7人のメイド物語

モモん

文字の大きさ
上 下
40 / 142
第二章 医師タウ

奇跡を見せてくれ

しおりを挟む
シャニスさんにジャライ先生のアポをとってもらい、俺たちはジャライ先生を訪ねた。

「突然押しかけてしまい、申し訳ございません」

「なに、隠居爺には時間だけはあるでな。
それよりも、今回は大変だったようじゃな」

「手は尽くしたのですが……」

「聞いておるよ。
それほどの大けがを完治させた。
だが、医療課を訪れたのが遅かったために失血死したそうじゃないか」

「今日は、その関係でお邪魔しました。
これ、手土産代わりです。
みなさんで召し上がってください」

その瞬間、ジャライ家メイドの顔がパァッと明るくなったのを主人は見逃さなかった。

「はて、なんでうちのメイドが喜ぶのであろうか」

「も、申し訳ございません。
ワイルズ卿の作られる菓子類は、メイド仲間で話題になっておりますものですから……」

「ほう、タウはそれほど有名じゃったのか」

「はい。メイド仲間の間では、知らぬもののないほどに」

「まあよい。
せっかくだ、家内と一緒に皆でいただきなさい」

「あっ、ありがとうございます」

「喜んでもらえたようで、よかったです」

「で、具体的な要件は?」

「失血死の対策として、他の者から血を分けてもらう方法です」

「ふむ、御典医時代どころか、それ以前からその考えはあった。
だが、実際にやろうとすると、どうやったら良いのか画期的なアイデアはなく、最近では話題にも上らないのだが、それは知っておるか?」

「いえ、知りませんでした」

「どうやって、人から人へ血を移すつもりじゃ」

「このゴム管の両側に針をつけて、高低差を利用して直接流します」

タウは持参した資料をジャライに提示した。

「なるほど、これならば可能やもしれぬのう」

「その前に問題があります」

「なんじゃ?」

「血には種類が8っつあり、組み合わせによっては凝固してしまうのです」

「なに!全部同じ血ではないのか」

「親兄弟でもタイプが違う可能性があります。
実際にご覧いただくためにメイドを連れてきました」

「おいおい、人体実験はだめだぞ」

「血を抜くだけですから、ご心配なく」

俺はジャニスとミーシャ、それと自分の血を、注射器に抜き取った。

「その器具もこのために考えたのか」

「はい。血を移す……輸血のためには、事前のチェックは不可欠ですから。
それよりも、今からこの二つの血液を混ぜます」

「おお、ドロドロになったしまった」

「今度は、これと僕の血です」

「今度は変化せんな」

「ドロドロになる組み合わせを輸血したら、血が詰まって死んでしまいます。
ですから、最低限変化しない血を輸血する必要があります」

「まさか、そんな弊害があったとはな……」

「ほかにも、拒絶反応を起こす可能性とか、量をどうやって計るかなどの問題があります。
ですが、僕の頭の中にある知識はここまでです。
この先へ進んでよいものか……正直なところ、迷っています」

「頭の中にある知識か……
なるほどな。
タウの知識が人のそれと違うのは、頭の中にあった知識のおかげなのじゃな」

「はい」

「人を救うというのは、常に死とも向き合う必要がある。
失血死という死と戦う覚悟はできていないということか」

「あっ……」

「そういうことだ。
ここまで、実践する準備ができておるのだろう。
お前の中では、戦う覚悟はできているとわしは見た」

「は い」

「ならば、何を恐れるのじゃ。
救える命があるのなら、救って見せろ。
誰も知らない方法じゃと?
ここまで確立できた理論なら、あとは実践するだけじゃよ。
やってもいない失敗を心配するな。
もしもの時は、わしや総務局長の責任じゃよ」

「せ、先生……」

「奇跡をみせてくれるな」

「はい!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...