86 / 142
第四章 婚約者候補
第82話 陛下の視察
しおりを挟む
俺は王妃に学び舎の事を報告するため城に登った。
「では、エレーヌはうまくやっているのですね。」
「はい。ご本人も生き生きとされていました。」
「ならば、姉として一度視察する必要がありますわね。」
「はぁ?」
「なぁに、その、気のない返事は。」
「子供たちが委縮するのではないでしょうか?」
「じゃあ、どうしろっていうの。」
「そうですね……、ちょっと考えさせてください。」
「3日待つわ。それを過ぎたら直接学び舎に出向きますからね。」
「はあ……。」
家に帰った俺は、メイドたちに次第を打ち明けて相談した。
「何かうまい方法はないかな。」
「そうですね。王妃様のお気持ちはよく分かりますが……、ふむ、どうしたものか。」
「ジャニスでも即答できない問題を、3日で解決しろって……ふう……」
「そうですね。私なら……そう、大勢集めて王妃様が目立たないようにするのが良いと思いますよ。」
マリアンヌが金髪をかきあげて提案してくれた。
「そうか、授業参観って方法があった。」
「「「授業参観?」」」
「うん、生徒の親御さんを授業に招待して、教室の後ろで見学してもらうんだよ。」
「王妃様には、その中に紛れていただくと。確かにいいアイデアですね。」
「ジャニスもそう思うだろ。アン、ナイスアイデアだよ。」
「まあ、ウフフッ。では、ご褒美に……」
「じゃあ、早速準備に入ろう。俺はエレーヌに了解をとってくる。」
エレーヌに授業参観を提案したところ、一も二もなく快諾された。もちろん王妃のことは伏せてある。当然、総務局長には口止めをしておいた。
翌日、チラシを作って生徒に持たせる。期日は15日後の休息日。生徒の気が散るという理由で、華美でない服装をお願いしてある。
もちろん女王陛下もこの案で了解してもらった。ただし、白い馬車は使わずに王族の馬車で来るようにお願いしてある。15日なんてあっという間である。
「お待ちしておりました……って、何で三人?」
「いや、国の将来を担う事業じゃからな、わしも見ておくことにした。」
「将来の旦那様の事業ですから、私が来ないという選択肢はございませんわ。」
念のためにとミーシャとマリアンヌに来てもらってよかった。一応お茶とお茶菓子の用意はしてある。
「では、学長にご挨拶をお願いいたします。」
書記官が随行しているので、公式行事にするのだろう。俺も言葉に注意しなければ……。
学長室のドアをノックすると、入室を促す返事があった。
「学長、失礼いたします。陛下がご視察にまいられました。」
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。」
不思議なことに驚いた様子はない。俺はメイドたちに指示してお茶の用意をさせた。
「王妃様もご機嫌麗しゅう。王女様は相変わらずお美しいこと。」
「突然押しかけてすまぬのう。やはり国の未来を左右する事業しゃから一目見ておきたくてな。」
「書記官、これより先はプライベートな時間じゃ。退席なさい。」
「はっ。」
書記官は部屋から出て行った。
「お姉さま、お久しぶりです。」
「エレーヌも元気そうね。というかイキイキしてるわね。」
「だって、とんでもない息子ができちゃったから、ゆっくりさせてもらえないのよ。ソフィも気を付けないとこき使われるわよ。」
「叔母様ったら、大丈夫ですよ私には優しいんですから。」
「あらっ、タウ……」
「お、おれっ?」
「随分と扱いに差があるんじゃないの?二人とも見たことのない指輪してるし。」
「あ、明日もっていきます……」
「アハハッ、ミレーヌったら、母親に指輪を贈るなんて聞いたことないわよ。」
「お母さま、人のことは言えないと思いますけど。」
三人で大笑いしている中、王様がそっと耳打ちしてきた。
「タウ、いつもすまんな。」
「大丈夫ですよ。」
「で、今日のケーキは……オレンジね。」
「はい。オレンジのムースでございます。季節のものがよろしいかとご用意させていただきました。」
すかさずミーシャがフォローしてくれる。
「ねえ、ミーシャさんだったかしら、あなたたちもこういうの作れるのかしら?」
「私なぞの名前まで覚えていただき恐縮でございます。ご主人様の考案されたものは一通りお教えいただいております。」
「お母さま、引き抜きはダメですわ。」
「あらっ?」
「近い将来、私とタウのメイドさんになっていただくんですもの。タウのところのメイドさんって本当に優秀な方ばかりなんですもの、楽しみで仕方ないわ。」
「ケチね、いいじゃない一人くらい……。ああ、この優しい酸味……。どうしてこんなモノを思いつくのかしらねぇ。」
