7人のメイド物語

モモん

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第五章 結婚

第85話 職業コース

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 各講師たちと打ち合わせをして必要な機材をそろえていく。市販されているものは購入し、そうでないものは作っていく。そうしているうちにも募集が開始された。
 各部署と調整し、受け付けは城の大広間で行われている。受け付けは教育局が対応し、そのまま面接となる。面接官はギルドなどから派遣してもらい、簡単な適性検査が行われている。
「はい。こちらの用紙に必要事項を記入してください。」
 各コースともに、識字は必須としているため、読み書きできない子はここで選別されてしまう。
「菓子職人コースですね。あちらの部屋にお進みください。」
 面接では、コースごとに部屋が分かれており、例えば菓子職人コースであれば塩・砂糖・小麦粉の識別が課題となる。服飾コースでは針使いを見るし、料理人コースは果実の皮むきだ。時々、理不尽な難癖をつけてくる貴族もいるが俺が姿を見せるとおとなしくなってしまう。一応は王族なのだ。
「どうだった?」
「やっぱり、菓子職人コースが一番人気ですね。面接通過者だけで50人いますよ。」
「薬師は少ないね。地味だから仕方ないか……」
「いえ、受け付けはそれなりにいるんですけど、やっぱり課題がむつかしいですよ。五つの植物から腹痛に効くのはどれかって、私じゃ分かりませんもの。」
「いいんだよ。それだけ慎重さが要求される仕事だからね。」
「それに、薬師コースの通過者のうち、3人は孤児院の男の子なんですけど……。」
「ああ、あいつらは普段からマッサージオイルの収集係をやっているからね。一緒に薬草の採取も頼んでいるんだよ。並みの薬師よりも知識はあるだろうな。」
「受け答えもしっかりしていて好感が持てました。あれなら文官としても即採用ですわ。他のコースでも一人から二人は孤児院の子供たちです。」
「風呂の件で偏見は減ったけど、それでも生きることに必死なんだよ。俺の補助なしでもやっていけるように独立したがっているんだ。立派なもんだよ。」
 
 結果的に孤児院からも8名が選ばれ、職業コースがスタートした。俺も講師陣も孤児院の子供を特別扱いはしない。皆平等に教育を受ける権利を持っているからだ。
「どうですかお母さん。」
「とても名前を覚えきれないわよ。優秀な子と劣っている子はすぐに覚えられるんだけど、中間の子がね……。」
「別に全員覚える必要はないでしょ。」
「そうはいかないわよ。終了証の授与は私の仕事ですからね。その時までに、顔と名前を一致させないといけないわ。それはそうとして、お姉さまどうやら本気で卒業生を狙っているみたいよ。」
「へえ、何かあったんですか?」
「時々、メイドが様子見に来るのよね。それだけじゃないわ、どこかの料理人ぽい男や見るからに服飾系の人とかね。」
「あはは、いいじゃないですか。彼らの未来が明るくなるんですから。」
「でも、生徒に何かあったらって思うと心配で……」
「わかりました。常駐の警備員をつけましょう。絶えず巡回するようにして。そうだな警備隊から3名くらい配置してもらいましょう。」
「そうできたら有難いわ。」
 城に帰って警備隊長に相談すると、すぐにでもと言ってもらえた。早速、詰め所を用意してお母さんの秘書に報告する。学び舎も人員を増やして、学長の秘書もつけてあるのだ。どうやら面会の申し込みが殺到しているらしい。

「なあ、キャシーとか有能なのをお前のところにやっちまったから、うちも人手不足なんだよな。」
「ええ、とても感謝してます。キャシーは本当に優秀ですよ。」
「今じゃ課長職だろ。なあ、助かってるよな。」
「はい。助かっています。」
「何が言いたいか、分るよな。」
「正式には卒業の二か月前から進路の相談を始めるんですが、心しておきますよ。何人くらい希望なんですか?」
「5人は欲しいな。」
「多いですね。お母さんにも言ってるんですか?」
「あいつは融通が効かないからダメだ。」
「あはは、生徒を子供のように思っていますからね。」
「多すぎるだろ。200人だぞ。」
「局長も一度視察しておいた方がいいですよ。何しろ活気がありますからね。」
「それな、局長の間でも話題になっているんだよ。一度見ておきたいってな。」
「お母さんと相談しておきますよ。」
「ああ、頼む。」

「総務局長からご要望いただきまして、各局の学び舎視察会を行います。」
「「「おお!」」」
「期日は9日後で、各局から2名の参加とさせていただきます。」
「2人かよ」「それだけ……」
「今回は王家の方々にはご遠慮いただきます。」
「タウ、なんで私たちが除け者に……」
「一度ご視察いただいていますからね。」
「くっ……」
「それから、生徒への接触は禁止いたします。卒業の2カ月前になりましたら生徒の進路希望にあわせて、各局からの募集を受け付けますのでそれまでお待ちください。なお、最近学び舎への侵入者が増えていることから、周辺を塀で囲いました。門には警備兵を配置していますので、予定のない方は敷地内へ入れなくしておりますのでご注意ください。以上です。」
「そこまでする必要があるのかね」
「生徒を守るためと、勉強に集中してもらうための措置です。ああ、それから来年度の職業コースに魔法科を新設します。これは主に魔石への書き込みに重点をおいて訓練いたします。」
「くそっ、魔法局に先を越されたか……」

 視察会も無事に終わり、俺は少しだけ手が空いた。視察会では6桁の加算を暗算でこなす生徒を見て驚き、職業コースの真剣な取り組みに驚いたりしていた。
「学び舎の方が城よりも立派なんじゃないか?」
「学長の影響力は総務局長よりも上だな。」
「やはり、屋敷に一人は迎えたいものだ。」
 などの意見が飛び交った。まあ、全体的に順調といえるだろう。

「ふう、これで少しだけゆっくりできるな。」
「普通なら何年もかけて進める規模の事業ですよ。それを一年足らずでこんな大事にしちゃうからです。」
「時間をかけたら、その分子供たちのチャンスが減るだけだよ。」
「まあ、そうなんですけどね。」
「魔法科の調整はキャシーに任せるから、好きなようにやってごらん。」
「えっ?」
「校舎は作ってあるし、講師も魔法科で選出してくれるからそんなに大変じゃないよ。人手が足りなければ増員するからさ。」
「む、無理ですよ!」
「大丈夫。キャシーならできるよ。」
 来年度の支度なども部下に任せて俺は自由になる時間を得た。俺は協力してくれた部署や団体へのお礼参りをしたかったのだ。自分の洋菓子店も増設して量産体制を作った。学び舎への納品もあるからだ。それに、王女のところにも顔を出さないと……、もう一か月ご無沙汰している。次は何を持っていけば機嫌をなおしてくれるだろうか……。


【あとがき】
 学び舎も一区切りつきました。次回からは周辺の町にスポットをあてていきます。
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