「ああ、広場で見せてくれ。」
広場で収納から出すと、頭から足の先まで28mというとんでもないサイズだった。
「これ、足を広げたら30mいきそうだな。」
「なんでもいいから早く食べてみたいですよ。」
「おまえ、これを食うつもりなのかよ!」
「旨そうですよ。吸盤のコリっとした感じがいいんですよね。」
「悪魔を食うバケモンがいた……。」
「よう、タコ。こいつ、もうSランクでいいんじゃねぇか?」
「ああ。王都のギルマスに打診しておくよ。」
タコにはひときわ大きな魔石が2個入っていた。俺たちは魚醤とわさびを探していたのだがとんでもないモノを見つけてしまった。
それは”コメ”だった。
「こ、これは何処から入ってきたんですか?」
「ああ、東の小さな島国だったな。名前は……、ヤポンだったかな。」
「精米する前の種もみはないんですか?」
「そういえば、精米した時にこぼれたのが少しあったな。買ってくれるなら探してくるが。」
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