7人のメイド物語

モモん

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第五章 結婚

外伝1 ジャニスの里帰り(2)

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 異例の出世を続ける主に仕えるボクたちは、メイド仲間から羨望のまなざしを向けられています。
 メイドの追加募集はしないのか?とか、空きができたら教えてほしいなどの希望を聞きますが、正直なところメイドの仕事はエリス一人でも大丈夫なのです。
 ただ、屋敷の敷地から出られないエリスは、主の外出に付いていくことはできません。それに、ボクのやっているように、全般を仕切るような仕事にも向いていません。ボクたちは、それぞれ特化した才能を活かして主をサポートしているのです。
 アイラの戦闘力、シノブの情報収集力、イグリッドの力と鍛冶、マリアンヌの商才、ミーシャの料理感覚。普通のメイドにはない、これらの能力で主をサポートしているのです。
 主は思いついたものを形にして、ボクたちにその先の展開を任せてくれます。おかげで、当家の資産は王国の国家予算規模にまで膨れ上がっています。
 主は、城からの給金は自分で使い、それ以外の収入はボクたちに一任してくれます。
 それ以外といっても、とんでもない額になります。直営店がスイーツ×2・雑貨・惣菜×2・アクセサリーの6店舗あり、砂糖・玉子の卸しに加えて、竹ペン・リバーシ・板バネ・ブラ・パンティー・冷蔵庫等のアイデア料。
 今、屋敷の周辺1キロ程度の土地は当家で保有しており、その敷地に菓子工場・雑貨工場・総菜工場・砂糖工場・養鶏場が立ち並んでいます。それに加えて、主は最近魔法式を覚え、自動馬車や飛空艇等のとうんでもない乗り物の開発に携わっています。これらも多分商業化していくでしょう。

 このように、将来的な不安が全くない環境で充実した日々を送るボクたちは、誰一人として辞めようとはしません。主の”家のことは任せます”という一言が皆の責任感を刺激したんです。与えられた仕事ではなく、自発的に考えて動くという、これほどやりがいのある職場は皆初めてなんです。
 里の父はこの気持ちを分かってくれるでしょうか……。
 私は家の横に馬車を停めて家の中に入った。
「ただいま。」
「ジャ……ジャニス……。おかえりなさい。」
 そう言って迎えてくれたのは母でした。
「ほら、あなたジャニスですよ。」
「そんなとこに突っ立ってないで入らんか。」
 相変わらずぶっきらぼうの父でした。ボクは父の前に座り突然の家出を詫びました。
「突然、家を出てしまいごめんなさい。」
「その話はもういい。今はどうなんだ。」
「とびきりの主に出会えました。あの方の元で働けることに感謝しています。」
「そのことは聞いた。結婚はできたのか?」
「残念ながら、そういう出会いには恵まれませんでした。でも、最高の師に出会い、仲間にも恵まれて今の主の元で働いている幸せには代えられません。」
「そうか。お前が幸せだというのならそれもいいだろう。」
「ありがとうございます。」
 心底驚いた。父が今の生き方を認めてくれるなんて……。
「医師にもなれたそうだな。どうだ、里に戻って医師になる気はないのか?」
「申し訳ございません。今の主の元で世の中を変えていくお手伝いができる方が、私には合っています。」
「そうか。分かった。タウ殿の元でなら、そういう選択支もありなんだろうな。」
「ご理解いただけるんですか?」
「あの男を知ってしまった以上、認めない訳にはいかんだろう。」
「お父様、その改革のために、里の助力をお願いできないでしょうか。」
「メロンなら全面的に協力することになっているが?」
「それとは別の試みです。お父様、一年中青物が食べられるというのは可能だと思いますか?」
「……、あの男は、それが可能だというのか……。」
「はい。建物の中を適温にして、光を確保すれば可能なのだそうです。」
「室内に畑を作るというのかよ……。だが、実現できたとしても、微々たる量だろう。」
「それは、巨大な建物をいくつも作ることで解決します。何種類もというのは無理がありますけど、例えばレタスなどは水だけで栽培可能だそうです。」
「本気なんだな。」
「はい。次の冬に間に合うように始める予定です。」
「まあ、冬場はすることもないからな。里の者も仕事があるのならば協力するだろうが……。」
「では、14日後までに30人確保してください。送迎の馬車はこちらで手配いたします。住み込みがよければ、住むところも用意します。畑仕事なので、女性でも構いません。」
「お前、変わったな。まあ、これがあの男の元で働くという事か。」
「そうですね。この程度の交渉をまとめられないようでは、主のお役に立てませんから。」

 私はお母さんに手土産のスイーツを渡して再会を喜びました。お義姉さんにもご挨拶。
「この子がジュリちゃんね、ボクはジャニス。あなたのお父さんの妹よ、よろしくね。」
「ジュリです。タウお兄ちゃんのところに住んでるんでしょ。羨ましいなぁ。」
「いつでも遊びに来ていいんだよ。」
「ホント!いく!今日から行っていいの?」
「今日……、それは……。」
「ジュリ、そんな無理を言うんじゃないの。」
「えーっ、ダメなの?」
「いや、うちはいいんだけど……。ボクは一人部屋だからいくらでも泊まれるしね。」
「お母さん、ダメ?」
「じゃあ、お父さんが帰ってきたら聞いてみましょうね。」
「うん!」
 ボクには厳しかった兄ですが、娘には甘々で簡単に篭絡されてしまいました。こうして、ジュリは14日間のお試しで屋敷に来ることになったのです。

「おおジュリ、来てたのか。」
「うん、お兄ちゃんよろしくお願いします。」
「それじゃあ、今晩からやろうな。ジャニス、寝る前にそろばんを一時間教えてあげて。」
「はい。承知いたしました。」
「ミーシャ、午前中に90分を2回、スイーツの特訓をしてあげて。」
「はい。」
「シノブ、午後90分2回の裁縫コースよろしくね。」
「了解でござる。」
「えっ?」
「アイラは、その後で護身術を一時間教えてあげてね。」
「へえ、俺の出番もあるんだ。了解だぜ。」
「ええっ?」
「ちゃんと、筋力もつけてもらわないといけないからね。そうだジャニス、空いている時間で言葉遣いも教えてください。」
「はい。」
「えええっ!」
 こうして、ジュリのお試し……いえ、特訓が始まりました。

「お爺様、お母さま、ただいま戻りました。」
「ジュ、ジュリ……、何があったんだ……。」
「いやですわ、ジュリはもうレディーですから。」
「……。」

 ジュリはこれからも、月の半分を屋敷で訓練することになりました。
 そう、これはどう見てもワイルズ家メイド育成コースなのです。

【あとがき】
 外電1、ジャニス編でした。今後もメイドさん視点の外伝を書きたいなと思っています。
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