6 / 142
序章 転生
受勲式
しおりを挟む「ねえ、タウ」
「あう」
「黒板と竹ペンの考案者という事で、お城に呼ばれているんだ」
「ひ・お」
「ああ、国に貢献したって王様から直々に褒美を取らせたいんだってさ。
だけどね、迷っていたんだ。
タウを、そんな大勢の前に連れ出すと、辛い思いをさせるんじゃないかって」
「うう・ん」
「ああ、そうだね。
王様の前だろうと、私の息子だって堂々と……ううっ
王様にこれを贈呈してやろうじゃないか。
羽を象った金のペンだ。
私の息子が作ったんだぞって……」
母さんは大声で泣いた。
当日、朝から余所行きの服を着せられた。
七五三みたいだ。
追加で作った金の墨入れと金の羽ペンは、化粧箱に入れられ母さんが持っている。
ガタゴトガタゴト
生まれて初めての馬車は、あまり乗り心地が良くなかった。
今度、サスペンションを作ってやろうか。
城の大広間には100人ほどの男女が並んでいた。
今回の褒章は3組だという。
俺と母さんが大広間に到着すると息をのむ様子が分かった。
ヒョコヒョコと歩く姿で、それは嘲笑に変化した。
母さんが心配そうに俺を見るので、笑って返した……返せたと思う。
順に功績と名前が読み上げられ、王様の前に進む。
俺は一番最後だった。
順に勲章みたいなのと、金一封が渡され、俺たちの番になった。
「スカーレット女医の息子タウよ」
王様が不意に大きな声で話しかけてきた。
「あ、あう」
「無理をせんでもよい。
1年前にドラゴンのブレスで半身を焼かれたのは承知しておる。
動かぬ手と足で、ここまで来させたこと申し訳なく思う」
「あう」
会場がざわめく。
王様が大勢の前で詫びたのだ。前代未聞の事である。
「しかしな。見えない目と聞こえない耳。自由にならぬ指で黒板と白墨を生み出し、今また、竹ペンなる筆記具を考え出した。
黒板と白墨は、母親と筆談するため。竹ペンは、紙の無駄をなくし、誰でも読みやすい字を書くためのもの。
黒板も竹ペンも、今や城中どころか国中に普及して、筆職人を泣かせておるわ」
クスクスと笑い声が聞こえる。
俺も、ニッと笑ったつもりだ。
「一年前には、歩くこともできず、右腕はまったく動かなかったと聞く。
だが、これだけのハンデを乗り越えて回復したばかりか、これほどの功績をあげて見せるとはな。
母スカーレットよ」
「はい」
「よくぞ、ここまで育ててくれた。お前も辛かったであろう。
身動きのできぬ息子を見守り、余計な手助けをしないようにしたお前の力があったればこそ、息子はここまで成長したのだ」
「はい、ありがとうございます」
ああ、もう顔はぐしゃぐしゃだな……
「よって、ここにスカーレットを名誉男爵とし、空位であったワイルズ家の称号を与えるものとする」
「えっ」 「あっ」
パチパチパチパチパチパチ
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。


少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる