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第五章 結婚
第87話 ドラゴン
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「二射、一弾撃て!」
一発が放たれ、ドラゴンの頭部が吹き飛んだ。それでも1分ほど待って隊長は戦闘終了を告げた。
「「「オオーッ!」」」
兵士たちは雄たけびをあげた。俺も小さくガッツポーズをとった。
「あそこまで精度をあげるってことは、相当訓練してんなぁ。」
「ええ、そう思います。」
近衛隊長は駆け足で陛下に報告を行い、俺の元に来た。
「タウ殿、ありがとうございます。おかげで任務を果たすことができました。」
両手をとってブンブン振ってくる。
「いえ、よくあそこまで訓練されましたね。感服いたしました。」
「やっと配備されたドラゴン用兵器ですからね。みんな死に物狂いでしたよ。」
「うんうん、分かります。ところで死体はどうしますか?」
「どうって……、まさか収納?できるのですか?」
「あの程度なら余裕ですよ。」
「できれば、持ち帰って皆に報告したいと思います。お願いできますでしょうか。」
「承知いたしました。ただ、医局の方で部位を欲しがると思いますよ。滅多に手に入らない素材ですからね。」
「我々は報告できれば問題ありません。よろしくお願いいたします。」
俺はドラゴンの死体を収納に収めた。
少し休憩して、一行は再出発した。
「タウ、ご苦労様でした。」
馬車の中で、ソフィアが俺の手に手を重ねてくれた。正直、まだ少し震えている。
ソフィアは俺の顔をその胸で包んでくれた。
「タウ。あなたは王族にして初めて正面からドラゴンに挑み、そして討伐した勇者よ。私は、その妻となることに、喜びを感じています」
一言一言を確認しながら、ソフィアは力強く言ってくれた。
「ソフィア……」
俺は顔を上げて、そしてキスをした。長い、長いキスをした。
最初の町タバンは山裾に広がる人口1万人を超える大きな町だ。王都からは北の方角になる。産業は農林業を中心としており、周辺を堀と塀で囲ってある。俺はソフィアの手をとって馬車から降ろし、陛下の傍に立った。
「タウ、何があったかは追及せんが、もう手を離した方がよかろう。」
「えっ!」「キャッ!」
俺たちは手をつないだまま歩いていてようだ……。顔が真っ赤になった。
「いやあ、教育局長の年相応なところを初めて見ましたぞ。」
「し、失礼いたしました!」
「まあ。ドラゴンに立ち向かっていった勇者さまとは思えませんね。オホホッ。」
「だが、本当に移動が楽になったものだな。」
「板バネの私の馬車でさえそう感じるのですから、特別仕様の馬車は違うのでしょうな。」
「今度、新しいのを作ってお持ちしますよ。」
「ああ、それがよかろう。年寄りに長距離は堪えるからな。」
「本当ですか!」
「財務局長にはいつもお世話になっていますから。」
「陛下、遠いところお越しいただきありがとうございます。王妃様もご健勝のようで何よりです。」
「領事パロよ。出迎えご苦労じゃ。」
「パロおじさま、おひさしゅうございます。」
「おお、姫もすっかりレディにおなりで。」
「こっちは初めてじゃろう、新任の教育局長じゃ。」
「タウ・フォンタンでございます。若輩者ですがよろしくお願いいたします。」
「おお、こちらがかの高名なタウ教育局長でございましたか。タバンを預からせていたいております、パロ・フォンタンにございます。」
「パロおじ様はお父様の従兄弟にあたりますのよ。」
「さようでございましたか。父、シーザ・フォンタンの養子に迎えていただきました。あらためてよろしくお願いします。」
「聞いておりますよ。ドラゴンに焼かれながら復活を遂げた勇者。竹ペンやリバーシ、タイヤと板バネの開発者であり学び舎の創設者。そうそう、先日この町にも井戸ポンプが設置されました。今や、タウの名を知らぬ者などおりませんぞ。」
「そのタウがな、この道中でドラゴンを克服しおったのじゃ。」
「ド、ドラゴンを?」
「タウ、パロに見せてやってくれ。」
「はい。」
俺は収納からドラゴンを取り出した。