「お、王女様が喜んでくれるかなって……」
「タウ♪」
やばい、顔が真っ赤だろう……。でも、時々はこれくらい言わないとね。
「あーあっ、ご馳走様。ところでミレーヌ、学び舎のほうはどうなの?」
「それね、正直に言って一人の教師が同時に25人の子供を教えるってすごく効果的よ。しかも文字と計算を覚えられれば、すぐに文官として使えるじゃない。会計だけじゃなくて、どの部署も計算のできる者は重宝されるから、優秀な子は自分の部署に回してほしいって、まだまだ先の話なのにね。」
「もっと早くに思いついておればのう。」
「タウのことだから、もっと前からアイデアはあったんでしょうね。今、やっとそれを実行できる地位につけたってところでしょう。」
「こいつの頭の中には、これからの国のためになるアイデアが詰まっておるんじゃな。」
「タウ、まだ出さなくていいですからね。私と二人で素敵な国を作っていきましょうね。」
それから、各教室を回って授業風景を確認いただいた。陛下の視察となれば、当然、各教室でご挨拶をいただく。陛下から注目されているとなれば、生徒たちもより真剣になってくれるだろう。
翌日、俺はサファイアの指輪を持って学長室を訪れた。
「昨日は突然すみませんでした。」
「えっ、何が?」
「王妃様ばかりか王様までいらしてしまって。」
「ということは、当然首謀者はお姉さまよね。授業参観の話をもらった時から、予想はしていたわよ。」
「えっ?」
「親に効果を見せるだけなら、もう少し経ってからよね。この時期にそれを持ってきたということは、城の意向だろうなって。まあお姉さまが言い出したことを実現させるために考えたのよね、違う?」
「そ、その通りです。」
「まあ、生徒のやる気を上げるためにも誰か呼ぶつもりでいたけどね。」
「やっぱり、姉妹だ……」
「えっ、なぁに?」
「いえ、これ!昨日約束した指輪です。」
「あら、綺麗なグリーンね。お母さんうれしいわ。これからもいい息子でいてね、タウ。」
やっぱり、姉妹だ……。
【あとがき】
仕事の区切りがつきましたので再開させていただきます。当面は不定期更新となります。そういえば、左手のマヒで障碍者手帳の交付を受けました。右手一本での入力にはなれましたけど……。
「では、エレーヌはうまくやっているのですね。」
「はい。ご本人も生き生きとされていました。」
「ならば、姉として一度視察する必要がありますわね。」
「はぁ?」
「なぁに、その、気のない返事は。」
「子供たちが委縮するのではないでしょうか?」
「じゃあ、どうしろっていうの。」
「そうですね……、ちょっと考えさせてください。」
「3日待つわ。それを過ぎたら直接学び舎に出向きますからね。」
「はあ……。」
家に帰った俺は、メイドたちに次第を打ち明けて相談した。
「何かうまい方法はないかな。」
「そうですね。王妃様のお気持ちはよく分かりますが……、ふむ、どうしたものか。」
「ジャニスでも即答できない問題を、3日で解決しろって……ふう……」
「そうですね。私なら……そう、大勢集めて王妃様が目立たないようにするのが良いと思いますよ。」
マリアンヌが金髪をかきあげて提案してくれた。
「そうか、授業参観って方法があった。」
「「「授業参観?」」」
「うん、生徒の親御さんを授業に招待して、教室の後ろで見学してもらうんだよ。」
「王妃様には、その中に紛れていただくと。確かにいいアイデアですね。」
「ジャニスもそう思うだろ。アン、ナイスアイデアだよ。」
「まあ、ウフフッ。では、ご褒美に……」
「じゃあ、早速準備に入ろう。俺はエレーヌに了解をとってくる。」
エレーヌに授業参観を提案したところ、一も二もなく快諾された。もちろん王妃のことは伏せてある。当然、総務局長には口止めをしておいた。
翌日、チラシを作って生徒に持たせる。期日は15日後の休息日。生徒の気が散るという理由で、華美でない服装をお願いしてある。
もちろん女王陛下もこの案で了解してもらった。ただし、白い馬車は使わずに王族の馬車で来るようにお願いしてある。15日なんてあっという間である。
「お待ちしておりました……って、何で三人?」
「いや、国の将来を担う事業じゃからな、わしも見ておくことにした。」
「将来の旦那様の事業ですから、私が来ないという選択肢はございませんわ。」
念のためにとミーシャとマリアンヌに来てもらってよかった。一応お茶とお茶菓子の用意はしてある。
「では、学長にご挨拶をお願いいたします。」
書記官が随行しているので、公式行事にするのだろう。俺も言葉に注意しなければ……。
学長室のドアをノックすると、入室を促す返事があった。
「学長、失礼いたします。陛下がご視察にまいられました。」
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。」
不思議なことに驚いた様子はない。俺はメイドたちに指示してお茶の用意をさせた。
「王妃様もご機嫌麗しゅう。王女様は相変わらずお美しいこと。」
「突然押しかけてすまぬのう。やはり国の未来を左右する事業しゃから一目見ておきたくてな。」
「書記官、これより先はプライベートな時間じゃ。退席なさい。」
「はっ。」
書記官は部屋から出て行った。
「お姉さま、お久しぶりです。」
「エレーヌも元気そうね。というかイキイキしてるわね。」
「だって、とんでもない息子ができちゃったから、ゆっくりさせてもらえないのよ。ソフィも気を付けないとこき使われるわよ。」
「叔母様ったら、大丈夫ですよ私には優しいんですから。」
「あらっ、タウ……」
「お、おれっ?」
「随分と扱いに差があるんじゃないの?二人とも見たことのない指輪してるし。」
「あ、明日もっていきます……」
「アハハッ、ミレーヌったら、母親に指輪を贈るなんて聞いたことないわよ。」
「お母さま、人のことは言えないと思いますけど。」
三人で大笑いしている中、王様がそっと耳打ちしてきた。
「タウ、いつもすまんな。」
「大丈夫ですよ。」
「で、今日のケーキは……オレンジね。」
「はい。オレンジのムースでございます。季節のものがよろしいかとご用意させていただきました。」
すかさずミーシャがフォローしてくれる。
「ねえ、ミーシャさんだったかしら、あなたたちもこういうの作れるのかしら?」
「私なぞの名前まで覚えていただき恐縮でございます。ご主人様の考案されたものは一通りお教えいただいております。」
「お母さま、引き抜きはダメですわ。」
「あらっ?」
「近い将来、私とタウのメイドさんになっていただくんですもの。タウのところのメイドさんって本当に優秀な方ばかりなんですもの、楽しみで仕方ないわ。」
「ケチね、いいじゃない一人くらい……。ああ、この優しい酸味……。どうしてこんなモノを思いつくのかしらねぇ。」
「お、王女様が喜んでくれるかなって……」
「タウ♪」
やばい、顔が真っ赤だろう……。でも、時々はこれくらい言わないとね。
「あーあっ、ご馳走様。ところでミレーヌ、学び舎のほうはどうなの?」
「それね、正直に言って一人の教師が同時に25人の子供を教えるってすごく効果的よ。しかも文字と計算を覚えられれば、すぐに文官として使えるじゃない。会計だけじゃなくて、どの部署も計算のできる者は重宝されるから、優秀な子は自分の部署に回してほしいって、まだまだ先の話なのにね。」
「もっと早くに思いついておればのう。」
「タウのことだから、もっと前からアイデアはあったんでしょうね。今、やっとそれを実行できる地位につけたってところでしょう。」
「こいつの頭の中には、これからの国のためになるアイデアが詰まっておるんじゃな。」
「タウ、まだ出さなくていいですからね。私と二人で素敵な国を作っていきましょうね。」
それから、各教室を回って授業風景を確認いただいた。陛下の視察となれば、当然、各教室でご挨拶をいただく。陛下から注目されているとなれば、生徒たちもより真剣になってくれるだろう。
翌日、俺はサファイアの指輪を持って学長室を訪れた。
「昨日は突然すみませんでした。」
「えっ、何が?」
「王妃様ばかりか王様までいらしてしまって。」
「ということは、当然首謀者はお姉さまよね。授業参観の話をもらった時から、予想はしていたわよ。」
「えっ?」
「親に効果を見せるだけなら、もう少し経ってからよね。この時期にそれを持ってきたということは、城の意向だろうなって。まあお姉さまが言い出したことを実現させるために考えたのよね、違う?」
「そ、その通りです。」
「まあ、生徒のやる気を上げるためにも誰か呼ぶつもりでいたけどね。」
「やっぱり、姉妹だ……」
「えっ、なぁに?」
「いえ、これ!昨日約束した指輪です。」
「あら、綺麗なグリーンね。お母さんうれしいわ。これからもいい息子でいてね、タウ。」
やっぱり、姉妹だ……。
【あとがき】
仕事の区切りがつきましたので再開させていただきます。当面は不定期更新となります。そういえば、左手のマヒで障碍者手帳の交付を受けました。右手一本での入力にはなれましたけど……。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。




[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる