7人のメイド物語

モモん

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第五章 結婚

第89話 アノーラ

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「漁師ということは、船をお持ちなんですか?」
「はい、小さい船ですが……」
「小さいとかいうなよ。クルーが5人もいれば立派な海賊船だろう。」
「海賊船いうなっ!悪事は働いちゃいねえ!」
「へえ、船かぁ、よかったら見せてもらえませんか?」
「えっ、あたいの船をですか……。」
 アノーラの船は、全長15mくらいか、一本マストの立派な船だった。
「もう、ボロボロなんで、そろそろ作り直しの時期なんですが、やっぱり愛着があって……」
「タウ、何とかできねえか?」
「やってもいいならやりますけど。」
「えっ?」
 クルーは不在だったので、アノーラの了解をとって収納へ取り込み、そして修復した。
「やっぱり、船底や側面が傷だらけだったので、ステンレスで覆っておきました。」
「えっ、えっ?」
「タウ、ついでに船首に大弓をつけたらどうだ。」
「それいいですね。」
 俺は収納から取り出した大弓に、さび止めの塗装を施して船首に設置した。ついでに、矢を収納しておくケースもアルミで作った。
「主、船体の補強ができたんですから、魔道具を使って推進力をあげては如何ですか?」
「ジェット推進ですか。それは次回にしましょう。」
「じ、次回?」
「いやあ、これならどっから見ても海賊船だぜ。刈上げ海賊団だな。」
「いえ、軍の船、軍艦でしょう。」
 帆の形状もバランスをとって少し変えてある。クルー達も戻ってきたようだ。
「あ、姉御……これは一体……」
「あ、あたいにもよく分からない……」
「主、そろそろ時間の方が。」
「あ、そうだね。じゃ、アノーラ楽しかったよ。またね。」
「おう、アノーラ、また来るぜ。」
「……あ、あ、……」

 対話集会では、お風呂への官舎に始まり、学び舎入学に対する町への優遇措置などが話題となった。
「やっぱり、通えないですし、王都に身寄りのない子供はどうしても辞退するしかありません。どうにか対策を考えていただけないでしょうか。」
「教育局長のタウです。学び舎はまだ始まったばかりですが、近い将来には居住できる寮を整備して、その辺の対応をしていきたいと考えています。具体的には……そうですね、3年以内には実現いたします。」
 これは母さんとも相談していることだ。2年で実現できるだろう。生活費の無償化まで対応できるかどうかを見越して3年と回答した。
「職業コースは大変素晴らしいと思います。今後どのような構想をお持ちなのか?特に海事に関する案はないのでしょうか?」
「ご賛同くださりありがたく思います。職業コースには、来年度から魔法科を新設いたします。これは主に魔石への魔法書き込みを軸としており、魔道具の開発に貢献できると考えています。例えば、船に推進機を取り付けることで、風がなくても走ることのできる船が実現できるのではないでしょうか。これは、近いうちに実証してみたいと思います。」
 会場がざわついた。
「そんなことが可能なんですか!」
「強い推進力を持たせることで、船体の補強が必要かもしれませんね。こればかりはやってみないと分かりませんが、私の頭の中ではできています。」
 要は船外機のような仕組みだ。難しいことではない。
「実証はいつ頃なんでしょうか。先ほど港で見かけたアノーラの船でやるのでしょうか?」
「えー、本人の了解はとっていませんが、帰ってから魔道具の手配をして、三か月以内には検証してみたいと思います。」
 笑いが起きる。アノーラが嫌だと言ったら自分の船を使ってくれとか、本人の了解など必要ないという声が飛び交った。ここでは、概ね好意的に受け取られているようだ。

「なあ、タウよ。」
「はい。」
「アノーラの船とはなんだ?」
「メイドのアイラの知合いです。船を見せてもらったので、お礼にちょっと手直しさせてもらっただけですよ。」
「お前のいう”ちょっと”が信じられんのだが……なぁ。」
「それに、ちょっと見せてもらっただけですぐに改良を考えるなんて、まあタウらしいといえばそうなんですけど。」
「だが、学び舎に寮か……」
「それは、学長とも相談していたことなんです。」
「でも、必要なことですわ。それに、具体的な期限を提示することで、皆さん納得されていましたし、結果的にはよろしいかと思いますわ。」
「財務としてはどうなんだ?」
「教育局長の場合、建屋にかかる費用がありませんので、実質入る生徒の生活費程度でしょう。まったく問題ございません。」
「そうか。3年以内の実現は可能なのだな。」
「陛下、口をはさんでよろしいでしょうか?」
「どうしたソフィア、改まって。」
「予算的な問題がないのであれば、あとは教育局長が建屋を作るだけです。3年後といわず、来年度から実施しては如何でしょうか。」
「そうね。問題がないのであれば、即日実施がよいでしょう。」
「財務も同感です。」
「タウ、どうだ。」
「大丈夫です。」
 こうして、寮の新設が決まった。

 翌朝、王族は町内の巡回に出かけたが、俺は港に向かった。漁に出ているかと思ったが、船は停泊していた。
「アノーラ!」
 アイラが呼びかけるとアノーラは船から降りてきて、俺に向かって頭を下げた。
「タウ様、昨日はありがとうございました。」
「気に入ってくれた?」
「もう、完璧っす。重くなった分、帆の改善で船足は早くなったし、シーサーペントすら脅威でなくなりましたから、今日は漁場へ直行して帰ってきたっす。」
「へえ、それでねっ……」
「聞いてるっすよ。魔道具を使って改良する話ですよね。何でもお受けします。好きなようにやってください。それから、あれ持ってってください。魔石が入っているはずですし、旨いですよ。」
 アノーラの指さす先には、市場の軒からぶら下がったウミヘビみたいなのが2匹ぶら下がっていた。
「シーサーペントじゃねえか、二匹もいいのか?」
「もちろんですよ。大弓で一撃です。この先いくらでも獲れますからね。」
 一匹が12mくらいだろうか。食いでがありそうだ。俺はシーサーペントを収納に取り込んだ。シーサーペントは鋭い口先で船の側面に突撃してくるため、何度も繰り返されると沈没するらしい。ステンレスはまったく凹むことはなかったようだ。
 港から戻って皆と合流した俺たちは次の町ハリに向かった。

 ハリは交易で栄えているという。
「ソフィアはハリに行ったことがあるんだよね。どんな町なの?」
「そうですね。お店と倉庫が多いです。異国との交易が盛んなので、ファッションもちょっと変わっていますね。あっ、アクセサリーなんかも豊富ですね。」
「へえ、面白そうだね。」


【あとがき】
 アノーラ登場とソフィアの微妙な変化。これからの展開にご期待ください。
 少し目の調子と右手のしびれが辛くて執筆が困難です。
 書きタメが結構ありますので、ストックが尽きるまで連日投稿していきます。
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