「「「オオー!」」」「「「キャー!」」」
「大丈夫じゃ、死んでおるからな。」
「ど、どうやって……いや、大弓でございますな。」
「そうじゃ。ドラゴンと同じようにタウの袋には大弓も常備されておるのじゃ。ドラゴンの前に立ちふさがったタウが大弓を取り出して、それを近衛兵が操作して見事仕留めおった。」
「なんと!……タウよ、怖くはなかったのかい?」
「今でも足が震えていますよ。でも、やらなかったら大勢が死にますから……。」
「どうかな、ソフィアの婚約者は。」
「驚いたわ、まさしく王族の誉といえるでしょうな。姫様もよい男を見つけましたな。」
「はい。私の夫として、これ以上の方はおりませんわ。」
ソフィアは、カテーシーを加えてそう言い切った。
「これは、国の将来は安泰というしかありませんな。」
「よし、次じゃ。タウ準備はどうじゃ。」
「ちょっと待ってください。」
俺はドラゴンを収納して水脈を探る。
「うん、ここがいいです。」
「パロ。この広場を使っても良いかの?」
「別に問題はありませんが……」
「よし。タウ、やってくれ。」
「了解です。」
俺は土を圧縮して穴を開け、パイプをセットする。次に地固めをして作っておいたものをドーンと取り出す。大理石切り出しの床に、大理石をくみ上げた壁と鉄筋コンクリートの屋根。
「なんと!」
魔道具はセットしてあるので、パイプを接続する。魔道具で汲み上げられた地下水は水槽で加熱され、二か所の浴槽へ流れ込む。
「ふう。完成です。」
「まさか、これは……」
「お風呂です。」
「まいりましたな……これは。」
「ぐうの音も出ないであろうよ。」
風呂を据え付けた後で、会合の席が設けられている。公式の場なので、書記官も同席している。
「風呂の設置希望というのは、町民の最優先事項だったのですが、目の前で作られてしまうとは……。」
「学び舎の分校も、来年度には何とかしたいと思います。」
「クワッ、それも手を打ってると言われてしまったら……そうだ、タウ、うちにも姫と同い年の娘がおる。どうじゃ、乗り換えてこの街に来ぬか。」
「ブーッですわ。おじ様、私たちは愛し合っておりますので。」
「ウフフッ、わたくしもタウを手放すつもりはございませんわ。」
【あとがき】
目の調子が悪く、書き溜めていたものだけアップしています。ご迷惑をおかけいたします。
一発が放たれ、ドラゴンの頭部が吹き飛んだ。それでも1分ほど待って隊長は戦闘終了を告げた。
「「「オオーッ!」」」
兵士たちは雄たけびをあげた。俺も小さくガッツポーズをとった。
「あそこまで精度をあげるってことは、相当訓練してんなぁ。」
「ええ、そう思います。」
近衛隊長は駆け足で陛下に報告を行い、俺の元に来た。
「タウ殿、ありがとうございます。おかげで任務を果たすことができました。」
両手をとってブンブン振ってくる。
「いえ、よくあそこまで訓練されましたね。感服いたしました。」
「やっと配備されたドラゴン用兵器ですからね。みんな死に物狂いでしたよ。」
「うんうん、分かります。ところで死体はどうしますか?」
「どうって……、まさか収納?できるのですか?」
「あの程度なら余裕ですよ。」
「できれば、持ち帰って皆に報告したいと思います。お願いできますでしょうか。」
「承知いたしました。ただ、医局の方で部位を欲しがると思いますよ。滅多に手に入らない素材ですからね。」
「我々は報告できれば問題ありません。よろしくお願いいたします。」
俺はドラゴンの死体を収納に収めた。
少し休憩して、一行は再出発した。
「タウ、ご苦労様でした。」
馬車の中で、ソフィアが俺の手に手を重ねてくれた。正直、まだ少し震えている。
ソフィアは俺の顔をその胸で包んでくれた。
「タウ。あなたは王族にして初めて正面からドラゴンに挑み、そして討伐した勇者よ。私は、その妻となることに、喜びを感じています」
一言一言を確認しながら、ソフィアは力強く言ってくれた。
「ソフィア……」
俺は顔を上げて、そしてキスをした。長い、長いキスをした。
最初の町タバンは山裾に広がる人口1万人を超える大きな町だ。王都からは北の方角になる。産業は農林業を中心としており、周辺を堀と塀で囲ってある。俺はソフィアの手をとって馬車から降ろし、陛下の傍に立った。
