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第二章 医師タウ
奇跡を見せてくれ
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シャニスさんにジャライ先生のアポをとってもらい、俺たちはジャライ先生を訪ねた。
「突然押しかけてしまい、申し訳ございません」
「なに、隠居爺には時間だけはあるでな。
それよりも、今回は大変だったようじゃな」
「手は尽くしたのですが……」
「聞いておるよ。
それほどの大けがを完治させた。
だが、医療課を訪れたのが遅かったために失血死したそうじゃないか」
「今日は、その関係でお邪魔しました。
これ、手土産代わりです。
みなさんで召し上がってください」
その瞬間、ジャライ家メイドの顔がパァッと明るくなったのを主人は見逃さなかった。
「はて、なんでうちのメイドが喜ぶのであろうか」
「も、申し訳ございません。
ワイルズ卿の作られる菓子類は、メイド仲間で話題になっておりますものですから……」
「ほう、タウはそれほど有名じゃったのか」
「はい。メイド仲間の間では、知らぬもののないほどに」
「まあよい。
せっかくだ、家内と一緒に皆でいただきなさい」
「あっ、ありがとうございます」
「喜んでもらえたようで、よかったです」
「で、具体的な要件は?」
「失血死の対策として、他の者から血を分けてもらう方法です」
「ふむ、御典医時代どころか、それ以前からその考えはあった。
だが、実際にやろうとすると、どうやったら良いのか画期的なアイデアはなく、最近では話題にも上らないのだが、それは知っておるか?」
「いえ、知りませんでした」
「どうやって、人から人へ血を移すつもりじゃ」
「このゴム管の両側に針をつけて、高低差を利用して直接流します」
タウは持参した資料をジャライに提示した。
「なるほど、これならば可能やもしれぬのう」
「その前に問題があります」
「なんじゃ?」
「血には種類が8っつあり、組み合わせによっては凝固してしまうのです」
「なに!全部同じ血ではないのか」
「親兄弟でもタイプが違う可能性があります。
実際にご覧いただくためにメイドを連れてきました」
「おいおい、人体実験はだめだぞ」
「血を抜くだけですから、ご心配なく」
俺はジャニスとミーシャ、それと自分の血を、注射器に抜き取った。
「その器具もこのために考えたのか」
「はい。血を移す……輸血のためには、事前のチェックは不可欠ですから。
それよりも、今からこの二つの血液を混ぜます」
「おお、ドロドロになったしまった」
「今度は、これと僕の血です」
「今度は変化せんな」
「ドロドロになる組み合わせを輸血したら、血が詰まって死んでしまいます。
ですから、最低限変化しない血を輸血する必要があります」
「まさか、そんな弊害があったとはな……」
「ほかにも、拒絶反応を起こす可能性とか、量をどうやって計るかなどの問題があります。
ですが、僕の頭の中にある知識はここまでです。
この先へ進んでよいものか……正直なところ、迷っています」
「頭の中にある知識か……
なるほどな。
タウの知識が人のそれと違うのは、頭の中にあった知識のおかげなのじゃな」
「はい」
「人を救うというのは、常に死とも向き合う必要がある。
失血死という死と戦う覚悟はできていないということか」
「あっ……」
「そういうことだ。
ここまで、実践する準備ができておるのだろう。
お前の中では、戦う覚悟はできているとわしは見た」
「は い」
「ならば、何を恐れるのじゃ。
救える命があるのなら、救って見せろ。
誰も知らない方法じゃと?
ここまで確立できた理論なら、あとは実践するだけじゃよ。
やってもいない失敗を心配するな。
もしもの時は、わしや総務局長の責任じゃよ」
「せ、先生……」
「奇跡をみせてくれるな」
「はい!」
「突然押しかけてしまい、申し訳ございません」
「なに、隠居爺には時間だけはあるでな。
それよりも、今回は大変だったようじゃな」
「手は尽くしたのですが……」
「聞いておるよ。
それほどの大けがを完治させた。
だが、医療課を訪れたのが遅かったために失血死したそうじゃないか」
「今日は、その関係でお邪魔しました。
これ、手土産代わりです。
みなさんで召し上がってください」
その瞬間、ジャライ家メイドの顔がパァッと明るくなったのを主人は見逃さなかった。
「はて、なんでうちのメイドが喜ぶのであろうか」
「も、申し訳ございません。
ワイルズ卿の作られる菓子類は、メイド仲間で話題になっておりますものですから……」
「ほう、タウはそれほど有名じゃったのか」
「はい。メイド仲間の間では、知らぬもののないほどに」
「まあよい。
せっかくだ、家内と一緒に皆でいただきなさい」
「あっ、ありがとうございます」
「喜んでもらえたようで、よかったです」
「で、具体的な要件は?」
「失血死の対策として、他の者から血を分けてもらう方法です」
「ふむ、御典医時代どころか、それ以前からその考えはあった。
だが、実際にやろうとすると、どうやったら良いのか画期的なアイデアはなく、最近では話題にも上らないのだが、それは知っておるか?」
「いえ、知りませんでした」
「どうやって、人から人へ血を移すつもりじゃ」
「このゴム管の両側に針をつけて、高低差を利用して直接流します」
タウは持参した資料をジャライに提示した。
「なるほど、これならば可能やもしれぬのう」
「その前に問題があります」
「なんじゃ?」
「血には種類が8っつあり、組み合わせによっては凝固してしまうのです」
「なに!全部同じ血ではないのか」
「親兄弟でもタイプが違う可能性があります。
実際にご覧いただくためにメイドを連れてきました」
「おいおい、人体実験はだめだぞ」
「血を抜くだけですから、ご心配なく」
俺はジャニスとミーシャ、それと自分の血を、注射器に抜き取った。
「その器具もこのために考えたのか」
「はい。血を移す……輸血のためには、事前のチェックは不可欠ですから。
それよりも、今からこの二つの血液を混ぜます」
「おお、ドロドロになったしまった」
「今度は、これと僕の血です」
「今度は変化せんな」
「ドロドロになる組み合わせを輸血したら、血が詰まって死んでしまいます。
ですから、最低限変化しない血を輸血する必要があります」
「まさか、そんな弊害があったとはな……」
「ほかにも、拒絶反応を起こす可能性とか、量をどうやって計るかなどの問題があります。
ですが、僕の頭の中にある知識はここまでです。
この先へ進んでよいものか……正直なところ、迷っています」
「頭の中にある知識か……
なるほどな。
タウの知識が人のそれと違うのは、頭の中にあった知識のおかげなのじゃな」
「はい」
「人を救うというのは、常に死とも向き合う必要がある。
失血死という死と戦う覚悟はできていないということか」
「あっ……」
「そういうことだ。
ここまで、実践する準備ができておるのだろう。
お前の中では、戦う覚悟はできているとわしは見た」
「は い」
「ならば、何を恐れるのじゃ。
救える命があるのなら、救って見せろ。
誰も知らない方法じゃと?
ここまで確立できた理論なら、あとは実践するだけじゃよ。
やってもいない失敗を心配するな。
もしもの時は、わしや総務局長の責任じゃよ」
「せ、先生……」
「奇跡をみせてくれるな」
「はい!」
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