7人のメイド物語

モモん

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第五章 結婚

第83話 地下水

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「ふう、ひと段落ついたね。」
「お疲れさまでした。」
 副局長のキャシーがお茶を淹れてくれた。
「で、来年度からどうするんですか?」
「受け付けはどれくらいいってるの?」
「もう少しで400ですね。」
「げっ、予想よりも多い……」
「陛下が視察されたと広まったらもっと増えるんじゃないでしょうか。」
「どうするか……、やっぱり一年で卒業にしようかな。」
「私もそのほうがいいと思いますよ。」
「じゃあ、そこは母さんと相談するよ。それと、他のコースも作りたいんだよね。」
「他のコースですか?」
「うん。例えば料理人コース。菓子職人コース。服飾コースに鍛冶師コース、薬師コースもあった方がいいよね。」
「そ、そんなにですか……。そりゃあ、魅力的なコースだと思いますけど……」
「職人コースは、人数を少なくして20人の一年コースにするんだ。講師はそれぞれ引退したお年寄りを考えているんだけどどうかな。」
「どうかなって、もう具体的な構想があるんじゃないですか?」
「うん。ギルドのあるやつはギルドに丸投げする。場所と費用はこっちの負担でね。」
「それって……、卒業した後の働き口も確保したようなものじゃないですか……」
「ダメかな?」
「ダメなわけないじゃないですか!できたばかりの教育局なのに、そんな大きな構想があったなんて……」

 最初は総務局厚生部医療課で学び舎の構想を説明した。まだ、非常勤医師の肩書は残っているから、俺もスタッフの一人なのだ。
概ね賛同を得た俺は、元御典医で医療課の相談役でもあるジャライ医師のアポをとって自宅を訪問した。
「おお、タウじゃないか。活躍は聞いておるぞ。」
「ちょっと相談したいことがありまして。」
「これ、皆さんでどうぞ。」
 手土産に用意したスイーツを渡した。先日王妃様にお出ししたオレンジのムースだ。
「おお、ありがたい。家内とメイドたちが最近不機嫌でな。」
「まだ、王族にしかお出ししたことのないスイーツですからお試しくださいね。」
 このセリフでメイドさんの顔が一気に明るくなった。貴族ですら誰も食べたことのないスイーツというのはそれだけ貴重なんだそうだ。ジャニス医師はメイドさんに手土産を渡す。
「申し訳ございません。奥様に報告させていただきますが、そのスイーツの名前は?」
「はい、オレンジのムースです。」
「あ、ありがとうございます。」
「やれやれ、スイーツの新作というだけでこのはしゃぎようかよ。」
「も、申し訳ございません!」
「よい。家内を喜ばせてやってくれ。」
「は、はい!ありがとうございます。」
「ふう。話には聞いておったが、お前の作るスイーツの効果は凄まじいな。」
「恐縮です。」
「で、要件は?」
「はい。学び舎はご存じでしょうか。」
「うむ。近くの娘が通っておる。すごい評判のようだな。」
「今は読み書きと算術だけなんですが、ここに薬師コースを作りたいと思っているんです。」
「ほう。薬師の育成ということだな。」
「はい。その講師を探しているんですが、どなたかご紹介いただけないかと思いまして伺いました。」
「ふむ。国の将来を考えた政策じゃな。面白いじゃないか。暇を持て余している爺でいいんじゃな。」
「はい。」
「うってつけの奴がおるぞ。」
 こうして俺は薬師コースの講師を確保した。料理人は城の料理長から前任の料理長を紹介され、鍛冶ギルドと服飾ギルドも前任のギルド長を推薦してもらった。菓子職人は俺の店を手伝ってくれている中から選べばいい。

「局長、この講師の顔ぶれ……豪華すぎますよ。」
「うん?みんな暇なんだからいいじゃない。それに、お年を召されて引退されたといっても、知識は最高なんだからさ。」
 俺はこのリストを持って学長を訪問した。
「はぁ、国の将来を考えたら断れないわよね。普通コースも一年の卒業でいいんじゃないかしら。私は賛成よ。」
 産業局長へも根回しをしておく。
「お前、よくこんな面子を集めたな。現役の職人だって、この授業を受けたいって言ってくるぞ。」
 総務局長と財務局長にも説明して局長会議で提案する。
「教育局長の提案に意義はございませんか?」
「意義など挟めるものかよ。国の方策として毎年100人もの職人が育成される。しかも引退したとはいえ、一流の指導を受けてだぞ。」
「欲をいえば、建築と農業のコースも作ってほしいところですが……」
「はい。具体的な構想があれば相談させていただきます。」
「で、スタートはいつじゃ。」
「三か月後を考えています。」
「タウ、私のメイドを菓子職人コースに入れてくださらないかしら。」
「王妃よ、それはちょっと……なっ。」
「冗談ですわ。菓子職人コースの卒業生をメイドにしますから。」
「いやいや、うちのメイドに確保させてもらおうと思っておるんじゃが。」
「私のところは、全コースの卒業生を一人ずついただこう。」
「おいおい、始まってもいないのに卒業生の争奪戦かよ。」
「それだけ、信頼のおける講師陣ということですわね。これは学長も忙しくなりそうですわね。ウフフッ。」
「はい。そのため副学長を前産業局長にお願いして、職人コースの総括をしていただきます。」

 翌日から俺は学び舎の増築に入った。建物を建て、机・椅子・実習に必要な道具を拵えていく。校舎は事務棟を囲んで放射状に広げていく。もちろん、建築局や鍛冶師ギルドも応援してくれた。
「できちゃうモノなんですね。」
 今回同行したキャシーが呆けたように呟いた。
「まあ、土魔法があるからね。」
「局長の土魔法は、普通の土魔法とは違うんですよ。そもそも、金属の加工を土魔法だと言ってる人はいませんから。」
 確かに俺の属性は水で、物質制御のスキルで”加工”しているんだった。まあ、どちらでも大差ないんだが……。
「学舎は全部鉄筋コンクリートだから、地震があっても大丈夫だと思うよ。」
「地震なんて何十年に一度くらいしか起きませんよ。」
「ドラゴンにだって簡単には負けないと思うよ。そうだ、料理人コースがあるんだから水を引いてあげないといけないな。」
「でも、川は遠いですよ。」
「ちょっと待ってて。」
 俺は意識を集中して地下の水を探る。
「うん、ここがいいな。」
「何ですか?」
 物質制御で土を圧縮して井戸を作る。そこにパイプを通して上に手動式ポンプを設置した。ステンレスとゴムがあれば難しいことではない。
「何ですかそれ!」
「ナニって井戸の水をくみ上げるポンプじゃないか。」
「知りませんよ、そんなモノ!」
「あれっ、そうだっけ……。でも、使い方は簡単だよ、このレバーを上下に動かすと……。」
 ガチャコン、ガチャコンと数回動かすと水が出てきた。


【あとがき】
 手動式の井戸ポンプは、上下2箇所にゴムの弁を使った簡単な構造です。仕組みさえわかっていれば誰でも?簡単に(魔法で)作ることができます。……多分。

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