「タウ、何があったかは追及せんが、もう手を離した方がよかろう。」
「えっ!」「キャッ!」
俺たちは手をつないだまま歩いていてようだ……。顔が真っ赤になった。
「いやあ、教育局長の年相応なところを初めて見ましたぞ。」
「し、失礼いたしました!」
「まあ。ドラゴンに立ち向かっていった勇者さまとは思えませんね。オホホッ。」
「だが、本当に移動が楽になったものだな。」
「板バネの私の馬車でさえそう感じるのですから、特別仕様の馬車は違うのでしょうな。」
「今度、新しいのを作ってお持ちしますよ。」
「ああ、それがよかろう。年寄りに長距離は堪えるからな。」
「本当ですか!」
「財務局長にはいつもお世話になっていますから。」
「陛下、遠いところお越しいただきありがとうございます。王妃様もご健勝のようで何よりです。」
「領事パロよ。出迎えご苦労じゃ。」
「パロおじさま、おひさしゅうございます。」
「おお、姫もすっかりレディにおなりで。」
「こっちは初めてじゃろう、新任の教育局長じゃ。」
「タウ・フォンタンでございます。若輩者ですがよろしくお願いいたします。」
「おお、こちらがかの高名なタウ教育局長でございましたか。タバンを預からせていたいております、パロ・フォンタンにございます。」
「パロおじ様はお父様の従兄弟にあたりますのよ。」
「さようでございましたか。父、シーザ・フォンタンの養子に迎えていただきました。あらためてよろしくお願いします。」
「聞いておりますよ。ドラゴンに焼かれながら復活を遂げた勇者。竹ペンやリバーシ、タイヤと板バネの開発者であり学び舎の創設者。そうそう、先日この町にも井戸ポンプが設置されました。今や、タウの名を知らぬ者などおりませんぞ。」
「そのタウがな、この道中でドラゴンを克服しおったのじゃ。」
「ド、ドラゴンを?」
「タウ、パロに見せてやってくれ。」
「はい。」
俺は収納からドラゴンを取り出した。
「「「オオー!」」」「「「キャー!」」」
「大丈夫じゃ、死んでおるからな。」
「ど、どうやって……いや、大弓でございますな。」
「そうじゃ。ドラゴンと同じようにタウの袋には大弓も常備されておるのじゃ。ドラゴンの前に立ちふさがったタウが大弓を取り出して、それを近衛兵が操作して見事仕留めおった。」
「なんと!……タウよ、怖くはなかったのかい?」
「今でも足が震えていますよ。でも、やらなかったら大勢が死にますから……。」
「どうかな、ソフィアの婚約者は。」
「驚いたわ、まさしく王族の誉といえるでしょうな。姫様もよい男を見つけましたな。」
「はい。私の夫として、これ以上の方はおりませんわ。」
ソフィアは、カテーシーを加えてそう言い切った。
「これは、国の将来は安泰というしかありませんな。」
「よし、次じゃ。タウ準備はどうじゃ。」
「ちょっと待ってください。」
俺はドラゴンを収納して水脈を探る。
「うん、ここがいいです。」
「パロ。この広場を使っても良いかの?」
「別に問題はありませんが……」
「よし。タウ、やってくれ。」
「了解です。」
俺は土を圧縮して穴を開け、パイプをセットする。次に地固めをして作っておいたものをドーンと取り出す。大理石切り出しの床に、大理石をくみ上げた壁と鉄筋コンクリートの屋根。
「なんと!」
魔道具はセットしてあるので、パイプを接続する。魔道具で汲み上げられた地下水は水槽で加熱され、二か所の浴槽へ流れ込む。
「ふう。完成です。」
「まさか、これは……」
「お風呂です。」
「まいりましたな……これは。」
「ぐうの音も出ないであろうよ。」
風呂を据え付けた後で、会合の席が設けられている。公式の場なので、書記官も同席している。
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「ブーッですわ。おじ様、私たちは愛し合っておりますので。」
「ウフフッ、わたくしもタウを手放すつもりはございませんわ。」
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